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西村盛雄:忘却
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2012年 12月 14日

西村盛雄「忘却2」2012年

24 x 28 x 28.5 cm

忘却
今回で6度目となるタグチファインアートでの個展で展示されるのは、「忘却」と題された新しいシリーズからの作品です。これらは、蓮の実をモチーフにした彫刻作品で、西村の中心的な仕事である蓮の葉をモチーフにした「甘露の雨」と同様、積層したベニヤ板の角を落として滑らかな曲線を得る、という独自の方法によって制作されています。

大徳寺禅の悟り
小堀遠州の設計した茶室「忘筌(ぼうせん)」のことが、以前から長いあいだ西村の頭にありました。忘筌は、荘子の「魚ヲ得テ筌ヲ忘ル」という句からとられています。筌は竹篭のような形の魚をとる道具で、魚を取ってしまえば必要がなくなるという意味で「筌を忘れる」。荘子の句は、目標を達成してしまえば、道具の存在を忘れる、という禅の悟りの境地をあらわしたものです。遠州はその晩年に、この洗練しきった茶室を技術も何もすべて忘れて、と言う気持ちを込めて自分のために造ったそうです。

ギリシャ神話の忘我
ギリシャ神話の「オデュッセイア」もまた、作家の関心を惹いていました。そのなかにこんな逸話があります。トロイ戦争のきっかけを生んでしまったオデュッセウスは、ポセイドンの怒りに触れ、海をさまよいリビュアというところにたどりつきます。ここの住人はロトス(Lotos)の実を食し、その実を食べると天国を感じ、恍惚として全てを忘れてしまう忘我の境地に落ち入ってしまう。オデッセウスは、上陸に当たって三人の従者を先に送るのですが、三人とも忘我してしまい、結局従者達をやっとの思いで船に連れ戻すはめになる。ロータス(Lotus)の語源は、ここから来ているとされています。

「大徳寺禅と遠州の美と思想」、そして「天国を感じる忘我の境地」、両者が作家のなかで相互にあいまみえたところで、今回の作品が作られています。是非ご高覧下さい。

[作家プロフィール]
西村盛雄は1960年東京都生まれ、1985年多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。国内で何度か作品を発表した後、1991年にドイツ政府給費留学生(DAAD)として渡独。1995年にデュッセルドルフ美術アカデミーで G. ユッカーによりマイスター・シューラーを取得しました。1998年から1年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてヨハネス・グーテンベルグ・マインツ大学造形芸術学部文化精神学科に在籍し、宗教と現代美術について研究。その後2年半にわたり同学科に講師として留まりました。2001年には \"2001/2002年度クンスト・スタチオン・聖ペーター教会の芸術家\" というタイトルを受け、以来ドイツを拠点に制作活動を続けています。


全文提供:タグチファインアート
会期:2013年1月12日(土)~2013年2月9日(土)
時間:13:00-19:00
休日:日月
会場:タグチファインアート
最終更新 2013年 1月 12日
 

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