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松村有輝:泥の中の金
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 3月 31日

Copyright © Yuuki MATSUMURA | Courtesy of Take Ninagawa

この度、Take Ninagawaでは、2007年に京都市立芸術大学修士課程を終了し、現在は東京を拠点に活躍する彫刻家、松村有輝の個展を「泥の中の金」と題しまして2009年4月4日より5月2日まで開催する運びとなりました。知覚、日常、再生をテーマに追求する松村のTake Ninagawa初個展となる今展では、アルミ、木材、ファブリックなど、日常的な素材のもつ錬金術的特性に焦点を当てた新作をご紹介致します。

例えば、新作のひとつに鋳造アルミニウムを素材にした三つの無題の彫刻があります。鮮明な原色で彩られたその彫刻は、一見紙くずをぐしゃぐしゃにしただけのようですが、三つともが全く同じ形をしています。自動車事故現場を通りかかったときにこの彫刻作品のインスパイアをうけたと話す松村は、ランダムに折り曲がった自動車の鉄や、その歪みを生み出す極度の衝撃に魅力を感じ、事故に遭った車の破片を出来る限り正確に、また幾つも再現することを試みました。同じ作品をマルチプルにコピーすることで、神による一回限りの仕業を、再生可能な彫像へ変貌させるという衝動の不条理さを強調しています。同じように、「ボキ」(2008)という作品は、スタジオで偶然見つけた二つに折れた木片の再現を試みた作品です。頭の中にあるイメージを完璧に再現できるまで、いくつもの木片を折り続けました。

上記のように、異常な出来事と完璧な技術との間でダイナミズムと戯れる作品に加え、もう一方では、人が使用することを通して、素材が意義を獲得していく方法を研究しています。例えば、Tシャツに覆われた彫像のような、ある無題の彫刻作品があります。Tシャツはグロテスクに膨らんでいて、近くに寄って見ると、その彫像は何層にも丸められたTシャツで出来ていることがわかります。この作品で使われたTシャツはすべて作家本人が実際に着ていたもので、アートの素材になる前は、寝室の床に脱ぎ捨てられ積み重なったものでした。着られてまた床に脱ぎ捨てられるという日常経験の蓄積は、ただのTシャツがアイデンティティを獲得するための重要な変遷であったことが伺えます。

展覧会のメインピースとなるのは、サイトスペシフィックな作品「Flesh」(2009)です。ポルノ雑誌の何百枚にも渡るページをしわくちゃにして積み上げたこの作品は、裸のモデルの身体を目立たせるように、また同時に歪めるように、一枚一枚をしわくちゃに丸めてあります。ここにポルノ雑誌の物質的性質である、紙の光沢や写真の色調に対する松村のレスポンスが見てとれます。同時に、人々の欲望の受け皿としてのポルノ雑誌との戯れが、満たされないファンタジーの蓄積として素材の本質をとらえ、作品に彫刻的だけでなく心理的なボリュームを与えています。

※全文提供: Take Ninagawa

最終更新 2009年 4月 04日
 

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