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加藤翼:深川、フューチャー、ヒューマニティ
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 8月 24日

Copyright© Tsubasa Kato | 画像提供:無人島プロダクション

自身の制作の動機と表現行為において、「当事者と当事者でない間の距離をどう埋めるか?」という大きな命題を掲げる加藤のプロジェクトは、これまで「引き倒し」と説明されてきました。しかし東日本大震災以後、あらためて「引き興し」と自らのプロジェクトに名前をつけ、これまで構造物を(ただ)正面から引っぱり倒してきたものを、他方向から力のバランスをとり、ゆっくりと構造物を引き起こすことに変化させたことで、目の前で大きな構造物が倒れた時の一瞬の共有感ではなく、引き興す際にゆっくりと立ち上がっていく時間の共有体験を生み出しました。そこには「人間性の再起」をテーマに「みんなで力を合わせる」という目的に立ち向かい続けてきた加藤の「今こそ一つになり、日本を押し上げたい」という強い意志が込められています。

本展「深川、フューチャー、ヒューマニティ」では、無人島プロダクションスペースのほぼ1/1サイズ(約5.8m×6,7m×2.7m)の構造物を制作し、会場内に設置します。スペースの中にスペースが入る、入れ子状態の展示です。その構造物にはいくつか穴があけられ、そこからはこれまで加藤が行ってきたプロジェクトの映像がみられるしかけになります。またその「木製スペース」はいったん木場公園に移動し、8/7に「引き興しイベント」を開催します(下記「引き興しイベント概要」参照)。構造物からのびるロープを三好、深川界隈の人々、さらには道行く人々や木場まで足を運んだ人々を巻き込み、構造物をゆっくり引き興します。また、イベント後には無人島プロダクションにドキュメントを展示し、その場で起きた光景を追体験していただけます。

今もなお被災地に足を運び続ける加藤は、東日本大震災以前よりも増して「当事者と当事者以外」ということを意識するようになったと言います。プロジェクトに内在するプライベートとパブリックの関係性や、両者の垣根が超えられる瞬間を巧みに作り出し、一人では不可能なことを他者との協働で可能にするコミュニケーションの有り様を模索する加藤の作品世界をご覧ください。

全文提供: 無人島プロダクション


会期: 2011年7月23日(土)-2011年8月27日(土)
会場: 無人島プロダクション

最終更新 2011年 7月 23日
 

編集部ノート    執筆:結城 なつみ


Copyright© Tsubasa Kato
画像提供:無人島プロダクション

    会場入口から中を覗くと、一面にベニヤ板が貼られている。まるで工事中のように見える空間が、今回の展示作品だ。この構造物の中にはところどころに穴があけられ、野外の映像が流れている。最も大きなスクリーンには、人々がなにやら綱を引いている場面が展開される。綱の先には、銀色に覆われた巨大な箱。周囲の景色が映りこんで、透明な立体物であるかのように錯覚してしまう。それと対峙する人々のあまりに一生懸命な姿に、見ているこちらも力が入る。
    この映像は、8月7日に木場公園で行われた「引き興しイベント」の様子だ。しかも、引き興されていたのは、この会場の空間そのものなのである。会場とほぼ同じ規模・形状の構造物を製作し、それを複数のパーツに分けて移動したという。作者は「当事者と当事者でない間の距離をどう埋めるか?」という命題を掲げ、こういったイベントによって作者と他者との一体感を得る。普段、私たちが過ごす建築物の部屋とほぼ同じものを引き興すことは、一人の力では無理だが、みんなで力を合わせることで可能となるのだ。
    一体となって力を合わせることは、大震災からの復興をこころざす日本にとって、もっとも必要なことである。それは私なども漠然と感じているわけだが、この作品は具体的に「力を合わせる」ことの大きさを見せてくれる装置のようだ。穴から見える映像の景色は、この空間が引き興されたその瞬間を、追体験させてくれる。


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