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加藤翼:深川、フューチャー、ヒューマニティ
編集部ノート
執筆: 結城 なつみ   
公開日: 2011年 8月 25日

Copyright© Tsubasa Kato
画像提供:無人島プロダクション

    会場入口から中を覗くと、一面にベニヤ板が貼られている。まるで工事中のように見える空間が、今回の展示作品だ。この構造物の中にはところどころに穴があけられ、野外の映像が流れている。最も大きなスクリーンには、人々がなにやら綱を引いている場面が展開される。綱の先には、銀色に覆われた巨大な箱。周囲の景色が映りこんで、透明な立体物であるかのように錯覚してしまう。それと対峙する人々のあまりに一生懸命な姿に、見ているこちらも力が入る。
    この映像は、8月7日に木場公園で行われた「引き興しイベント」の様子だ。しかも、引き興されていたのは、この会場の空間そのものなのである。会場とほぼ同じ規模・形状の構造物を製作し、それを複数のパーツに分けて移動したという。作者は「当事者と当事者でない間の距離をどう埋めるか?」という命題を掲げ、こういったイベントによって作者と他者との一体感を得る。普段、私たちが過ごす建築物の部屋とほぼ同じものを引き興すことは、一人の力では無理だが、みんなで力を合わせることで可能となるのだ。
    一体となって力を合わせることは、大震災からの復興をこころざす日本にとって、もっとも必要なことである。それは私なども漠然と感じているわけだが、この作品は具体的に「力を合わせる」ことの大きさを見せてくれる装置のようだ。穴から見える映像の景色は、この空間が引き興されたその瞬間を、追体験させてくれる。

最終更新 2011年 8月 25日
 

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