黄金町バザール2011『まちをつくるこえ』 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 7月 17日 |
今、黄金町は「売買春の街」から「アートの街」へと変貌しようとしています。長年にわたって地域の再生のために日々努力を重ねて来た地域の人たちと、行政、警察、企業、大学、そしてアーティストが、街の再生という目標に向かって活動を続けています。 2008 年以来、アーティストはこの街の新しいメンバーとして活動を始めました。アーティストにとって、街は生活し、制作をする場所であり、その意味でも街はアートが生まれる場所だと言えます。しかしそれだけではなく、街はアーティストの生活と制作に深く関わっています。現実の空間とアートは、相互に影響を及ぼしながら一方が他方を取り込むことによって、それぞれが変化しようとします。その結果、街の概念は変わり、アートの概念も変わり続けます。 アートによる街の再生というテーマのもと、2008 年より始まった『黄金町バザール』は今年で4 回目を迎えます。今回の『黄金町バザール』は「まちづくりとアート」の結びつきをより強く意識しています。まず、国内外のアーティスト約30 組が期間限定の新しい街の一員として、黄金町のアーティストの仲間に加わり、滞在制作を行ないながら、地域の人たちや、街を訪れた人たちと交流します。また、アーティスト同士や、アジアの若いキュレーターとの交流を通して、それぞれが互いの仕事について理解を深め、意見交換の機会となることをめざしています。 そして、今年は特に、この地域の経済を担って来た人たちと連携し、街の中にアートの機能と経済活動が混在する新しいタイプのコミュニティのイメージを表現する、実験的な3ヶ月間にしたいと考えています。 8 月6 日(土)-8 月31 日(水)「公開制作と展示の期間」 9 月2 日(金)-11 月6 日(日)「展示期間」 参加アーティスト 公式ウェブサイト: http://www.koganecho.net/info/bazzr2011-00.html 全文提供: NPO 法人黄金町エリアマネジメントセンター 公開制作と展示期間: 2011年8月6日(土)-2011年8月31日(水) |
最終更新 2011年 8月 06日 |
「アートによるまちの再生」を目標に掲げ、2008年から毎年開催されている黄金町バザール。今回は横浜トリエンナーレ2011の特別連携プログラムとして会期を同じくし、「まちをつくるこえ」をテーマに国内外約20組の作家を迎える。会期は8月31日までの前半と、9月2日以降の後半に分かれており、基本的に前半は制作風景の公開、後半には完成作の展示をする。(一部作家は8月20日以降より公開制作。)
商店街の各所に建ち並ぶ公開制作のスタジオは、スナックと同じ建物の中にあるものや、元小料理屋のカウンターをそのまま使ったものもあり、町の中に溶け込んでいる。8月初旬現在の段階では、展示に向けて制作途中の作品が多いが、制作過程を見るだけでなく作家本人と交流する機会も得られる。訪れるタイミングによって不在の場合もあるが、制作中の作家達は気さくに作品の経緯などを聞かせてくださった。
かわいらしくも奇妙なキャラクターを通して作家本人と人々が交流するパブリックアートで知られるさとうりさは今回、娼婦にまつわるイメージをテーマとした《メダムK》を制作していた。人間の等身大を超える巨大なキャラクターは、ぬいぐるみのように表面の布をミシンで作ってから綿を詰めるのではなく、詰め物に全身で圧をかけながら布を全て手縫いし成形している。作品を見る人が自由に触れ、足を載せるなどしても大丈夫な強度にしたいためだという。さとうによれば、小説や映画に登場する娼婦は頭がよくクールで、いつでも主人公のよき理解者である。そんな観念を、女性に対する敬称の複数形medamesでタイトルに込めている。
黄金町駅の周辺はもともと売春などの違法な営業を行う特殊飲食店が並ぶ地域であったが、2005年から摘発が進み、現在ではアートバザールを行えるほど安全な状態が保たれるようになった。黄金町バザールと連携する「初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会」はアートを通して安全なまちづくりを維持する方針のもとイベントを行ってきた。さとうは、黄金町が「浄化」される以前の歴史をも踏まえた上で、作品を通してこの町に新しい形の包容力を表現しようとしているのだろうか。
一部の作品は既に展示された状態で見ることができ、各作家がそれぞれの方法で、黄金町という場にふさわしい作品を作り上げていた。本間純の《鼻歌》は、地元の人々に愛されている大岡川をテーマとし、町の中を歩き回らないとわからない仕掛けがなされている。ぜひ町を散歩しながら、耳を澄ませて探してみてほしい。また、昭和20年代にこの町に建てられたといわれる竜宮美術旅館では、浴室を利用した志村信裕の《lace》や松澤有子による客室のインスタレーション《ひかりを仰ぐ》など、各部屋や裏庭、外壁を効果的に利用した展示が見られる。
通常から黄金町で活動している作家達も、バザールの会期中様々な展示を行う。1の1スタジオにて新作も制作中のさかもとゆりの展示(八番館にて8月21日まで。その後はハツネテラスの展示)は、廃屋の屋根裏を使ったインスタレーション。普通のモグラたたきでは叩かれたモグラが地面に隠れるが、ここでは二階の床から陶器のモグラが顔をのぞかせ(2009年制作の《モグラたたき》)、しかもその頭は所々割られてしまっている。見上げると梁には同じく陶器のねずみが隠れており、廃屋の雰囲気を活かしつつ不思議な空間に変容している。
地元密着型のイベントや販売、ワークショップも多角的に行われる。増田拓史は、町内の人々にオリジナルの家庭料理を聞き、町の声が反映されたレシピブックレットを作る予定。完成後はレシピ提供者と二人一組になり、2台の自転車を連結した屋台を漕ぎながら実際に料理を提供する計画だという。また、「勝手にデザイン事務所」は地元の建築家達が町の改善点を独自の視点で提案し、地域の人々と町のあり方について対話する企画。参加事務所のひとつstudio BO5は、黄金町の好きな場所を撮影してポストカードを作り、その魅力を発信する親子ワークショップや、普段「2 LDK」といった単位のみで考えてしまいがちな住空間に対し、実際に求める要素を各人の価値観や行為から引き出し、住まいのあり方を考える夫婦・カップル対象のワークショップを行う。
バザールの視野は黄金町のみで完結するのではなく、より広いところにも向けられている。遠藤一郎は、会期中「未来へ号バス」で東北と横浜を行き来し、人や物の動きを促して心の交差を生むプロジェクトを行うという。竜宮美術旅館では写真と文章、壁画による報告が展示されていた。エピソードの一つには、岩手県大船渡市にて、津波が押し寄せて看板もさらわれてしまった美容室の店主に頼まれ、壁面全体を花のモチーフでペイントしたという話があった。明るくなるよう花を描いてくれと依頼し、美容室の一階天井あたりまで来た津波の跡を残しておくようにとも言った店主の複雑な気持ちは計り知ることができない。しかし交流を通して被災地を元気づけたいという作家の願いが感じられると同時に、私達ひとりひとりがどのように関わって行くべきかということを考えさせられる。。
「筑豊スカブラ市場」では福岡県筑豊の古い歴史を持つ窯元の陶芸作品が展示・販売される。筑豊の炭坑夫、山本作兵衛の記録画に着想を得た黒田征太郎によるペインティング等、現代アートのイベントやその成果も紹介されている。地元の資源と産業に焦点をあてるという形でのアートの取り組みを知ることができる。
黄金町バザールはチケットではなくパスポートを購入する形式で(またはヨコハマトリエンナーレ2011特別連携セット券の黄金町バザール部分とパスポートを引き換え)、このパスポートがあれば会期中自由に出入りすることができる(8・9月の毎週木曜日および10/13・10/27は休場)。スタンプラリー帳にもなっており、各会場のスタンプを集めて歩くのも楽しい。夜にしか見られない映像作品もあるほか、時折開かれるナイトバザールでは地元の食が味わえるそうだ。時間帯や日にちを変えて何度も訪れると、また新たな魅力に出会えそうである。