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Paintings: 02
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2011年 5月 23日

木村彩子《nakaniwa》2011年|キャンバスに油彩|48.0×50.0(cm)|画像提供:GALLERY CAPTION|Copyright© Saiko Kimura

本展は、油彩やドローイングなどの絵画作品を通じて「絵を描くこと」にさまざまに取り組む3作家の作品をご紹介するもので、昨年に引きつづき2回目の開催となります。

木村彩子(きむらさいこ/1979年東京生まれ・神奈川県在住)は、自ら撮影した写真をもとに、色鉛筆や 水性ペンでそのエッセンスを直感的にドローイングとして表したものを、さらに油彩に発展させています。 まず、何かに惹かれてシャッターを切った、その何かを確かめるようにドローイングを重ね、自身の無意識を たぐりよせていきます。そして油彩では、ドローイングの過程で研ぎ澄まされた知覚とともに、全体の構図や 配色のバランスを吟味しながら、まるでステンシル(抜き型)の模様のように、自身が描きたい部分にのみ 絵具がのせられていきます。こうして対象が部分的に抜き取られることで生じる余白は、欠落した空白というより、すがすがしい光りの露出を思わせ、画面に心地よいリズムを与えます。また、蜜蝋を混ぜ合わせた油絵具のオイルパステルのような質感と、水彩画のような透明感に満ちた色彩によって、主に花や緑のある風景が みずみずしく描かれます。

源馬菜穂(げんまなほ/1985年長野県生まれ・名古屋市在住)は、殺風景とも思える広々とした草原に、ひとり立つ人物の情景を描いています。漂泊するようにたたずむ人、どこかに向かおうとしている人、軽やかに踊っているかのような人・・・彼/彼女らは皆こちらに背を向け、表情を窺うことができません。しかし、そこのとによって、かえってその人物が目にしているであろう景色が推し量られ、画面から伝わる情景と相まって、興味が引き立てられます。背後の山や草原、あるいは水面の向こうの水平線と空のみが見えるだけのシンプルな風景は、リズミカルな音楽や、風や時の流れを思わせる伸びやかなストロークと、軽やかな筆跡で表され、画面の心象をより豊かなものにしています。また作品のなかには、ときに風景と人物との境目が曖昧で、人間が自然の一部のようになりつつあるものも見受けられ、外界や自然とのつながりを求め、より広く大きな世界を捉えようとする作家の試みが表れています。

百合草尚子(ゆりくさなおこ/1975年名古屋市生まれ・横浜市在住)は、日ごろ目にしたものや、印象に残った出来事、またそこから思い浮かべられたイメージの断片を思いつくまま、日記的にドローイングとして描き留めています。そして油絵では、それらのイメージと、ときに擬人化されたユーモラスな植物や動物たちとが重なり合うようにして、不思議な風景が伸びやかに表されていきます。読み解こうとすればするほど不可解な画面は、私たちのありきたりの想像力をするりとかわすようにして、まるで子どもの頃に描いた絵を見るような楽しさをもたらしてくれます。作品でしばしば用いられるひし形や家型のシェイプド・キャンバスは、展示において作品そのものがひとつの風景となることを意識しながら、また一方で、たとえば窓越しに外を眺めるように、あるいは家に隠れた向こうの景色を思うように、いま目にしている画面が、そして絵画はいつでもその外の世界へと広がっていることを示唆しています。

※全文提供: GALLERY CAPTION


会期: 2011年5月28日(土)-2011年6月25日(土)
会場: GALLERY CAPTION

最終更新 2011年 5月 28日
 

編集部ノート    執筆:平田 剛志


木村彩子《nakaniwa》2011年|キャンバスに油彩|48.0×50.0(cm)|画像提供:GALLERY CAPTION|Copyright© Saiko Kimura

梅雨の雨が草花の苔むすような香りを漂わせ、夏の気配を感じさせる6月。季節の訪れが植物や風景の気配によって感じられるものだとすれば、木村彩子、源馬菜穂、百合草尚子の3作家によるグループ展〈paintings: 02〉は、そんな匂いたつような新しい絵画の息吹を感じさせてくれる展覧会である。

木村が描くのは、花や植物が描かれた風景だ。蜜蝋を混ぜた油絵具で描かれるという画面は、オイルパステルを思わせる明るく柔らかい絵肌が特徴である。画面全体から光溢れる眩さを感じるのは、夏の日差しの強さではなく、絵具がのせられた部分と余白とのバランスによって生み出された光の表現のためだ。

源馬の作品は、広々とした草原を思わせる風景のなかに後ろ姿の人物が小さく描かれる心象風景とも思える絵画だ。源馬の作品の特徴は、中央に佇む人物のまわりを囲むように描かれる明るい色彩のストロークだ。伸びやかに描かれる筆跡が、画面全体に動きを作り出し、空間の広がりを感じさせる。

百合草は、自然や植物などをモチーフに清涼な空気感を感じさせる絵画を制作している。ドローイングを思わせる軽やかなタッチとユーモラスな視点が合わさり、不思議な世界観を作り上げている。また、陶による立体作品『添い寝』、『こっそりクマ』は、笑いと謎で観客を魅了することだろう。

これら3作家の特徴は日常的な光景をモチーフとすることや、優しく柔らかい色彩などが共通点として挙げられるだろう。だが、それぞれがまなざしを向けた先は異なる。その違いを比較しながら見ると、季節の変わり目のように違いが浮き立ってくることだろう。


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