| EN |

ネオ・ブッディズム
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2011年 3月 28日

(左)土屋裕介《透明を忘れない I don't forget the transparency》2010年
テラコッタ|H23 x W13 x D15 cm
Copyright© Yusuke Tsuchiya

(右)亀島悠平《息 draw a breath》2011年
漆、麻布、ガラス、砥の粉、牙の化石|H58.5 x W55 x D90.5 cm
Copyright© Yuhei Kameshima

画像提供:キドプレス

次世代の美術を担う若手キュレーター唐澤茉也を迎え、その新鮮な感性で選ばれた作家4名をご紹介いたします。これからの活躍が非常に楽しみな、注目の若手作家が彫刻、絵画、インスタレーションなど様々な表現媒体で、四者四様の世界を自由に表現しています。

展覧会概要
テキストby 唐澤茉也(からくりプロジェクト)
20代を中心とする若手の作家の作品に対してしばしば用いられる、「実在感のない」「空虚な」「表層を漂うような」といった言葉。あるいは、作家自身の個人的な体験や感覚を作品化している、といった指摘。そうした見方の端々には、どこかネガティブな雰囲気が漂う。これに、作家と同世代である私は違和感を持っている。 憐みのような言葉を掛けられたくないという気持ちも確かにある。なにかポジティブな言葉で、20代の作家の作品について語りたい。

そうして行き着いたのが、今回の展覧会のタイトルとして掲げた「ネオ・ブッディズム」だ。

彼らの作品は本当にそんなにひ弱だろうか? そして自己言及的な作品は、表現として劣っているのか? そんなことを考えていたとき、「実在感のない」etc…といった20代の作品を語る言葉は、ある一面では仏教美術にも言いうるのではないかと思った。仏の世界の壮麗さを表すため、あえて現実にはありえない様で表現することは、仏教美術にしばしばある。また、若手の作品が背後に持つ静かな力強さ、執拗なまでの細部へのこだわりも、仏教美術に通ずるものがある。

そもそも私たちは、肉親の病気平癒や、子供の成長といった個人的な願いを、仏画や仏像への祈りによって叶えようとしてきた。だとすれば、そうしたものがない現代において、日本の作家が自己言及的な主題を扱うのは、仏教に代わって、作品制作によって各々にとっての信仰の対象を作り上げようとする行為なのかもしれない。彼らの生み出しているものは、新しい形の仏教美術なのではないか?そのような思いから、「ネオ・ブッディズム」という言葉を選んだ。

真摯な態度で美術というコミュニケーションツールに向き合ったとき、彼らの作品の主題は自己言及的なものになった。それを彼らは、確かな技術と執拗なまでの細部に対するこだわりをもって作品化することで、私小説的になるのを避け、作品はより一層の強度を持ちえた。

「ネオ・ブッディズム」展、それは4人の若手作家の静かな熱気に出会える展覧会になるだろう。

【作家紹介】
土屋 裕介 / Yusuke Tsuchiya
本展を発想するにあたって大きなきっかけとなった土屋裕介の彫刻作品。
彼は自作について多くを語ることを好まないが、解釈のヒントとしてタイトルを与えてくれる。私はそれを、俳句よりも短い詩ととらえている。
テラコッタによる華奢(きゃしゃ)な肢体の土屋の作品は、一見、砂糖菓子のように儚く繊細だ。
しかし細部にわたる丹念な作り込みは、ある種のしたたかさや強さも醸し出す。 
こうした印象が、ある作品を思い出させる。興福寺の阿修羅像だ。彼の作品は、あるいは現代の仏像彫刻のようだ。

略歴
1985 千葉県生まれ
2011 第59回東京藝術大学卒業・修了作品展、東京藝術大学
2010 第3回ルシャ・キパル展、佐倉市立美術館、千葉、個展「- dreamer -」、ギャラリーせいほう、東京
2009 第57回東京藝術大学卒業・修了作品展、東京都美術館、アートアワードトーキョー丸の内2009、東京駅行幸地下ギャラリー、「アートの中のわたし、わたしの中のアート」展、からさわクリニック、東京、個展「- your world -」、ギャラリー海、千葉
2008 千葉県二紀展、千葉県立美術館
2007 第2回アートプラザ大賞展

亀島 悠平 / Yuhei Kameshima
阿修羅像は乾漆という技法が用いられているが、同じ技法を用いて制作するのが亀島悠平だ。
動物モチーフに特に関心を持ち、それまで即興的に、キッチュでカラフルでキャラクター的な立体を制作してきた亀島は、この1年ほどで驚くべき変化を遂げた。
乾漆の技法を取り入れたことにより、作業的な工程が増え、それが彼にフォルムの追求のための有意義な時間を与えてくれた。
これによって、より造形が洗練され、亀島の近作には緊張感と骨太さが備わった。
彼の作家としての変貌に、ぜひ皆様にも立ち会っていただきたい。

略歴
1988 福岡県生まれ
2011 アートサイト岩室温泉2011、新潟、平成22年度第34回東京五美術大学連合卒業・終了制作展、国立新美術館、平成22年度武蔵野美術大学造形学部卒業制作展(優秀賞受賞)
2010 「逸脱」展、武蔵野美術大学、東京
2009 小平アートサイト09、武蔵野美術大学、東京
2008 GEISAI #11、東京ビックサイト

小林 裕子 / Yuko Kobayashi
小林裕子の作品の優雅な曲線は、葉脈か糸の塊のようにも見えるが、実際には紙や植物を細く切り抜いたものでできている。
精神性すら漂わせる、変質的なまでの装飾的な細部に対する彼女のこだわりは、鎌倉時代の仏師快慶が、しばしば切金を仏像の全体に用いたときの心境に通ずるものがあるように思う。
快慶が切金という途方もなく地道な作業によって、仏に対する畏敬の念を表したなら、自然科学に関心を持つ小林は、葉脈のような線を作り出すことによってやはり、自然に対する畏怖を表現しようとしているのではないか。

略歴
1981東京都生まれ
2011 第59回東京藝術大学卒業・修了作品展、東京藝術大学
2010 保谷の家展、ファルス館、東京
2009  Regreen Arts! 2009 -風の谷へ-展、Regreen Base、山梨、HOME展、NICO CAFE、東京
2008 小林裕子個展「ゆるやかな浸食」、遊工房アートスペース、東京
2007  THE SIX展、横浜赤レンガ倉庫、神奈川
2003 東京学芸大学教育学部情報環境科学課程自然環境科学専攻自然史専修卒業

横山 麻衣 / Mai Yokoyama
執拗に小さな円を描いて空間を埋め尽くす横山麻衣のペインティングは、どことなくアウトサイダーアートを思わせる。
しかし実際の横山に合った時の印象は、ごく普通の大学生だ。
「人にやさしく接するために絵を描いている」と話す横山。「制作は吐くことと同じ。悪いものは作品に出してしまうから、人にやさしく接せる」のだという。
しかし彼女は、困難の渦中にあるときではなく、それを乗り越えたとき、その証として作品を残していくのだろう。
それ故作品に痛々しさはなく、逆に見る者は「あなただって大丈夫」と励まされる。
構図などお構いなし、というように画面いっぱいにモチーフを描くやり方は、幼児のそれに近く、力強さとあっけらかんとした明るさに満ちている。

略歴
1989 神奈川県生まれ
現在 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻2年次在
2011 「進級展」 東京藝術大学
2010 「Entrance Fee - drawings by emerging artists」、Art Market WHOLE、東京、「GEISAI#14」 東京国際展示場、JOBANアートライン アート・アンブレラ・ プロジェクト参加、東京、百暖簾ポストカードラリープロジェクト参加、茨城
2009  サイクルアートフェスティバル参加、茨城

※全文提供: キドプレス


会期: 2011年4月23日(土)-2011年5月28日(土)
会場: キドプレス

最終更新 2011年 4月 23日
 

関連情報


| EN |