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多摩川で/多摩川から、アートする
レビュー
執筆: 田中 みずき   
公開日: 2009年 11月 02日

アートの現場としての多摩川 観光芸術研究所から球体写真まで1964-2009

タイガー立石(立石紘一)≪ネオン絵画 富士山≫1964ー2009年|画像提供:府中市美術館

「多摩川で/多摩川から、アートする」会場風景|画像提供:府中市美術館

日高理恵子≪空との距離VI≫≪空との距離VII≫2008年 展示風景|画像提供:府中市美術館

「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟県・十日町ほかにて開催)、「混浴温泉世界」(大分県・別府市にて開催)など開催地域の特長を生かし山や街で作品を展示する野外アートフェスが多く開かれる現在、敢えて美術館という箱のなかで地域をテーマにした展覧会が開かれている。東京都・府中市美術館で開催中の「多摩川で/多摩川から、アートする」展だ。テーマとなっているのは、展覧会タイトルの通り、多摩川である。川というのは「地域」というより、むしろ境界か地域を結ぶ媒介と言えるかもしれない。それでもやはり、現実に存在する場所である。鑑賞者が展覧会会場に入って直ぐに観るのは、中村宏と立石紘一の絵画作品だ。続いて、彼ら二人が1964年に多摩川で開いた野外美術展「観光芸術研究所」への出品作や資料、記録映像が並ぶ。往時特有のパワフルな表現が鮮烈である。これを始めとして、現代までの作家11名、1グループの作品が紹介されていく。これらの展示物を通じて、鮮やかな「多摩川」像が生まれていく。

会場は大きく二章に分かれ、第一章では前出のように多摩川を現場として過去に行われた作品制作や展示が紹介される。高松次郎が川辺の石にナンバーをふっていく≪石と数字≫(1969年)の記録資料や、山中信夫が二子玉川の川面に、上流の水面を撮影した映像を写したイベント≪川を写したフィルムを川に映す≫(1971年)の記録写真。それに蔡國強が川辺で遊牧民の簡易テント・パオを火薬で爆発させた作品≪Project for Extraterrestrials No.1:人類の家≫の写真などが紹介されている。

第二章では、多摩川をモチーフにしたり、その風景に触発されたりして制作された近年の作品が並ぶ。多摩川近くにアトリエを持つ郭仁植は、側で拾った石そのものをオブジェとした≪石≫(1976年)のほか絵画や版画など様々な技法で制作を続けた。そして、自然と人工物の作り出す「面」を対比させ、絵画の構図を問い直すような写真を撮る柴田敏雄の≪東京都西多摩群檜原村≫(2009年)、人工物を撮りながら有機的な風景を見せる山本糾の写真≪多摩川上流水再生センターⅡ≫(2009年)、ピンホールカメラを使いガラス球に風景を写しこんだ大竹敦人の≪水面/拾集(多摩川)≫(2006年)。絵画では日高理恵子による鉛筆のドローイング≪松林≫(1983年)や、試作を丹念に繰り返して生まれたマコトフジムラによる日本画の≪Futako Tamagawa #3≫(1990年)など。新たな視点が提供され、これらを見進むとまるで、作家と会話をするようにして「多摩川」を再考することができる。そして各人で再構築してとらえ直すことが可能になる。野外展のように、その場で作品と地域の関係を見せるものは、鑑賞している瞬間に重きが置かれるだろう。たとえ地域の住人の記憶など経てきた時間をテーマにしていたとしても、観点は現在から過去を振り返るものになっており、やはり今という瞬間が切り取られるものだ。一方、美術館で所有されてきた作品や記録は、当時の「今」が生み出したものであり、当時の人たちの経験をその時々の観点から観ることができる。その上で、現在の視点から当時行われていたことを捉えることができ、過去が鑑賞者自身のものになっていく。

この美術館を出るとき多摩川が美術館から抜け出し今の私の脳の中へと移動していくのを感じた。同じようにこの「多摩川」の記憶は多くの人に残されていくだろう。


参照展覧会

多摩川で/多摩川から、アートする
会期:2009年9月19日~2009年11月3日
会場:府中市美術館

最終更新 2015年 11月 02日
 

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