水都大阪2009 |
レビュー |
執筆: 平田 剛志 |
公開日: 2009年 10月 22日 |
「川と生きる都市・大阪」をテーマに開催される<水都大阪2009>は、プロデューサーに大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレの総合ディレクターである北川フラム氏、大阪府立大学教授の橋爪伸也氏、総合アドバイザーに建築家・安藤忠雄氏を迎え、世界の都市でも珍しいロの字型に川が流れる水の回廊を有する水都大阪をアピールする都市型イベント・プロジェクトである。そのため、そのほとんどの展示を無料で見ることができる。 そのメイン会場は中之島公園だが、この会場では作品展示もあるものの、さまざまなワークショップ、イベントのための会場として位置付けられている。だが、開催されるイベントやワークショップを眺めると「川と生きる都市・大阪」を実感できるのかという疑問が湧く。あまりに多くのワークショッププログラム、イベントがありすぎて、いったい何が行われていて、川や都市とどのような関わりがあるのかよくわからないのだ。中之島の大地の上、川面を眺めて途方に暮れたのは私だけだろうか。川面から目線を上げれば、遠くにオランダ人アーティストF・ホフマン(FLORENTIJN HOFMAN)による黄色いフローティングダックが見えた。※1 「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。」鴨長明※2 しかし、<水都大阪2009>において現代美術を見ようすれば、川の流れのように一所に留まっていてはならない。特に、意欲的な現代美術作品を見るには「まちなか会場」へ流れていこう。「まちなか会場」では中之島エリアの歴史的な近代建築などを活用して、サイトスペシフィックな作品展示が行われているのである。展示作家は元永定正・中辻悦子、河口龍夫、ヤノベケンジ、今村源、大久保英治、ジョセップ・マリア・マルティン、祐成政徳である。※3「水都」大阪を歩きながら、美術を見るために足を止めると、水都の中に新たな大阪が立ち現われてくることだろう。 そして、まちなか会場の中で、もっとも清涼な空間を見せるのは、江戸時代に蘭学者・医者の緒方洪庵が開いた私塾である適塾(重要文化財)を会場とした今村源の『茸的熟考』である。本作品だけ鑑賞に入場料が必要になるが、無料で見られるどの作品よりも見応えがある。それはまるで、軟水のミネラルウォーターのようである。 この適塾は、大村益次郎、福沢諭吉など明治以降の政治や思想、教育、医療の世界で近代化を推し進めていった人々を多く輩出したことで知られている。そんな数多くの若者たちが勉学、熟考に励んだ2階建ての町屋を、今村は2層構造に分け、町屋や庭を含めて茸が柔らかく生息、寄生する空間を作り出した。さらに、茸は家屋だけにとどまらず、古書、資料などが展示されたガラスケースにも及ぶのである。その展示空間からは建物やものが持つ歴史と茸が交感し、時という胞子が放出されるのである。その時、私たちは茸を媒介にして、歴史に連なる「いま」という時間を強く感じることだろう。 そんな茸のように<水都大阪>がこの街に根付くことはできるのだろうか。それは、川だけが知っている。 脚注
参照展覧会 展覧会名: 水都大阪2009 |
最終更新 2016年 5月 10日 |