KOMAZAWA MUSEUM X ART |
レビュー |
執筆: 平田 剛志 |
公開日: 2009年 10月 05日 |
ホテルからホームへ。近年、ホテルの客室を活用したアートフェアがよく行われるが、都内最大級の住宅展示場である駒沢公園ハウジングギャラリーで開催されるアートフェアイベント<KOMAZAWA MUSEUM × ART>は、より生活空間を想定したモデルハウスで作品展示をすることで、住宅に作品がある環境がよくわかるユニークな試みだと言えるだろう。 住宅展示場を活用した展覧会及びアートフェアとしては、昨年11月に開催された<横浜アート&ホームコレクション展>※1が日本初の試みとして注目されたことが記憶に新しい。横浜トリエンナーレ2008との同時期開催、横浜美術館監修という点で、2日間の短い開催にも関わらず、注目度が高かった。 そして、後発となる本展では、アートコーディネーター市川靖子の企画により日本最大規模の住宅展示場が舞台として用意された。だが、広報における情報量の少なさ、一部出品作品の会期途中での撤去及び展示会場変更が行われるなど、流動的、変則的な要素が多々あり、新しい企画ゆえの困難さを感じさせたのは否めない。可能性があるユニークな企画だけに、展覧会企画者と住宅会社、作家側との円滑なコラボレーションを今後は期待したい。 fig. 1 橋本トモコ ≪Sunday Morning≫2009年|パネル、μグランド、油彩|14.2x7.9, 5.3x10.8, 10.7x9, 11.2x15.2, 11.4x15.6, 18.9x8.2cm ≪rain / fine≫2009年|パネル、綿布、白亜地、油彩|91×91cm 撮影:長塚秀人|画像提供:橋本トモコ|Copyright © Tomoko HASHIMOTO さて、多くのモデルハウスをお宅訪問し感じたのは写真や映像より絵画の存在がまるで昔からそこにあったように馴染んでいたということだった。外光から差し込む光と絵画は相性がいい。内海聖史、中比良真子などの良質な作品がある中で、3軒の住宅を取り上げたい。まず、STAGE3-4での泉イネ(紺泉)、橋本トモコ[fig. 1, 2]、笠原出の展示は親密で暖かい空間に満ちていた。 そして全展示・会場のなかでモデルハウスという空間を最も生かした展示を行っていたのは橋本トモコの展示だろう。橋本は古典技法によって、堅牢で深みのある絵画空間を作り出すことで知られるが、今展ではリビングの吹き抜け空間に合わせて制作された新作が住空間をより豊かにしていた。さらに、和室やトイレなど展示には趣向が凝らされ、鑑賞者が絵画と出会うことができる空間が私たち来訪者のために用意されていたである。私たちは、この空間にもたらされた「空気」が絵画の力であることを体感し、深呼吸をするように体内が浄化されていく様に感じる。そう、これは絵画によって歓待されることに他ならない。家主のいないモデルハウスで、このような暖かいおもてなしを受けるとは思わなかった。 続いて、STAGE2-3 でのいしかわかずはる、南条嘉毅の展示ではいしかわの毛糸を用いた平面作品は温かみを、南条の土を用いた絵画はテンションある空間を作り出し、住空間の各所に互いの作品が響きあう空間を形成していた。 STAGE2-6 のモデルハウスでは、空圧式ホームエレベーターがSF映画に出てくるセットの様で、スタイリッシュな存在感を放っていた。その周りに点在する山田純嗣、呉亜沙の絵画空間がどことなく近未来的に感じられさえするのは、このようなモデルハウスならではの効果だろう。 家と芸術は似ている。どちらも基礎工事が大切で、そして「心」がなければ作ることができない。「心」ある人間が住む空間に、美術は「心」に寄り添うように存在することができる。だからこそ、あらゆるものが作り物として成立するモデルハウスの中で、美術だけがリアルに私たちの感情を揺り動かすのだろう。 そして、私は「心」あるモデルハウスを後にして家路へと向かった。 脚注
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最終更新 2015年 11月 03日 |
会場は駒沢通りを挟んで、STAGE 1~3の3ブロックに分かれているが、すべてのモデルハウスで展示が行われている訳ではない。また、出品作家、展示作品、展示期間に一部変更が生じてもいる。そこで、会場に着いたらインフォメーションセンターに寄り、本イベントの概要・出品作家・会場マップ等が掲載されているチラシを入手してから巡ることをおすすめしたい。 そんな数あるモデルハウスの中で暖かい「歓待」を得られるのは、STAGE3-4の泉イネ(紺泉)、橋本トモコ、笠原出、STAGE2-3 のいしかわかずはる、南条嘉毅の展示であった。特に、橋本トモコ作品は、本展会場に合わせた新作を展示するなど、絵画と住空間のコラボレーションが最も成功していた例を見ることができるだろう。