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鼻向け
編集部ノート
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2010年 5月 28日

展覧会タイトルの「鼻向け」とは、本来「馬の鼻向け」とも言い、古来、旅立つ人の向かう先に馬の鼻を行き先へと向けて安全を祈願したことが由来だという。方向を示すこと。そこから転じて、「餞(はなむけ)」、「餞別」となり、物品や金銭を贈ったり、宴を催すこととなったのだという。伝言ゲームのように意味が変移してきた「餞(鼻向け)」という言葉は、見送る者が発つ者に方向や指針を指し示す行為だとすれば、今展をもって活動休止となるAAS最後の展示となる本展では、どのような「鼻向け」が与えられたのか。

会場には日用品や家電製品、工事現場で使われるような建材などを使用し、空間にダイナミックな切り込みを入れる貴志真生也、大胆な儀式的インスタレーションを場に作り上げる森伊織、そして貴志、森の展示空間にいけばなによって作品に介入する勝盛英梨香の3人によって、互いの作品が混ざるように展示されている。異なる領域で活動する3人の作家たちは互いの表現のズレや5月の風や光、空気までも取り込み、空間の隅々まで生かした展示空間をAASに「鼻向け」た。

加えて、勝盛英梨香によるいけばな作品は現代美術といけばなとのコラボレーションに新たな1ページを書き加える展示として記憶されるだろう。毎週いけかえられる花や植物は、AASという実験的スペースに繰り広げられてきた作品すべてに捧げられた小さくも美しい「餞」である。

なお、言うまでもなく「鼻向け」とは終わりではなく、新たな始まりである。

最終更新 2015年 11月 03日
 

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