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借りぐらしのアリエッティ×種田陽平
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 6月 17日

画像提供:東京都現代美術館

2010年7月17日より、スタジオジブリの新作映画『借りぐらしのアリエッティ』と同日公開される展覧会『借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展』。
『キル・ビル Vol.1』『ザ・マジックアワー』など多数の話題作を手掛け、今最も注目される映画美術監督・種田陽平が、東京都現代美術館の1,200 ㎡を超える展示室に『借りぐらしのアリエッティ』の巨大なセットを創ります。

種田陽平は実写映画の世界で、クエンティン・タランティーノ、三谷幸喜ら数々の監督から絶大な信頼と高い評価を受ける美術監督。何も無いスタジオの中に緻密に計算されたセットを組みあげ、独特の感性と研ぎ澄まされたセンスで仕上げを施すと、その空間は瞬時にして「異世界」の輝きを放ち始めます。それは、まさに「神業」。

通常、私たちはこの異世界を、完成した映画を通してしか観ることができません。どんなに魅力的に作られた映画のセットも、撮影終了とともに解体され、直接目にする機会はほとんどありません。

今回、宮崎駿監督が企画を練ったアリエッティの世界をスタジオジブリ・米林宏昌監督がアニメーション映画に、そして種田陽平が実写映画の技を惜しみなく注ぎ込み、現実にあるセットにします。

小人たちが生活に必要な物を人間の家から「借りてきて」「暮らしている」そして、「ひっそりと」「一所懸命に」生きる。映画に描かれた暮らしぶりが、種田陽平の手によって、展示室に出現します。魅力に溢れたその世界に直接触れ、小人になった気分で、物語の中に入り込めるまたとない機会です。

展覧会では種田陽平がこれまでに手掛けた映画美術の資料や、『借りぐらしのアリエッティ』の資料なども展示します。映画の品格を決めると言われる映画美術。その魅力を見て、触れて、「体感」する展覧会です。

現実と虚構を融合する-。映画美術の神様、種田陽平が手がけるスタジオジブリと小人たちの世界へようこそ。

種田陽平 YOHEI TANEDA
記憶に残る映画の世界観創出で定評のある美術監督。武蔵野美術大学油絵科卒業。在学中に寺山修司監督作品『上海異人娼館』に参加、映画界に入る。その後、相米慎二監督作品などに美術助手として参加。1986年、石井聰互監督『ノイバウテン:半分人間』で美術監督となる。以降、『スワロウテイル』『不夜城』(1998年、香港電影金像奨・最優秀美術監督賞)『キル・ビル Vol.1』(米国美術監督協会最優秀美術賞ノミネート)『THE有頂天ホテル』『フラガール』(2005年、毎日映画コンクール美術賞)『ザ・マジックアワー』『空気人形』『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』(2010年毎日映画コンクール美術賞、日本アカデミー賞最優秀美術賞)など話題作を多数手掛ける。「再現ではなく表現を、模写ではなく創造を」という取り組みが評価され、平成21年度[芸術選奨文部科学大臣賞] を受賞した。

映画の他CM・舞台美術・映画美術展・アートブック など幅広い分野で活動。著書に『HOT SET』(メディアファクトリー)、『TRIP for the FILMS』(角川書店)、自伝的絵本『どこか遠くへ』(小学館)などがある。また、2008年5月から1年間三鷹の森ジブリ美術館で展示された「小さなルーヴル美術館展」の美術監督もつとめ、2010年4月17日から10月24日までメルシャン軽井沢美術館で同展、開催中。2010年秋には映画『悪人』(李相日監督)が公開予定。
本展オフィシャルウェブサイト: http://www.ntv.co.jp/karigurashi/

※全文提供: 東京都現代美術館


会期: 2010年7月17日(土)-2010年10月3日(日)

最終更新 2010年 7月 17日
 

編集部ノート    執筆:平田 剛志


特別展 「借 りぐらしのアリエッティ」
Copyright©2010 GNDHDDTW

『借りぐらしのアリエッティ』とは、メアリー・ノートンのファンタジー小説『床下の小人たち』を原作としたスタジオジブリ制作によるアニメーション映画である。企画・脚本を宮崎駿、監督は米林宏昌が手掛け、2010年7月に公開後、興行収入92.5億円を超え、2010年度興行収入邦画第1位となった大ヒット作である。

主人公は、14歳の小人の少女・アリエッティ。郊外にある古い屋敷の床下で、電気やガス、砂糖など人間の生活品を借りながら、両親とともに密かに慎ましく暮らしている。アリエッティたち小人の世界には人間に見られてはいけないという掟がある。もし掟を破り、人間に見つかれば、引っ越さなければならないのだ。だが、アリエッティは、屋敷に病気療養のため、引っ越してきた少年・翔に姿を見られてしまう・・・。

ストーリーを辿ると、小人と人間をめぐるファンタジーである。だが、人間のものを借りてきて生計を立てる小人たちの「借りぐらし」は、生活における知恵や工夫が見られ、一般的なファンタジーとはかけ離れた現実感がある。魔法を使えない小人たちは、どうやって食料を入手し、生活を営むのか。アリエッティ一家の暮らす住居など、リアルに描き込まれた背景画が生活感を伝え、映画美術の見どころが多い作品である。

だが、本展はただのアニメーション映画の展覧会ではない。映画の背景画を何百万枚と展示するのではなく、実際に作ってしまったのである。この美術セットを手がけたのが美術監督・種田陽平である。種田は映画版では美術を担当していないが、本展のために、実写映画を思わせる大規模な美術セットを作り上げた。

会場に入ると、小人のアリエッティ家族が住む家が忠実に再現された空間が、私たちを映画の世界へと誘う。本展のために結集した美術スタッフによる仕事は、住居の柱から小道具まで1つ1つが映画の世界観を再現している。例えば、天井を這うゴキブリが動く様はリアルで鑑賞者を驚かせるし、居間やキッチンの家具、食器も生活感が感じられリアルだ。まるでアミューズメントパークのように、鑑賞者をワクワクさせる仕掛けが楽しい。

展覧会後半部は、セットから一転して種田陽平のこれまでの仕事を概観する資料展示となっている。種田がこれまで映画美術を手掛けた『スワロウテイル』(1996)、『不夜城』(1998)、『キル・ビルvol.1』(2002)、『フラガール』(2007)、『悪人』(2009)などの写真パネル、模型、図面などが展示され、映画の世界観がどのように作られたのかが見えてくる。

最後は、『借りぐらしのアリエッティ』のために宮崎駿が書き下ろしたストーリーボード、絵コンテが展示され、アリエッティの世界観が再び展開される。企画の早い段階からキャラクター設定、世界観が造形されていたことはファンには興味深いだろう。

全体を通して、映画ファンだけでなく、美術セットは彫刻や立体、建築を手がけるアーティストに参考になるだろうし、絵コンテやストーリーボードは画家やイラストレーターなど絵が好きな人には楽しめる展示だ。映画の展覧会は、ポスターやスチル写真などによる資料展示が多いが、ここまでダイナミックな展示を楽しめるのは貴重な機会だ。

映画美術は、映画のなかで生き続けるが、制作後は消えてしまう。展覧会もまた、会期が終われば展示作品は、再び元の所蔵者のもとへと帰っていく。つまり、美術セットや展覧会は「借りぐらし」なのだ。ただし、アリエッティら小人の世界の掟と異なるのは、映画や展覧会は人に見られるものだということだ。作品が引っ越してしまうその前に、小人になった気持ちで知られざる映画の舞台裏を覗き込もう。


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