殺風景 |
アートワーク |
執筆: 小金沢 智 |
公開日: 2009年 1月 16日 |
展示室入ってすぐの床に、赤い直線が一本引かれている。奥に進むと、巨大な冷蔵庫。その中におびただしい数のグラジオラスが活けられている。真っ白い花を所々咲かせたグラジオラスが連なる中、一茎だけ活けられている真っ赤のそれが、わずか数秒前の、赤い直線の記憶を呼び起こす。はっとする美しさというのは、こういうことを言うのだろう。 東の作品は大きく二つに分類することができる。すなわち、《式》シリーズや《REAF MAN》といったそれだけで独立性の高い作品と、《逆転の庭》や《狂った赤の向こう側》といった空間に結びついたインスタレーション性の高い作品である。今回の作品は冷蔵庫の独立性の高さから一見前者に見えるが、その実は後者であろう。しかも一本の赤い直線が一茎の赤いグラジオラスを強烈に印象づけるという点で、《殺風景》は空間との結びつきが特に顕著な作品と言うことができる。そして東はこの線と花々の間の壁に自身のポートレートを配置することによって、その脳内に入り込むというイメージを鑑賞者に掻き立てた。けれども実際そのシンプルな造作がもたらしたものは、知りえない東の記憶ではなく、他でもないあなたのそれではなかったか。切っ先の鋭い一見無骨な今回の作品は、それだけの振幅と強度を持ちながら、わたしたちのいつかの記憶を呼び覚ます装置と化した。 作品詳細アーティスト: 東信 |
最終更新 2015年 11月 01日 |