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苅谷昌江:Twins in the labyrinth
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 4月 02日

画像提供:ギャラリー・テラ・トーキョー|Copy right(c) Masae KARIYA

ギャラリー・テラ・トーキョーは苅谷昌江の東京初個展を開催いたします。2009年はVOCA展をはじめ、京都芸術センターでのグループ展に参加するなど活躍を広げている苅谷。過去には、人の気配だけが残る劇場や会議室を描いたシリーズと、人間と動物が合体したような存在が登場するHide Faceシリーズを中心に、世界または存在が重なっているような、空間が交差しているような、不思議な空気感のある作品を制作してきました。一見雰囲気の異なる別々のシリーズのように見えますが、これらは一貫して「目に見えない存在を描く」ということをテーマにした苅谷作品の内側と外側、両側面をあらわし根本は同じものから発しています。高知県出身で民間信仰に触れて育った苅谷は、「存在、世界、空間というものは私達が眼にしている姿だけで在り得るわけではない」ということを訴えかけるような作品を制作します。これは、絶対的価値観というものから脱却しつつあり、多様な価値観、ものの見方をする世代を生み出した現代社会の姿を映し出しているようにも、また、揺れ動き、何層にも折り重なるわれわれの心のうちの姿のようにも見えてきます。

本展覧会では、「感情への関与」を意識して制作した新作6点を発表します。今回は、今までの油彩ではなく、作品の雰囲気にあうと考えた透明水彩や色鉛筆を用い、水彩紙に描いています。レストランのテーブルに鎮座するライオン。水族館の中にいる鳥。鳥かごの中に閉じ込められたカワウソ。今までの作品と違い“完全な”動物がアイマスクをして、有り得ないシチュエーションの中に、双子で描かれています。作品に向き合ったとき、その作品を介し、まるで双子のように鑑賞者と作者、もしくは鑑賞者と鑑賞者、またはまったく別のもの、そういったものがまるで迷宮に迷い込んだかのように混ざり合い刺激しあい「感情に関与しあう」、作者にとっての“美術表現”とは、の一端を感じられる作品になっています。

苅谷昌江Masae Kariyaは1980年高知県生まれ。2002年大阪芸術大学美術学科卒業。2004年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(修士課程)終了。2007年AmuseArtJam2007inKyotoグランプリ部門グランプリ受賞。2008年Jeans factory art award 2008 準グランプリ受賞。2009年京都芸術センターでのグループ展now here, nowhere参加。上野の森美術館でのVOCA2009推薦作家。

アーティスト・ステートメント
美術作品と作品を作るわたしは、あなたの感情や感覚にどのように関与するのでしょう?そもそも、わたしとあなたの境目はとても曖昧な気がするし、わたしだっていつも同じわたしな訳ではなくて、いろんなわたしがいろんな場面で登場してくる。あなただってきっと同じだろうと思います。ひとりの人にはたくさんの表情があるのだと思います。だから、作品を作るわたしと作品を見るあなたの境目も、もともととても不明瞭なのでしょう。でも、美術表現がそこにあるとき、不明瞭なのだけれど、混じり合いつつ、ぶつかり合いつつ、わたしとあなたはまるでふたごのように常に対になってそこにいるのではないでしょうか。率直に言って、どこかを目指さなければならないわけではないし、ただどこかの場所に美術があるときに、わたしやあなたや混じり合ったものたちやいろんなものから生じる感情や感覚のようなものにわたしは心が惹かれるのです。

わたしは動物たちの率直な要求や怒りなどを感じさせる表情にもとても心が惹かれます。わたしにとっては、それは人にない率直さゆえの魅力というよりも、もしかするとわたしは彼らにとても似ているからかもしれません。もどかしい思いをするのは嫌いです。動物たちのように、わたしはただ率直に、わたしやあなたや混じり合ったものたちの感情や感覚に美術を介して関与したいと思っているのです。何かのためのものではなく、どこに向かうわけでもないという意味では、迷宮のようなところに、わたしもあなたもいろんなものたちもみんな惑わせてしまいたい。感じることに率直に、今いるこの場所にしっかりととどまり続けるために。
-苅谷昌江

※全文提供: ギャラリー・テラ・トーキョー
最終更新 2010年 4月 23日
 

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