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現代絵画の展望:12人の地平線
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2009年 12月 17日

藤浪理恵子 ≪Wanderer-放浪者 その邂逅より「土の語り部」≫ 2009年 ※2月9日より展示 copy right(c) Rieko FUJINAMI

東京ステーションギャラリーは現在東京駅丸の内駅舎保存・復原工事に伴い休館中です。2012年(予定)の再オープンに向けて準備をすすめると同時に、企画展開催などの活動を続けています。

その活動の一つに、2007年に《現代美術の展望-それぞれの地平線》展にて、12名の平面絵画を、旧新橋停車場鉄道歴史展示室と上野駅正面玄関口「ガレリア」2階Breakステーションギャラリーで紹介した企画があります。これは、1999年の《現代日本絵画の展望展》で63名の平面絵画を紹介した展覧会の第2弾として開催されました。

本展はこの流れにあり、現代絵画の一断面を紹介するものです。今回も同展示室を会場とし、時代に衝撃を与えた歴史的なアーティストや中堅アーティストの、日本のみならず、海外へも作品が発信された12名の作品を紹介します。

今回は、アーティストたちの〔あの頃〕の過去の作品を前期、〔この頃〕の近作を後期、2期に分けて1点ずつ展示します。12人の脳に浮かび、表現される特異な地平線を、一堂にごらんいただけます。一つ一つの作品を巡り、感じることは、彼らの強烈な個性の異空間を旅することにもなるでしょう。

過去の作品を前期に展示し、現在の作品を後期に展示することによって、それぞれの絵画がどう変貌し、何が変わらずその個性として現れているのかが提示され、また、後期においては、捉らえにくい現代の時代性が表出されてくるのではないでしょうか。

あの頃もこの頃も、注目され、精力的に活動をし、現代絵画界を牽引してきた、12名の作品の持つパワー、時を超える異空間の旅をお楽しみ下さい。

参加アーティスト:
◆宮崎進(1922-) Shin Miyazaki
日本美術学校油画科在学中の42 年に応召され、シベリアに抑留される。49 年帰国後、日本海側や北海道や東北を放浪。67 年安井賞受賞、〈旅芸人〉シリーズが評判を呼んだ。宮崎の叙情的な世界は、80 年代にフォルムが抽象的になり、90 年代になるとコラージュが用いられるようになった。04 年サンパウロ・ビエンナーレ日本代表。一貫して題材に対するリアリティを表現。

◆堂本尚郎(1928-) Hisao Domoto
52 年京都市立専門学校研究科を修了。日本画家として将来を嘱望されるも55 年渡仏、アンフォルメル運動に参加、62 年にグループから離脱。64 年ヴェネチア・ビエンナーレで〈連続の溶解〉シリーズがアルチュール・レイワ賞受賞、67 年に帰国、円にはじまるヴァリエーションに富んだ、華やかで独自の色彩の波の世界を展開し、近年は幽玄の世界を表現。文化功労者。

◆中村宏(1932-) Hiroshi Nakamura
51 年日本大学芸術学部美術学科に入学、ルポルタージュ絵画運動に参加。機関車や女学生のモチーフが有名。70 年代に列車の窓の連作〈車窓篇〉、画面に動の世界を作り出す〈タブロオ機械〉、90 年代に〈黄色法則〉、運行計画の図表を描く〈鉄道ダイヤグラム〉、00 年からサイズ可変の〈絵図連鎖〉、透視図法とマス目を用いる〈図鑑〉などエネルギッシュにシリーズを展開。

◆郭徳俊(1937-) Kwak Duck – Jun
74 年から自らの顔とアメリカ大統領の顔を合成した連作、 88 年より帽子をかぶる男が登場する〈無意味〉を展開。平面、パフォーマンス、映像、版画など、独創的でユーモアのある作品を発表。日本人として生まれ、サンフランシスコ条約で在日韓国人となった背景は作品と連動している。結核、肺の切除後の療養生活から生まれた64 年~69 年の絵画シリーズが98 年に公開、注目された。

◆吉村芳生(1950-) Yoshio Toshimura
71 年山口芸術短期大学卒業、79 年創形美術学校卒業。連作に、新聞を緻密に鉛筆で再現するもの、自画像(自らを撮影した写真を描くもの、鏡に写った自らの顔を描くものの2 種)、花を描くもの、新聞と自画像を組み合わせたものがある。日常的に吉村が眼にするものを題材に、鉛筆という日常の道具を用いているのだが、精巧で緻密で執拗であり、存在感や個性を鑑賞者に感じさせる。

◆イケムラレイコ(1951-) Leiko Ikemura
78 年セビリア美術大学卒業。09 年、ドイツの名誉な賞、アウグスト・マッケ賞受賞。絵画において、少女・地平線・鳥などをモチーフに発表、闇と光を感じさせるくっきりとしつつも澄んだ色使いと、荒々しい絵肌、力強い、独特な世界を作り出す。ドローイング、写真、立体、文章など、表現するための手段が豊富。現在、ベルリン芸術大学教授。

◆中村一美(1956-) Kazumi Nakamura
84 年東京藝術大学美術研究科油画修了。桑畑に発想を得た「二本の樹木」を制作後、82 年からY を、90 年からC をモチーフにした連作を制作。抽象的だが、個人的な事件や体験、社会的事件に発想を得たもの、道元や日本の建築に想を得るなど、作家の心のなかに意味があり、作品は力強い。シリーズや表現は連鎖しつつ展開され、現在は〈存在の鳥〉シリーズが中心。女子美術大学教授。

◆小林正人(1957-) Masato Kobayashi
84 年東京藝術大学絵画科油画専攻卒業。97 年ゲント市立現代美術館長ヤン・フートの誘いを受けてベルギーに渡り、06 年に帰国。「天使」「空」から、あざやかな単色画面に蒸気のような姿が集約する「絵画の子」を発表。画面上に具体的な姿がなく、絵の具を手で塗りこめながら、キャンバスを張りつつ作品を完成させる独自のスタイルを完成。空間を巻き込むような存在感を表出する。

◆藤浪理恵子(1960-) Rieko Fujinami
86 年多摩美術大学大学院修了。銅版画で日本国内外において受賞を重ねる。03 年ニューヨーク移住。NY 州在住のミッドキャリアアーティスト対象のThe New York Foundation for the Arts, Artist Fellowship Award をドローイング部門で受賞。表現は銅版画、フレスコセッコ、ドローイング、銅版テンペラ、フォトモンタージュなど多彩だが、時の経過表現、人物表現に統一感がある。

◆夏目麻麦(1971-) Asagi Natsume
98 年多摩美術大学大学院卒業。描かれる対象は人であり、人物は内面の暗い部分や叫びを伝えるようにも、相手と対面しながら実際に感じていたかもしれない、ふとした日常の錯覚を喚起するような、奇妙な存在感を放つ。完成した作品のフォルムそのままのイメージが、頭のなかに制作前からあるわけでなく、「色をぶつける」ような取り組みの末に完成するため、寡作。

◆元田久治(1973-) Hisaharu Motoda
01 年東京藝術大学大学院美術研究科版画専攻修了。細やかに描きこまれている有名な建物・風景は、遠い未来に、建物が風化した様子で、独特の存在感を放つ。描かれた対象へは本人が現地に赴き、写真を撮り、考察を重ねた上で、版画化された。08 年より版画をもとにした油彩も試みられ、展開の兆しが見られる。オーストラリアとアメリカにて研修中。

◆山田純嗣(1974-)Junji Yamada
99 年愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。作品は、1)石膏で立体物を制作2)立体を撮影3)印画紙に焼付け、4)銅版の線を重ねる、5)樹脂をコンプレッサーで吹き付けという工程により完成。絵肌がない、モノクロの静謐な平面に近づくと、日常のキャラクターたちの線が見える。既視感ある日常をテーマにしてきたが、今年は記憶の根源である古典絵画に注目した。

関連企画(予定):
アーティストとお茶をする
2009年、吉村芳生氏の個展「煉獄の茶室」(山口県立萩美術館・浦上記念館和風展示室)、山田純嗣氏の個展「絵画をめぐって-The Pure Land-」(中京大学アートギャラリーC・ スクエア)が開催されました。今回、両アーティストにお話をうかがう機会を設けました。
開催日時:1回目 2010年2月13日(土)14:00~ 吉村芳生氏 2回目 2月20日(土)14:00~ 山田純嗣氏
参加方法:当日トーク会場に先着順。2時以降先着10名が到着次第トークを開始。途中参加も席があれば可能。席数50。
会場:ビヤダイニングライオン汐留店1F内停車場ビヤホールゾーン(旧新橋停車場内)
費用:聴講無料ですが、お店にあるメニューから注文、各自実費をご精算下さい。(参考:ドリンク500円~)

※全文提供: 東京ステーションギャラリー

最終更新 2009年 12月 08日
 

編集部ノート    執筆:平田剛志


12人の画家の作品を通じて、現代絵画の展望を検証しようとする試みはけっして新しくはない。だが、本展の試みに興味深い点があるのは、作家の作品を旧作の「あの頃」と新作(近作)の「この頃」それぞれを前期・後期に分けて展示している点である。*1 それは、新年を迎えるということが一見何の変化もない「普通」の日々の延長でありながら、気持ちの上で何かが変わっているように、本展は「あの頃」と「この頃」の作品の変化や差異に目を留めることに他ならない。あの頃とこの頃で何が変わり、何が変わらないのか。あるいは、変わったのは私たちか、社会なのか。それを確認したい今日「この頃」である。

脚注


※1  会期は以下の通り
~あの頃~2009年12月8日(火)~2010年2月7日(日)
~この頃~2010年2月9日(火)~3月22日(月・祝)


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