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諏訪敦 展
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 9月 24日

© Atsushi SUWA, Courtesy of the artist copyright(c) Atsushi SUWA

1967年北海道に生まれ、1992年に武蔵野美術大学 大学院造形研究科を修了。1994年から、文化庁派遣芸術家在外研修員としてスペインに滞在。この滞在中に、バルセロ財団国際絵画コンペで大賞を受賞し、諏訪の作家活動は本格的に始動します。

帰国後は絵画の原点回帰としての意味で写実表現の追求を続けます。そして2000年には前衛舞踏の先駆者である大野一雄氏を、本人の協力のもと一年間に及んで取材、制作した作品を発表しました。この過程こそが、その後の諏訪の制作体制に大きな影響を与えていきます。

描く対象を一定の条件を定めて探し求め、取材するところから始まり、対話によってその人物の背後にある歴史や思考などをも引き出していきます。このような対象とのコミュニケーションのプロセスもまた、諏訪にとっての重要な素材です。それは対象をいかに視覚的に再現描写していくかに留まった、古典的意味での写実表現からは逸脱したものです。

この頃から、シリーズ作品を個展で発表していくスタイルへと移行していきました。2003年には日本に在住する女性たちの帰属意識のグラデーションを題材に、個人史にまつわるインタビューと絵画の組み作品「JAPANESE BEAUTY」を発表。2006年に発表された「SLEEPERS」では、一般より募ったモデル協力者の生活空間に居合わせて取材し、本来秘匿されるべき寝姿を描写しました。

そしてドキュメンタリー的な要素が強い画家としての認知が広まりつつある中、2008年以降継続している「Stereotype」が発表されます。日本人に対するステレオタイプ、つまり誤解や偏見も含んだ紋切り型のイメージを実際にモチーフとして再現し、その特化した超絶的描写によって即物的に描くことで、本物と偽物の入り交じる世界、虚構の中に混在する現実に鋭い視点を向けました。

続いての諏訪にとって初めての美術館での個展「複眼リアリスト」は、これまでの軌跡を一堂に会す展覧会となりました。諏訪敦の作品には目を奪われるほどの美しい描写が見られますが、卓越した手仕事の根底には、作家が対象に抱く畏敬の念、慈しみの心がありありとうかがえます。高く保たれた精神集中の中、その崇高な心は身体と連動し、一筆一筆を通して、命の糸を紡ぐように描かれるからこそ、観る者の心を深く打つ魅力があるのでしょう。

本展ではオリジナル作品と共に、諏訪敦による初の版画作品を発表いたします。

全文提供: キドプレス

最終更新 2009年 10月 10日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


版画工房であるKIDO Press依頼による諏訪敦初の銅版画展。DMの、カメラを構えた女性の印象が鮮烈だったため、そのような版画が出るのだろうと考えていたらその画像は版画ではなく本画(≪I Can't See Anything Anyway Ver.2≫》)だった。出品されている銅版画と本画を比較すると前者のサイズが著しく小さく、印象も柔らかいため、本来展示の中心であるはずの銅版画の印象が幾分弱まってしまっていることは否めない。 展示されている銅版画三点のうち一点が、原版と作業台とともに出ている。自画像であるだけに、その効果が作品の生々しさを増幅させている。


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