橋爪彩(1980年東京生)は東京芸術大学修士課程修了後、2005年からベルリン、2009年からはパリへと制作拠点を 移し、昨年秋に帰国いたしました。2004年にシェル美術賞岡部あおみ審査員奨励賞を受賞、海外滞在中も「所沢ビエンナーレ引込線」(2009年)に出品するなど高い評価を受けています。帰国後初となる本展覧会では、ベルリン滞在中の2007年から取り組んでいる「Red Shoes Diary」と、2010年より生まれた「After Image」という2つのテーマの作品群を展示いたします。
「美術に囚われ作家となった為に遠く欧州まで赴き、見知らぬ土地で日々障害と遭遇して傷だらけになっても描くことを辞められない自分は童話『赤い靴』の主人公カレンによく似ている。」と橋爪は記しています。「Red Shoes Diary」は、橋爪にとっての魔術的オブジェクトである赤い靴を作品に昇華したシリーズです。「After Image」は、「Red Shoes Diary」で確立された感性と橋爪の高度なテクニックによる伝統的西洋絵画のアップデート。橋爪は、ヨーロッパ滞在により生まれたこの2つのテーマで、パーソナルなリアリティから出発し、西洋中心の美術観に対する問題提起へと大きく展開しています。
本展では120号の新作を含む約10点を展示いたします。
Artist Statement after image(独語:Nachbild)はゲーテが色彩論の中で展開した言葉の一つであり、「残像」を意味する。 約四年半に渡る欧州滞在で、私は亡霊のように実像なく立ち上がる残像を数多く目にした。 特に美術において、もはや残像と呼ぶしかない過去の栄華を今だに賛美する様子は妄執そのものであり、 世界が光の早さで繋がってしまう現代で取り残された印象を強く与えている。 私はアーティストとしてその時代錯誤な保守性に疑問を持ち、これからしばらくの制作のテーマとしたいと思った。 すべてが同じ地平から見渡す事が可能な現在なら本来西洋美術の文脈から遠く離れていた私たちにもその虚像を破壊し再生する事が可能であり、エトランジェだからこそ複雑な多様性を与えられるのではないだろうか。 今回制作にあたり選んだモチーフや技術は伝統的な西洋絵画を意識的にトレースしたものだ。 加えて私が嫌悪するテーマのモチーフばかりをあえて多く集めている。 着手してからまだ日の浅いテーマではあるが、このafter imageシリーズを私からの西洋中心の美術への贈与の一撃、すなわちGift(独語で「毒」)としたい。
今回の展示はこの新しいシリーズと欧州で制作した前シリーズ「Red Shoes Diary」をブリッジする内容となっている。 2007年から描かれたこの旧シリーズは、欧州での私の様子が童話赤い靴のストーリーによく似ている事から立ち上がり、昨年日本へ帰国するまで従事した。 二つの大きく異なるテーマを抱えた展示だが、これは形骸的なジャポニズムばかりをあえて評価し、自分たちの土俵になかなか私たちを上がらせたがらない西洋美術へのアプローチである。
橋爪彩 Sai HASHIZUME 1980 東京都生まれ 2003 東京芸術大学美術学部絵画専攻油画科卒業 2006 東京芸術大学修士課程絵画専攻(油画)修了 2006-07 ベルリン美術大学に研究生として在籍
助成金・レジデンス 2005 第19回 ホルベインスカラシップ 2006 AIR in KREMS Top 24 (クレムス/オーストリア) 平年18年度 文化庁新進芸術家海外留学制度研修派遣生(メンヒェングラッドバッハ/ドイツ) 平成19年度 ポーラ美術振興財団在外研修員としてベルリンに滞在 平成20年度 吉野石膏美術振興財団在外研修員としてパリに滞在
個展 2004 ギャラリーエス(東京) 2005 ギャラリー本城(東京)
グループ展 2000「 その人までの遠近法」下高井戸gallery art soko(東京) 2004 シェル美術賞2004 代官山ヒルサイドフォーラム(東京) 2005 αMプロジェクトvol.2「secret girls ~up&down 」artspace Kimura ASK? (東京) 2006 VOCA展2006 東京都上野の森美術館(東京) 2007「 Sovereign European Art Prize」Club Row(ロンドン) 「 自画像の証言」 東京芸術大学陳列館 (東京) 「 Speculum Mundi」Galerie Davide Gallo( ベルリン) 2008「 Arte Fiera Art First 2008」(ボローニャ/イタリア) 2009 第一回 所沢ビエンナーレ「引込線」(埼玉)
受賞 2003 O氏記念賞 2004 シェル美術賞 岡部あおみ審査員奨励賞
東京アートウィーク×神楽坂アートコンプレックス Dialogues in Kagurazaka 「橋爪彩×島田雅彦×渋谷慶一郎 -美術・文学・音楽 つくるということ-」 日時 | 2011年4月1日(金)19:30 ~ 20:30 会場 | イムラアートギャラリー東京 本展作家・橋爪彩を交えて、文学と音楽という異ジャンルの旗手である島田雅彦氏、渋谷慶一郎氏をお迎えし、自身の作品との向き合い方、制作のテーマやプロセスについてお話しいただきます。「アート」の語源はラテン語の「アルス(ars)」。アルスはギリシャ語におけるテクネ(テクニックの語源)であり、技術を意味します。今回は美術・文学・音楽という複数の分野の作家たちによる「つくる」という視点での対談。ジャンルや枠で細分化されてしまった近代以降のアートの捉え方では見えないものが語られるかもしれません。
島田雅彦: 1961年東京都生まれ。東京外国語大学卒業。在学中に『優しいサヨクのための嬉遊曲』で小説家デビュー。『彼岸先生』で泉鏡花文学賞受賞、『退廃姉妹』で伊藤整文学賞受賞。『悪貨』(講談社)、『徒然王子』(朝日新聞出版)など著書多数。法政大学国際文化学部教授。
渋谷慶一郎: 音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立。2007年にはアルス・エレクトロニカ・デジタル・ミュージック部門でHonorary mention受賞。2009年には初のピアノ・ソロ・アルバム『ATAK015 for maria』を発表。2010年には相対性理論とのコラボレーション『アワーミュージック相対性理論+渋谷慶一郎』をリリース。最近では映画『死なない子供、荒川修作』の音楽、ドラマ「Spec」で音楽を担当するなど旺盛な活動を続ける。今年の3月から5月にかけてヨーロッパでのコンサート、インスタレーションの発表が決定している。
※全文提供: イムラアートギャラリー
会期: 2011年3月26日(土)-2011年4月23日(土) 会場: イムラアートギャラリー東京 オープニングレセプション: 2011年3月26日(土)18:00 −
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