展覧会
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執筆: 記事中参照
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公開日: 2011年 7月 23日 |
今年の5月、わたしはガンジス河を行き交うボートの上にいた。インドを訪れるのはじつに12年ぶりか。 脱サラしてこれからどうやって生きていこうか、そんな不安な気持ちで放浪していたことを思いだす。 インドで観たいものや会いたい人がいるわけではない。ヒンドゥー教に興味があるわけでもない。 ただ、すべてのシガラミを捨て人生をリセットしたい、そんな気持ちで旅をつづけていた。 あれから12年、カメラマンとしていろいろなものを撮りながら、暇を見つけては世界を旅して写真を撮ってきたが、いまだに自分が本当に撮りたいものが何なのか、わからないままだ。
ところで東北の大震災によって、わたしたちの日々の生活は見なおしを迫られている。 便利な生活がしあわせなのだと信じてきたけれど、じつはそれはとても脆弱で不安定なシステムのうえに乗っかっていた。 自然の力のまえでは、そんなシステムなどほとんど無力だと感じずにはいられない。 ここで本当のしあわせとは何かを議論するつもりはないが、そうした生活のなかでわたしが写真を撮る意味は何か。 表現するとはいったい何なのかをずっと考えている。 答えはまだ出ていないが、震災以降、わたしのなかで何かが変わろうとしているのはたしかだ。
今回の写真展はいわばこの12年間の総括だ。はじめての個展なのに総括なんていうのはおかしいけど、これまでいろいろ撮ってきてまとめきれなかった写真群をいまこの写真展で葬ってやるような気持ちでいる。ここに現れなかったボツ写真はガンジス河に流されて、またべつの写真となって生まれかわるであろう。 同時にカメラマン松野幸一もこれらの写真とともに一度死に、また新しい視線をもって生まれてくることを願っている。
松野幸一 1962年 大阪生まれ 1984年 公立中学校の教諭として教壇に立つ 1999年 中学校教諭を辞め、インドを放浪する 2002年 日本写真映像専門学校卒業。以後、職業カメラマンとして写真を撮りながら、世界の国々で自分の写真を撮りつづけている
全文提供: ブルーム・ギャラリー
会期: 2011年9月6日(水)-2011年9月18日(日) 会場: ブルーム・ギャラリー
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最終更新 2011年 9月 06日 |