密やかな絵画〜現代パキスタンのミニアチュール |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 6月 01日 |
Imran Qureshi,《This Leprous Brightness I》2010年 弊廊は1970年代以降韓国と中国の現代美術に着目してきました。今回はその延長として、南アジア美術の最先端をご紹介いたします。本展では、ベネチア・ビエンナーレをはじめ国際的な作家活動を続けるアーティスト、イムラン・クレシと、同氏が教鞭を執るラホールの国立美術学院出身のアーティスト9名の作品を展示いします。 パキスタンのミニアチュールは、16世紀から19世紀にかけてインドから中央アジアの広大な領域を支配したムガル帝国に起源を持ちます。イスラムとヒンドゥの融和政策によって文化の混交が進み、ミニアチュールも新たな展開を遂げました。建築的厳密さや、叙情的な線形を特徴とするペルシャ王朝絵画に、風土に根ざした表現と明快な色彩が加わります。また、中国、インド、ヨーロッパのさまざまな芸術文化が取り入れられ、ハイブリッドな性質を強めました。 19世紀以降、帝国の崩壊、ヨーロッパによる植民地化、独立とそれに続く印パ戦争を経て、ムガル絵画の伝統はパキスタンを拠点に存続することになります。イスラムによる宗教的継承と、学術機関による制度的保障がその基盤となりました。そして、現代パキスタンのアートはこの伝統から力を汲んで芽生えることになります。 現代パキスタン絵画は、ムガル・ミニアチュールの技術を継承しつつ、アクリル、インク、マーカー、ボールペンなどの現代的素材や、人毛等の特殊な素材を併用します。とりわけ、イムラン・ケラシの表現はミニアチュールの枠組みを遥かに踏越え、インスタレーションにまで達します。さらに、従前の宮廷生活のモチーフには、強い社会的・政治的主張が取って代わります。暴力とその子供への心理的影響を扱うカーディム・アリや、自身の事故体験と身体障害を主題にするアッティア・ショーカットなどによって、ミニアチュールは個人的表現を織り込む場に変貌しました。 ムガル文化において、ミニアチュールは私的なアルバムとして保管・鑑賞されてきました。現代のパキスタンアートは公の場に開かれつつも、その本来の私的企図を守っている点にその特徴があると言っていいでしょう。伝統と革新の両方かから豊かな可能性を導きだすアジアの先端的表現を、是非この機会にご高覧ください。 出品作家 ※全文提供: 東京画廊+BTAP|東京 会期: 2011年6月4日(土)-2011年6月25日(土) |
最終更新 2011年 6月 04日 |