モノトーンのかたち -陶芸の領域にある表現- |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2011年 5月 20日 |
近年、現代美術の領域では陶芸の作家の発表が目覚しく、一種のムーブメント的な様相を呈してきております。この要因には、美術の領域における新たな表現の提示の行き詰まり感、そして工芸としての陶芸の領域における美術としての価値観の向上といった、美術と陶芸の双方に明確な思惑が存在していると考えられます。明らかにそれぞれの領域の革新ということが大前提にある現代において、ここ最近の美術と陶芸の接近する速度は、メディアの進化によって目まぐるしく状況にあります。そのため、美術の領域でどのように陶芸そのものを捉えていくべきかを真摯に考える時間が不足しているように思います。 美術、工芸、それぞれの領域から生まれる作品は、素材や様式を省くと概して表現と技術の二つの要素で構成されるものと言えます。この二元論で両者を分類した場合、表現に重きを置くのは美術、技術に重きを置くのは工芸と考えることができます。工芸の主たる特徴である伝統を支えているものは現在に至るまで連綿と伝わる技術であり、陶芸もその類に漏れず土や石を用いて造形し焼成するという技術が基盤としてあります。一方で美術の領域は、近代以降さまざまな領域にある手法を取り入れて、素材や技術のみでは分類不可能なほど境界線が曖昧なものとなっています。素材や技術の取捨選択の前提にあるものは作家の意思や感覚によるものが大きく、作家自らの制作の主題に基づく選択、すなわちそこには表現の要素が強く関与していると言えるでしょう。 当展では、この美術における「表現」という要素から陶芸を読み取るために、陶芸のかたち・造形に焦点を絞ります。土石に限定された素材と、実用品制作という概念が技術の要素の素地にあるとすれば、歴史の中に時々出現する造形的な様式は、陶芸界におけるアイデンティティの転換のしるしだったのではないでしょうか。古墳時代の埴輪や、古伊万里の人形類、備前焼の細工物などにおいて、当時には作家の表現という概念は無かったと思われます。しかし、実用品から造形的なものへと用途やかたちに変化が生じることによって、自然な流れで美術的な「表現」が成立したと解釈できると思います。近代に入り、西洋から流入した美術工芸分離の概念によって一旦リセットされますが、戦後の走泥社の出現によって陶芸の美術的「表現」が大きく注目され、両者の関係は活発に議論されました。いま「表現」がさらに複雑で多様化した時代に、現代陶芸のあり方を深く見つめ直す必要があると思います。 当展で発表する3名の作家は、共通してモノトーンに限定した色彩で作品を制作するスタイルを遵守しています。モノトーンの中でもそれぞれが理想的と考える色調を探究し提示していますが、その目的は造形表現を強調するための一つの要素であると言えます。色彩の表現領域を限定することで、より造形に依拠した表現の多様性の展開を、この3名の作品を通じて明確に感じていただくことができるでしょう。日常的な人工物や動物を型技法を中心に制作し表現する三木。一つ一つ手びねりで作り上げたパーツを組み合わせ、空想的な花のオブジェを制作する新宮。伝統的スタイルを遵守し、ロクロの卓越した技術で大胆な器や花器を制作する北野。3名の対照的な造形手法と陶芸からのアプローチを通じて、陶芸の領域における表現のあり 方を再考する機会になればと思っております。 三木 陽子(Yoko Miki) 〈主な個展・グループ展・受賞歴〉 新宮 さやか(Sayaka Shingu) 〈主な個展・グループ展・受賞歴〉 北野 勝久(Katsuhisa Kitano) 〈主な個展・グループ展・受賞歴〉 ※全文提供: YOD Gallery 会期: 2011年5月28日(土)-2011年6月25日(土) |
最終更新 2011年 5月 28日 |