風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2011年 1月 19日 |
欧米を中心に60 年代から70 年代にかけて広がったコンセプチュアル・アートは、文字や記号による非物質的な表現をはじめ、映像、パフォーマンスなどジャンル横断的な広がりを見せました。その後、制度批判的なアートや、これまでの美術史・美術批評に厳密に言及した自己批判的なアート、さらに90年代以降は日常性や身体といったキーワードも取り込んだアートを含め、今日ではより広い範囲の作品を指して「コンセプチュアルな」という言葉が用いられます。 本展覧会は、より広い意味でのコンセプチュアルな傾向をもつ作家たちをアジアの各地域から紹介する初めての試みです。アジアという場を措定することの困難さをふまえつつも、あえて「アジアから」としたのは、制度批判・歴史批判的なその性質上、欧米中心的な文脈で成立してきたコンセプチュアル・アートに、異なる角度からアプローチするためです。 アジアとは何か、コンセプチュアリズムとは何かという問いにひとつの答えを出すことが展覧会の目的ではなく、アジアに出自をもつ作家たちが、芸術をめぐる現在の状況へどのように反応していくのか、さまざまな態度が示唆される多声的な場を生み出すことを目的としています。あらゆる場面で欧米中心の価値基準が相対化されていく中、作家たちは自らのアイデンティティを見つめ、アートワールドの中で作動しているポリティクスを注意深く見極めながら、自分たちの規則、寄って立つ場を探っています。 たとえば、中国の近代化をアーカイヴという手法を通して見直す邱志傑(チウ・ジージェ)。作品を成立させるシステムやルールに細心の注意を払いながら展示空間を構築する木村友紀。パフォーマンスをベースに「都市」に反応し続けるcontact Gonzo。タイのアラヤー・ラートチャムルーンスックやベトナムのディン・Q・レーの作品は、アートが成立する場について問いかけながらも伸び伸びと爽やかな印象を与え、私たちの価値観を解きほぐしていきます。島袋道浩や韓国のヤン・ヘギュらは、日常の中に作品の素材となるものごとを見出し、感覚的でありながらも優れた批評性を作品に内包させることで、私たちの日常を転換させます。他の作家より少し上の世代となるプレイの牧歌的ともいうべきユーモアは、現代の閉塞感に柔らかな風を吹き込み、また若い世代の作家たちと響き合うことで新たな発見をもたらすものとなるでしょう。活版や古紙を用いたデザインワークで知られる立花文穂による印刷物(チラシ・チケット等)は、展覧会に独特の手触りと温かみを与えます。さらにカタログ編集にも立花の視点を取り入れることで「もうひとつの風穴展」ともいうべき世界が立ち上がります。 「風穴」とは、風の抜け道です。無理やりこじあけるのではなく、すでに開いている穴をもう一度通ってみること、そこから吹き込んでくる風を感じてみること。足場をしっかり固めて遠くを目指す。規則のほころびを捉えて、物事や領域の隙間を押し広げる。「コンセプチュアリズム」は、芸術を狭い意味に閉じこめるのではなく、枠組みを解体することで新しい風を呼び込み、無限の可能性を見せてくれるものです。さらなるグローバリゼーションと激しい経済変動のなか、知恵とユーモアで新しい風を呼び込む作家たちによる「もうひとつのコンセプチュアリズム」を是非ご覧下さい。 【出品予定作家】 【関連イベント】 ■対談 ■トークイベント ■パフォーマンス ■ギャラリー・トーク(担当研究員による作品解説) ■ギャラリー・トーク(担当研究員)+パフォーマンス(contact Gonzo) ※全文提供: 国立国際美術館 会場: 国立国際美術館 |
最終更新 2011年 3月 08日 |