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小谷元彦:SP 4 ‘The specter’ in modern sculpture
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 3月 04日

Copyright © Motohiko ODANI / Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

小谷元彦(おだにもとひこb.1972)は、1997 年の個展『ファントム・リム』でデビューし、2000 年リヨン・ビエンナーレ、2001 年イスタンブール・ビエンナーレ、2002 年光州ビエンナーレ、また2003 年にはヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表となり、国内外を問わず大きな評価を得てまいりました。そのほか、水戸芸術館(茨城)、サンドレッド財団(トリノ)、ソンジュ美術館(ソウル)、森美術館(東京)、キアスマ現代美術館(ヘルシンキ)、国立国際美術館(大阪)などのグループ展でも新作の発表を続け、精力的に活動を続けています。

東京藝術大学在学時は彫刻科に籍をおいていた小谷ですが、その作品は彫刻に留まらず、写真、ヴィデオ、インスタレーションなど多岐に及び、メディアを限定しない多彩な表現方法により制作することのできる、類い稀な作家です。

今回の個展で小谷が満を持して発表いたしますのは、彫刻のひとつの原点ともいえる、等身大の「騎馬像」と「裸婦像」です。 日本の近代彫刻における人体表現は、極東の閉ざされた環境のなかで、ロダンを筆頭に欧米の作家による影響でつくられたものでした。ともすると今もなお根強く残るその信仰とも言える人体表現における価値観は、ある意味ゾンビ ー死んでいるのに生きながらえているー のような分野であったという、日本近代彫刻史に対する作家の見解を踏まえています。近代以前にさかのぼり、現代作家の小谷が再解釈を与え制作することによって、騎馬像と裸婦像を、時間を超越したものにしようとする試みです。

更に、今回発表する作品は、「ゾンビ」をキーワードに、「人の脳のなかに存在するゾンビ」を彫刻化させるというコンセプトのもとに制作されており、従来の勇者を讃える騎馬像とも、美を称える裸婦像とも異なった解釈を与えています。 それは、自分のなかに「自己」に相当するたったひとつのユニークな存在は実はなく、脳内に幻影(ファントム)がたくさん存在しており、それらが思考を徘徊して自分を行動させているのではないか、という疑念を可視化するー脳内にいるファントム(ゾンビ)を彫刻化するー というアイデアに基づいています。このゾンビが立ち現れる姿として彫刻化するにふさわしいのは、まさに「騎馬像」と「裸婦像」ではないでしょうか。

小谷の「騎馬像」の老齢の騎士は、馬とともに半解し、目を剥き筋肉を露呈させ、おそろしい形相でぐるぐると脳内を走り回る、死神のような様相です。 「裸婦像」は、つま先立ちでゆらりと立ち尽くすかのようなポーズで、実像とも幽霊ともつかぬ裸婦です。右手に心臓、頭に百合の花を持ち、血管をあらわにしたように真っ赤な全身をしており、不気味な表情を称えています。

いわば百通りも千通りも歴史的につくられてきた、公園や公共施設などに日常のなかにありながら、なかば忘れられている「騎馬像」と「裸婦像」というクラシックで保守的なモチーフを、脳のなかのゾンビを彫刻化させるというコンセプトに照らし、あえて制作し発表する所存です。彫刻科出身の小谷元彦が挑戦するこれらの作品は、古びたモチーフに新しい息吹を吹き込んだ彫刻作品としてむしろ存在感のあるものになると、わたくしどもは考えております。

※全文提供: 山本現代

最終更新 2009年 4月 04日
 

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