展覧会
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執筆: 記事中参照
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公開日: 2009年 10月 12日 |
島の連なりとしての世界へ 2009年10月3日、写真家の平敷兼七さんが肺炎をこじらせて亡くなった。
平敷は、1948年に今帰仁村に生まれ、生地である沖縄を半世紀にわたって撮り続けていた。ぼくが彼と初めて出会ったのは、数年前に那覇で開かれた写真関係者の集まりの席だった。どんなことでも正面から受け止めてくれる人柄に惹かれて、以後、沖縄に行くたびに彼の所を訪ねるようになった。
平敷は娼婦や労働者など市井に生きる無名の人々を、敬意と共感のまなざしでまっすぐに撮る。深い関係性の中から生まれる無数のモノクロ写真は、彼にしか撮れない戦後の沖縄における希有な記録そのものだった。
ぼくは世界を知るためには、自分の目で世界を見て回る必要があると思っていた。しかし、平敷とつきあううちにその考えはあっけなく崩れ落ちていった。彼は沖縄しか撮らない。なのに、彼は人間が生きるこの世界のことを深く知り、言葉以前の世界と明確に向き合っている。部分から全体を、島から世界を見つめ返す精神の軌跡は、これらの写真のなかに確固として存在している。
現在、準備中の写真集『ARCHIPELAGO』には、那覇に程近い平敷の自宅で撮影させてもらったポートレートが入っている。すでにプリントは印刷所に入稿してあり、あとは印刷を待つのみという状態だった。本が出来上がったら真っ先に平敷に届けようと思っていた矢先、彼の訃報が届いた。
『ARCHIPELAGO』は、日本の南北に点在する島々、すなわち、南はトカラ列島、奄美、沖縄、宮古、八重山、台湾、北は北海道やその周辺の離島、サハリン島、クイーンシャーロット島などで撮影した10年分の写真によって構成される。国境によって区切られた地図を自明のものとせず、島の連なりとして世界をとらえ直してみるという自分なりの試みでもある。
中京大学Cスクエアでは、そうしたシリーズのなかでも南方で撮影した写真を展示する。ぼくは平敷にこの展覧会をみてもらいたかった。小さな島々から大きな世界を見つめ、一つの中央ではなく無数の中心へと向かうという姿勢は、すべて彼から学んだものである。平敷兼七氏に最大の敬意を表して、ぼくはこの展覧会を開催したい。
石川直樹
石川直樹(いしかわ・なおき) 1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。2000年、Pole to Poleプロジェクトに参加して北極から南極を人力踏破、2001年、七大陸最高峰登頂を達成。人類学、民俗学などの領域に関心をもち、行為の経験としての移動、旅などをテーマに作品を発表し続けている。2006年、写真集/展覧会『THE VOID』により、さがみはら写真新人奨励賞、三木淳賞受賞。2008年、写真集『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を受賞。2009年、写真集『Mt.Fuji』(リトルモア)、『VERNACULAR』(赤々舎)を含む近年の活動によって東川賞新人作家賞を受賞した。著書に『いま生きているという冒険』(理論社)、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新写真集『ARCHIPELAGO』を(集英社)11月に発売、同名の写真展を12月24日より品川・キャノンギャラリーSで開催する。2009年12月19日~ 2010年2月7日まで、東京都写真美術館で開催される『日本の新進作家展vol.8』に参加予定。
全文提供: 中京大学アートギャラリーCスクエア
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最終更新 2009年 10月 19日 |