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ふるさかはるか:トナカイ山のドゥオッジ
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2014年 8月 28日

「トナカイ山のドゥオッジ」展示予定作品
DM使用画像

ギャラリー・パルクでは、2014年8月30日[土]から9月14日[日]ま で、「 トナカイ山のドゥオッジ : ふるさかはるか 展」を開催いたします。
ふるさかはるか(1976~)は、自然素材の観察から生まれる木版画 を制作しています。ふるさかは木版画を制作するにあたり、まず版木と なる無垢の木の持つカタチやフシ、木目などと関わりながら図案を描 いていきます。

その木版画はいわゆる「掘り進み木版画」とも呼ばれる物で、ひとつ の版木を彫って色を刷り、またその版木を掘り進めては刷るを繰り返 すものです。最終的に版画が刷り上がった時には版木は最後の刷りの 状態に彫られており、後から同じ版画を刷ることが不可能なこの手法 は、いわゆる量産・複製可能な印刷としての版画の特徴と相反する要 素を持つもので、ふるさかはこれまでに多くこの手法を用いて版画制 作に取り組んでいます。また、その版木にのせる絵の具は、身近な土を 掘り集めて水に溶き、沈殿させて漉した「土絵の具」を多く用い、淡く不 確かにも見える独特の色彩を紙に重ねてゆきます。

時に版木の木目さえもが写し取られた画面には、ふるさかが見て・ 聞いて・感じた経験を基に、木に向き合う制作過程にあった偶然や必 然、土や木や紙という自然素材との関わり合いなどの様々な要素が交 錯し、そこにひとつの画を結びます。

ふるさかはこれまで、3度に渡ってノルウェー北極圏・ラップランド地 域に暮らす北欧の先住民族であるサーミの人びとを訪れています。時 には2ヶ月に及んで関わり・暮らし、たくさん話しをするなかで強く感じ 取った「自然から受け取った素材の形を借りて自然に還す」というサー ミ人の美学・哲学は、身近な自然素材に必要最小限に関わり、その要 素を最大限に用いるふるさかの制作姿勢と重なるものです。  本展では、なかでもトナカイの遊牧生活を営む彼らと関わりの深い 手工芸品ドゥオッジ(Duodji)にまつわる言葉を書き留めたものを基 に、木が版木となって再び木に戻る「掘り進み」による水彩木版画によ る作品を中心に発表します。

ドゥオッジにみるサーミの美学・哲学に習い、書き留めた言葉を基 に、日ごろから収集している土や木を用い、細やかな彫りによる線の 集積によるおよそ10点の木版画とともに、その版木、土絵の具のイン スタレーション、トナカイの声、ブーツなどを展示します。

[作家コメント]
真冬の北極圏、ノルウェー・フィンマルク県マーツェ村へ。太陽
の昇らない世界とトナカイ遊牧民サーミの人びとに出会った。
オーロラをたくさん見、マイナス40度の世界を歩き、太陽は今
どこを照らしているのだろう、などと想像しながら過ごした。
エレンさんがトナカイの毛皮でブーツを作ってくれた。これをも
らった時、ドゥオッジ- 手工芸- というサーミの言葉を覚えた。
初めてマーツェを訪れてから10年余りの間に、サーミのことを
少しずつ知るようになった。そば置いて愛でてきたトナカイの
ブーツから、ドゥオッジを忘れないよう言われ続けてきたように
思う。初めは太陽のでない自然環境を見てみたくて訪ねたけ
れど、今では人がどうやって厳しい自然と付き合いながら暮ら
しているのかに興味が湧くようになった。
スキーはサーミが発明したという説がある。サーミはスカンジナ
ビア半島北部に暮らす先住民族。古くからトナカイの遊牧を基
盤に生活してきた。国境を持たなかったけれど、周囲の国に
国境を引かれ、サーミの住む土地は4つの国に分けられた。
サーミ語はウラル語族に属している。かつての同化政策で
サーミ語を話すことを禁じられたこともあり、今ではサーミであ
ることを隠す人も主張する人もいる。マーツェは人口のおよそ
100% がサーミの村。だから私はサーミであること誇りに思って
いる人ばかりに出会ってきた。
北極圏の白夜の夏は短い。沈まない太陽が黄金色に輝き、蚊
や魚や植物が一斉に繁殖期を迎える。トナカイの群れは、夏に
は北の海岸へ、冬になると南の内陸へと移動する。トナカイ飼
いの人びとはその群れを追って遊牧する。トナカイ飼いは小屋
を点々と所有していて、そこを拠点に山々を移動し、ツンドラの
大地にテントを張って野営する。
夏になるとトナカイ飼いは、幼いトナカイの耳に切り込み印をい
れ、所有者を識別する。円形のフェンスの中にトナカイの群れ
を追い込み、印のないトナカイを仕分けする。刻印作業はたい
てい、黄金色の太陽が輝く真夜中に行われる。昼間の気温は
高すぎて、トナカイが弱ってしまうらしい。トナカイ飼いは昼夜を
問わずトナカイの動きと天候を読んで生活する。円形のフェン
スの近くにテントを張り、親戚一同が集合してトナカイの仕分け
を手伝う。大人も子供も並んで長い布を持ってトナカイの群れ
に近づき、フェンスの中へと追い込んでゆく。フェンスの中で
は、リーダーが子供に耳の刻印を手ほどきする。サーミのすべ
てが次の世代へ受け渡されていく光景。追い込まれたトナカイ
の群れの熱気がむっと立ちこめ、切った耳の欠片が地面に散
らばっている。
言い伝えや民話を探して人びとから話を聞いているうちに、彼
らの話す言葉そのものがとても面白く、サーミの生き方や自然
の中での振る舞いをよく表しているように思えてきた。家にある
ドゥオッジをみせてもらいながら話を聞いて回り、彼らの言葉を
元に版画を作ることに決めた。
彼らの言葉から気づいたことは、彼らの誰もが自然に打ち勝と
うなどせず、自然の中に身を隠し、静かに身を守るような行動
をとるということ。
トナカイや白樺を使った手づくりのドゥオッジは、素材の源となる
自然とそれを使う人との間にある。道具でありアイデンティティを
表す芸術でありながら、厳しい自然環境から人の身を守る。武
器ではない。「自然から受け取った素材の姿を借り、自然のある
べき形に還す」というドゥオッジのつくり方は、恐るべき自然の中
に身を置き生きてきた、サーミの守りの哲学の表れなのだろう。

[作家プロフィール]
1976 大阪府生まれ
1999 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
木版画アトリエ空中山荘 主宰 大阪市在住

主な個展
2002 "Freezer", ヴァーサ市立図書館, ヴァーサ, フィンランド
2004 "FROZEN BUSH", ギャラリーなつかb.p, 東京
2007 "重力のゆくえ", ギャラリーなつかb.p, 東京
2011 "ベスカエダス山とトナカイの数え方", 中之島4117ポストギャラリー, 大阪
2012 "Twinkles on Mountains", Cafe by the Ruins, バギオ, フィリピン

主なグループ展
2003 "インディペンデントCASO展", 海岸通ギャラリーCASO, 大阪
"Under trial", 海岸通ギャラリーCASO, 大阪
2006 "Moku Hanga", Pont Aven School of Contemporary Art, ポンタヴェ
ン, フランス
2006 "Saiohin", 金戒光明寺西翁院, 京都
2007 "USM International Print Exhibition", Gallery of Cultural, Invention
and Innovation, Universiti Sains Malaysia, ペナン, マレーシア
"Asian Arts Week", Community Gallery, Columbia Museum of Art,
サウス・キャロライナ州, アメリカ
"International Printed Arts Exhibition 2007", Hat Yai Art Galle ry, ハ
ジャイ, タイ
"Rentas Sempadan: Penen g In ternational Pri nt E xhibition",
Penang State Art Gallery, ペナン, マレーシア
"A Time and a Place: IMPACT 5 ", Deco Gallery, タリン, エストニア
2009 "Surimono / in ternational : IMPA CT 6 ", Un iversity of the West
England, ブリストル, イギリス
2011 "オルボシュ山の一夜" , gallery yolcha, 大阪
"photograph", C.A.P. Y3, 神戸
2013 eno-co-labo vol.1 "木版風景:木はわたしの鏡", 大阪府立江之子島文化芸
術創造センター, 大阪
アーティスト・イン・レジデンス
2002 Ateljé Stundars, ソルフ, フィンランド
2003 Art center in Máze, マーツェ, ノルウェー(’05 ’11 )
2007 アーティスト・イン・レジデンス・アット・伊賀2007, 三重

コレクション
Svenska Österbottens Förbund, フィンランド
University Sains Malaysia, マレーシア

ふるさかはるか

全文提供:Gallery PARC
会期:2014年8月30日(土)~2014年9月14日(日)
時間:11:00 - 19:00 金曜日20:00まで・最終日18:00まで
休日:月
会場:Gallery PARC
最終更新 2014年 8月 30日
 

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