| EN |

鴫剛 新作展:十年の沈黙ののちに
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2012年 1月 06日

鴫剛《REQUIEM》|2011年|油彩、キャンバス455×530mm

鴫 剛 新作展にあたって
2001年10月の西村画廊での個展以来、10年間もの長い間個展で作品を発表していなかった鴫 剛(シギ・ゴウ)が沈黙を破り、新作を発表する。

なぜ今、沈黙が破られたか、どのような経緯があったか、それには確かな理由があった。

鴫は長きにわたって、女子美術大学で美術教育に携わり、付属の高等学校・中学校の校長もつとめた。2010年に長年の画業と教育への功績に対して紺綬褒章が授与された。

しかし、その職歴の終わりの頃に一時健康をこわした画家・鴫の脳裡にはさまざまの形にならぬ思いがよぎっていたという。

鴫 剛の名が世に広く知られ記憶されたのは、1970年代の「団地」シリーズである。日本におけるスーパーリアリスムの先駆者であり、今も代表的存在である。

その手法は写真と密接に関係するが、社会に対する鴫の鋭い問題意識がコンセプトを支えている。

2012年初頭の新作個展が新たな場所で企画され、脳裡にある形にならぬ思いを形にすべく鴫は動き出した。この時代、この時点で画家は何を描くべきだろうか。

足は東京のど真ん中へ、そして自然と国会の周辺に向かっていった。折しも長年の自民党体制から民主党が政権を握り、ひどく不穏な混沌が生じていた。

その形にならなかった思いが、突然画家の脳裡に形になって現れた。

きっかけは2011年3月11日の東北大震災である。想像を絶する大津波、安全神話を覆した原発事故の恐怖の収まらぬ中のある日、鴫は不思議な光景を見た。その光景が画家に描かずにいられない、“コンセプト”を超えた力を与えた。

鴫は語る―「描画のための写真は、確かにきっかけにはなるが、今回の経験は全く異なっている。目と場面と手がいっぺんに、本能に突き動かされて動き出した。いわば経験値によってインテリジェンスが動き出す結晶性知能とでもいうべきものが働き出したようだ。」また、ピカソの逸話にふれながら「資質は戦略を超えると以前きいたことがあるが、経験がコンセプトを超えるともいえる。今、新しい知性を生み出す脳がまだ自分にもあるぞ、と感じている」と。

10年の沈黙ののちの鴫 剛の新たな挑戦をこの新作展でご高覧いただき、ご高評を仰ぎたく、お知らせ申し上げます。(ガレリア・グラフィカ)

[作家コメント]
大地震・大津波・原発事故、そして世界各地の自然大災と政治・経済に起因する社会紛争…….etc. 

2011年と言う年はなんとも天災・人災・大厄災の大変な年になってしまった。この衝撃で絵が全く描けなくなった作家の話を良く耳にする。

また一方では義捐金募集やボランティア活動に励むアーチスト達やその機関の存在も知らされる。

そして機能不全を起している日本の国会がこんなに多くテレビ映像として流されたこともかつて無い。

私はそんな国会議事堂周辺や都心を写真取材していたのだが、ある日、噴水公園で吹き上げる噴水の合間に輝く太陽を見た。

それは古代の人達が屹度、畏敬と希望をもて感じたであろうと想う人智を超越した体験であった・・・

それまで、すっかり気が萎えていた私はその時、“喩え、明日の世界が無くなろうとも、今、私は私の絵を描こう”と言う気持ちに成っていた。 (鴫 剛・2011年12月)

油彩100号~80号程度6点、油彩小品、エンピツドローイング数点を展示予定。

全文提供:ガレリア・グラフィカ


会期:2012年1月10日(火)~2012年1月21日(土)
時間:11:00-19:00 (最終日1階のみ17:00まで)
休日:日曜
会場:ガレリア・グラフィカ

最終更新 2012年 1月 10日
 

関連情報


| EN |