日仏アート交流により前橋市街地に新しい“顔”を 経済の中心が周辺の地域に移り、前橋の市街地には、さびれた場所が見受けられるようになった。老舗百貨店の使われなくなったフロアー、降ろしたままのシャッターが目立つアーケード商店街、明かりの消えた町内の小劇場…。幸せな過去の面影を残したまま、ひっそりと今を生き、それとは違う未来を夢みている。
これらの場所に新たな“顔”を創り出そうという国境を越えた試みが、群馬日仏協会の呼びかけに始まり、前橋工科大学の協力と、前橋市ならびにフランス大使館の支援を得て進んでいる。
かつて、群馬という地では、フランスとの交流によって経済的・技術的革新をとげた時代があった。それから一世紀半たった今日、「形象の発明家」である日仏アーティストたちにより、再び日仏交流の意義ある歴史が刻まれることになるだろう。
群馬県の県庁所在地で行われる「アートプロジェクト前橋」では、参加する日仏アーティストを実績本位で選抜し、アートが街を活性化する原動力となるよう、アーティストたちを活動の中心にすえている。また、様々な交流の場を用意することで、異文化交流が投げかける問題にも答えていきたい。
さらに、このプロジェクトは、フランスのブザンソン市におけるブザンソン芸術大学をはじめとした様々な美術団体とのパートナーシップに向けた第一歩でもある。今後、フランス諸都市の美術団体と強固な絆を結んでいくことにより、国際アート交流を発展させながら持続させていくことを望んでいる。
プロジェクトの概要 2011年夏、フランス人キュレーターにより選ばれたフランス人アーティスト4人と日本人アーティスト4人が、前橋で3ヶ月にわたるアーティスト・イン・レジデンスを行う。平行しておこなわれる前橋工科大学とのワークショップでは、学生たちとの交流がはかられる。
このプロジェクトでは、アーティスト・イン・レジデンスとしてはじつに珍しい試みがおこなわれる。中盤以降の毎週末に、創作活動の途中経過を公開する「アート・カフェ」と名づけられた交流の場がもたれるのだ。来場者は、生み出されつつある作品を鑑賞し、アーティストに出会うことができる。そこではコーヒーがふるまわれるだけでなく、アートの枠にこだわらない数々のイベントが開催される。講演、コンサート、パーフォーマンス、上映…すべてが、無償で提供される。
レジデンス終了後には、一週間にわたり、レジデンス期間中に行われた試みのすべてが展覧会として公開される。それは、プロジェクトで企てられた様々な出会いの軌跡である。日本とフランス、アートとその周辺分野、アーティストと学生、そして、アートと市民。見知らぬ者たちが出会ったその先には、アートの街としての前橋が見えてくるだろう。
【参加アーティスト】 フランソワ・ベナール Francois Benard 展示台とその上にのせられる立体作品とがどういう関係にあるかという観点からすると、 フランソワ・ベナールは、台であるコンクリートのなかに作品を打ち込んでしまうと言ってよいだろう。あるいはコンクリート自体を作品化するとも言えるだろうか。
ジュリアン・カドレ Julien Cadoret 表層的なペインティングから出発し、作品を鑑賞する者の感覚空間に関心を向けるジュリ アン・カドレは、日常生活のなかで使われる、平凡でありながらペインティングを想起させる材料を使用する。彼の作品は、地味な色合いのときもあれば、カラフルなときもあるが、どちらにしろ度が過ぎるということはない。彼なりの感覚世界のなかに、彼なりの道筋をひいていく。鑑賞者は、彼が創った道を辿ってもいいし、辿らなくてもいい。ブザンソンのアートNPOであるEnCasOuのキュレーターとして数々のプロジェクトの企画もおこなっている。
ジョワニ・メルール Johanny Melloul ジョワニ・メルールは、アート・シーンとはほど遠い形象、グロテスクで大衆的な形象を描く。彼のデッサンは、自由で自発的な表現だ。笑いを誘うデッサンから、痛ましいデッサンまで、彼の想像力に限度はない。無制限に生み出されるデッサンが、空間配置の厳密さと結びつくことで、ジョアニ・メルールの世界はどんな場所でも成立してしまう。彼は他のアーティストたちとグループで活動することが多い。Pelvis Enrages(“怒りのエルビス・プレスリー”のもじり)というロック・グループでも活躍している。
イヴ・クルケル Yves Koerkel イヴ・クルケルは同じ作業を繰り返す。大量の紙を全く同じように折っていくのだ。折ることで形象が浮かび上がる。広告のモデルの顔は、折られることで立体作品となる。彼の作業は現実と切り離されてはいない。世界の平面を折ることで、厚みが与えられ、より幸せな世界の実現にむけて、祈りがこめられる。
藤井光 Fujii Hikaru ある意味、藤井光は作者ではない。オーソドックスな創作活動をしないからだ。藤井光は、出会いを企画し、それに参加し、状況(situation)を創り出す。社会とそれに注がれる眼差しは、刻々と変化する。その現実的でありながら象徴的な変化は、ほとんど人目に触れることのない無数の行為者によって生み出される。藤井光はその人たちを可視化することで、自身もまた、変革の行為者となる。
野本翔平 Shohei Nomoto 野本翔平にとって、アートは目的ではない。どうやってアートするのか?という問いかけのかわりに、彼はこう自問する。「何しよう?」 野本翔平は、出会いを企画する。些細 などうでもいいモノを使ってパーフォーマンスをする。選挙にでる。その他、数え切れないほどの役に立たないことをする。現実に触れる経験がしたい、ただ、そのためだけに。 日々のなにげない行為にどんな意味を与えることができるのか、ただ、それを確かめるためだけに。
八木毅 Tsuyoshi Yagi しばしば、アートとしてのオブジェと、商品としてのオブジェとの間に境界線を引くのは難しい。レディーメイドから、ミュージアムショップでみるアートの商品化までは、ごく僅かな差異しかない。普段、八木毅はミュージアムショップのアートグッズを制作する会社に勤めている。彼はアーティストとして、境界の曖昧さそのものを作品を通して鑑賞者に経験させる。
ヨシダシンゴ Shingo Yoshida ヨシダシンゴはいつも他所にいて、自分の家にはいたことがない。かといって、旅行者というわけでもない。しじゅう動き回っているくせに、実は固定点を探している。自分の家を背負って歩いている、とでも言えばいいだろうか。ヨシダシンゴが探しているユートピ ア的な固定点は、他者との関係が可能な表象の場である。ごく普通の鑑賞者が自分の対話者になること、それはアーティストにとって最大の冒険だ。
【アートカフェ イベント日程】 ■7月30日(土) 午後2時より 中央商店街アーケード内 ワークショップ:アーティストYves Koerkelによる参加型アート制作 参加者:前橋工科大学2年生たちと、道行く人々
■7月31日(日) 午後2時より 中央商店街アーケード内 ワークショップ:アーティストYves Koerkelによる参加型アート制作 参加者:前橋工科大学2年生たちと、道行く人々
■8月6日(土) 午後4時より 前橋スズラン別館 5階 ヴィデオ上映会「such and such a place 20032011」 制作者・ゲスト ヨシダ シンゴ
■8月7日(日) 午後4時より 前橋スズラン別館 5階 講演 「ひげの生えたモナリザたち」 講演者:Marc Décimo (フランス オルレアン大学) フランス語(通訳あり)
■8月13日(土) 午後4時より 前橋スズラン別館 5階 アーティスト・トーク、パフォーマンス アーティスト:Julien Cadoret
■8月14日(日) 午後4時より 前橋スズラン別館 5階 アーティスト・トーク、パフォーマンス アーティスト:Julien Cadoret
■8月20日(土) 午後4時より 前橋スズラン別館 5階 講演 「日仏交流のさきがけ―小栗上野介」 講演者:村上泰賢 (東善寺住職)
■8月21日(日) 午後4時より 前橋スズラン別館 5階 午後6時半より 前橋プラザ元気21 4階 1部:コンサート 出演者:音楽、または音、による表現をするアーティストたち 企画:野本翔平 2部:映画上映会「WE DON'T CARE ABOUT MUSIC ANYWAY…」 (2009 監督 ガスパール・クエンツ / セドリック・デュピール) ゲスト:監督Gaspard Kuentz 企画:Johanny Melloul
■8月27日(土) 午後4時より 国際交流サロン フレンチ・レシピ:料理好きYves Duchesneによる実演 企画:François Bénard
■8月28日(日) 時間・場所未定 1部:パフォーマンス 企画:野本翔平 2部:コンサート ヴィラ九条山招聘アーティストBertrand Gauget (フランス ミュルーズ芸術大学)による、音の表現 企画:Johanny Melloul
アートプロジェクト展覧会 9月3日(土)- 10日(土)
※全文提供: アートプロジェクト前橋実行委員会
会期: 2011年7月30日(土)-2011年9月10日(土) 会場: 群馬県前橋市各所 公式ウェブサイト: http://www.suzuran-dpt.co.jp/maebashi/special/art/index.html