川城夏未 展 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 5月 31日 |
東日本大震災で被災された方々、原発の問題で不安な日々を送られている方々に 心よりお見舞い申し上げます。 川城夏未 全文提供: Oギャラリーeyes 会期: 2011年5月30日(月)-2011年6月4日(土) |
最終更新 2011年 5月 30日 |
バラが咲く季節、街角で真紅のバラを見かけることがある。詩人の北原白秋は「目を開けて つくづく見れば 薔薇の木に 薔薇が真紅に 咲いてけるかも」という短歌を残している。これは、薔薇の木に薔薇が咲くあたりまえの状態を「つくづく見る」ことで真紅の薔薇が咲くことを発見したといえる。それは、バラに限らず絵画もまた同じといえよう。例えば、一見すると赤一色の絵画に見える川城夏未の絵画もまた「目を開けてつくづく見」なければ、絵画に描かれた「赤」が見えてこない。
だが、川城の絵画は、「赤」という一語では言い表せない、豊富な「赤」がある。その制作工程は、キャンバス全体に赤色を均一にステイニングし、画面の5~7割ほどの面に蜜蝋を混ぜた油絵具を再び塗り重ねることで、同じ赤でも異なる赤の層が同居する画面となっているのだ。蜜蝋と油絵具の層がわずかに厚みを帯び、地のステイニング層の境に山の稜線のような赤い輪郭線を作り出している。さらに、油絵具の層の上には赤のパステルで抽象的なイメージの描画がなされ、赤い画面に赤いドローイングが施される。均一な赤の色面に施された赤のパステルの線が、空間にイメージと奥行きを生み出し、深みのある絵画空間を作り出している。
美術作品は、実際の作品を見ないとわからない。とくに、抽象的な作品の場合はそうだ。川城の描く絵画は、写真では赤色の淡い諧調、質感が再現されず、その色彩空間を感じることが極めて難しい。バラの木にバラが咲くのと同じように、キャンバスに絵画が描かれることはあたりまえだが、「目を開けてつくづく見」ないと気づかない絵画の美しさを見てほしい。