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稲富淳輔:月よむ骨

執筆:小金沢智 2010年1月21日更新
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fig. 1 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 1 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 2 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 2 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 3 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 3 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)
展示風景|撮影:小金沢智

fig. 4 《月よむ骨》2009年 部分

fig. 4 《月よむ骨》2009年 部分

fig. 5 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 5 「稲富淳輔展-月よむ骨-」(ギャラリー歩歩琳堂)展示風景|撮影:小金沢智

fig. 6 《月よむ骨》撮影:小金沢智

fig. 6 《月よむ骨》撮影:小金沢智

fig. 7 《月よむ骨》撮影:小金沢智

fig. 7 《月よむ骨》撮影:小金沢智

fig. 8 《月よむ骨》撮影:小金沢智

fig. 8 《月よむ骨》撮影:小金沢智

  うつわの口から底を見る。するとそこには星があった。黒い星々がまばらに輝いていた。うつわの白地に浮かぶ星は、日中の青空に浮かぶ月のように夜空でのそれとは違うかたちでその存在を際立たせていた。

  それらはしかし星をあらわしたものではない。作家によればうつわに塗った銀が偶然落ちた痕であり、意図的なものですらない。したがってそれらを星と見た私の解釈は少々強引である。このような痕は、つぶさに観察すれば他の作家の作品にも認められるものなのかもしれない。
  しかし、他の作家で同じ現象を見つけてもはたして私はそう連想しただろうか。それほど、稲富淳輔が作り出すうつわはその底に星があることが自然な佇まいをしている。おそらくそれは稲富が一つの存在を立ち上げようとしているからである。存在とは命のことであり、命とはミクロコスモスだ。星が瞬いていても不思議はない。

  「月よむ骨」と題された稲富の新作展がギャラリー歩歩琳堂で開催された。作家にとって二度目の個展だが、ここで稲富は自身の「陶芸」という出自を越境する試みを行っている。うつわの作品約四十点を展示する中、陶板による平面作品十点もあわせて発表したのである。そもそも稲富の作品自体、実用から離れたオブジェとしての性格を強く持ち、作家がいわゆる「陶芸」の範疇での仕事を目指していないことは明らかだった。今回はそこからさらにもう一段階踏み込んだということだろう。
  けれどもこの陶板作品が不思議なのだ。今回発表したすべてのうつわ作品制作後に作られた、うつわと同じタイトルを持つ陶板作品《月よむ骨》に描かれているのは、他でもないうつわなのである。稲富のうつわに多く見られる形態が陶板上で反復している。細長いかたち、円柱と円錐を組み合わせたようなかたち。画面上に単体で描かれている作品もあれば、複数体併置されている作品もある。今回のうつわが一度しか焼かれておらず、色彩も銀の部分的な使用が目立つくらいでシンプルな造形になっていることと比較すれば、それら陶板の表情は複雑である。描かれるうつわは彫り刻まれるようにそのかたちが縁取られ、水彩による絵付けは立体には見られない黄色がとりわけ目立つ。質感はうつわと対照的にざらざらとしており荒々しい。彫刻よろしくこれからあるかたちが掘り出されるかのような、存在がまだ立ち上がっておらず、境界にあるような朧な印象を受ける。背面には、作品によっては陶板以上の大きさの古びた板も取り付けられている。
  単純に「陶芸」の越境を求めるのであればモチーフは「うつわ」以外でもよかったはずだが、にもかかわらず稲富がモチーフにうつわを選んだ理由は何か。これは一つしか考えられない。すなわち稲富はそれらのかたちにこそ一つの存在の発現を見出しているのである。この陶板作品も立体を平面に描きおこしただけの作品ではない。先述したように稲富がここで試みているのは、一つの存在をある塊の中から掘り出すという、きわめて彫刻的な作業にほかならない。つまり立体であれ平面であれ、稲富のどちらの作品にも籠められているのは根源的な「存在」への問いなのである。実用/無用、立体/平面の二元論を超克した、名づけえぬものの発露がここにある。今後の展開を大いに期待させる個展である。


展覧会・イベント情報

展覧会稲富淳輔:月よむ骨
会期2009年12月19日~2009年12月25日
会場ギャラリー歩歩琳堂

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