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河口龍夫:言葉・時間・生命

執筆:小金沢智 2009年11月9日更新
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整然と並べられた沢山の箱の中にそれぞれ闇が入っている。ある闇は、1975年に入れられたものだ。だからこうも言えるかもしれない。箱の中に1975年の時間が入っている。しかし開けた途端、闇は光に晒され行き場をなくし、時間は今へと急速力で収斂する。だから私たちはその中を覗くことができない。いや、開ければ覗くことは可能だがその瞬間に闇は闇でなくなる。閉じ込められていることによってこそ、その本質は担保されている。

fig. 1     ≪DARK BOX≫1975年|撮影:斎藤さだむ|画像提供:東京国立近代美術館

fig. 1 ≪DARK BOX≫1975年|撮影:斎藤さだむ|画像提供:東京国立近代美術館

fig. 2     ≪時の航海≫2009年|木造船・種子[蓮]・蜜蝋・銅線・銅パイプ・顔料、188.0×833.0×235.0cm[船体]|撮影:斎藤さだむ|画像提供:東京国立近代美術館

fig. 2 ≪時の航海≫2009年|木造船・種子[蓮]・蜜蝋・銅線・銅パイプ・顔料、188.0×833.0×235.0cm[船体]|撮影:斎藤さだむ|画像提供:東京国立近代美術館

それゆえ、私には箱が棺に見える。闇という人目に触れることが決してできない〈死者〉の葬列として、展覧会冒頭に展示されている≪DARK BOX≫(1975年-)[fig. 1]を捉えたい。すると、「言葉・時間・生命」という三つのセクションからなる東京国立近代美術館での河口龍夫展が、死から生へ、という一つの流れによって貫かれているのではないかと考え至る。「時間」も「生命」も刻々と変化し、かつ不可逆的な性質を帯びている。私たちはタイムスリップすることも若返ることもできない。したがってそれらについて考えるためには、「時間」はある一点で断ち切られ、「生命」は葬られる必要がある。一度リセットされ、その瞬間が提示されることによって鑑賞者は逆説的に「時間」「生命」の本質を垣間見るのである。

冒頭の≪DARK BOX≫が死の側に立つ作品なら、出口手前の≪時の航海≫(木造船・種子[蓮]・蜜蝋・銅線・銅パイプ・顔料、188.0×833.0×235.0cm[船体]、2009年)[fig. 2]とその船に乗る≪木馬から天馬へ≫(木・種子[蓮]・蜜蝋・銅線・銅パイプ・顔料・羽箒・鉛、70.0×115.0×155.0cm、2009年)は生の側に立つ作品だ。どちらの作品にも認められる、今回出品されている他の作品にはほとんど見られない強い色彩は、そのまま生命のエネルギーをあらわしていると考えることができるだろう。黄色く塗りつぶされた木造船には、至る所に銅線で蓮の種子が取り付けられている。これらが展示されているのは最終展示室だから、鑑賞者はその段階で、蓮の種子がこの作品以外にも使用されていることを思い出すに違いない。蓮の種子だけではなく、数多くの植物の種子を鉛に封じ込めている作品があることも思い起こすだろう。ここで、私はこう思う。≪時の航海≫と≪木馬から天馬へ≫以外の作品からは生命に対してポジティブな要素を読み取ることができなかった。放射能を遮断する性質から鉛が選ばれているが、その社会的なメッセージとは裏腹に、鉛で封じ込められている植物の種は守られている一方で生物としての機能を奪われている。鉛の重々しい色に加え、整然と並べられている≪7000粒の命≫(鉛・種子[蓮7000粒]、可変、2009年)も≪DARK BOX≫同様葬列を思い出させる。私がネガティブに過ぎるのか。いや、しかし河口の作品は絶対的に〈死〉も内包している。だからこそ、〈生〉へと漕ぎ出す≪時の航海≫、≪木馬から天馬へ≫が最終的に救いとして機能するのではないか。

私は本展を、全体を一つの作品として考えたい。展覧会は三つのセクションに分かれ、149点もの作品によって河口の作品を丁寧に紹介することに成功している。けれどもそれは、私たちの一つのからだが様々な構成要素によって成立していることと同義である。〈死〉から〈生〉へという流れで展覧会を横断したとき、河口の作品が私たちの誰もが経験せざるを得ない〈死〉をあらわしつつ、生きているからこそ可能である「考えること」へと私たちを導いていることに気づく。容易く解答へと至らない、しかし豊かな世界の姿がそこここに立ちあらわれている。


展覧会・イベント情報

  • 河口龍夫: 言葉・時間・生命河口龍夫: 言葉・時間・生命会期:2009年10月14日~2009年12月13日会場:東京国立近代美術館さまざまな素材を用いながら、物質と物質、あるいは物質と人間との間の、目に見えない関係を浮かび上がらせようという一貫した姿勢で制作を続けている河口の個展。

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