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竹村文宏:真空
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 10月 04日

 

児玉画廊|東京では10月5日(土)より11月9日(土)まで、竹村文宏個展「真空」を 下記の通り開催する運びとなりました。
児玉画廊においては2011年のグループショー ignore your perspective 12(児玉画 廊|京都)で初めて紹介して以来、昨年は初個展「Flight」(児玉画廊|京都)、東京 での初紹介となるignore your perspective 14(児玉画廊|東京)、アートフェアArt Stage Singapore 2013での個展形式でのブース展示など、非常に精力的な発表を続 けてきました。今回の個展では、未だ断片的な紹介に留まっていた竹村の世界観の 全容をいよいよご覧頂ける機会となります。
竹村は、アクリル絵具を細く絞り出し乾燥させたものを組み合わせて、キャンバ ス上に立体的な構造体を精密に構成していくという作品を制作しています。一見、 まるでプラモデルやジオラマ、あるいは針金や糸などといった芯となる素材を使っ て構造を保っているように見えますが、実はそうではなく、あくまで絵画表現の延 長線上にある作品として、絵具のみで作られた「ペインティング」であるという点 に、まずもって鑑賞者は感心させられます。
竹村は、初期においては主にドローイングを制作し、それは強弱のないフラット なタッチで引かれた線によって、精密に描き込まれた地図や衛星写真のような俯瞰 図を思わせるものでした。しかし、精密ではあるもののそれは写実的な描写をする と言う訳ではありません。統一感のないパースで描かれたモチーフ、そのモチーフ 同士のねじれた間を埋めるように歪みながらどうにか繋がっていく線描など、描画 の丁寧さに反して空間表現の手法を無視したような不条理さが多々見られ、それが 見ていて飽きさせないポイントであると同時に、どこか無理を押し通しているよう な不思議な感覚を覚えます。実は、竹村は「線と線を決して交差させない」という ルールを決めているため、それが画面に違和感を生じさせているのです。なまじそ んな決めごとをしてしまったがばかりに、竹村のドローイングは常に線描が突き当 たりをうろうろさまようような独特のスタイルになっているのです。2本の線が重 なりそうになった時には、交差させずに引き返したり迂回したりして線をどうにか 継続させていきます。それは彼の作品の絶対条件であると同時に、かえって描写の 自由を強いる面倒な制約にもなっています。ではなぜそうする必要があったのかと 言えば、絵画上の層(レイヤー)に対する竹村の問題意識に起因します。ここで言う 層(レイヤー)とは、絵の具や色面の重なりのことではなく、空間の重なりを絵画と してどう扱うのかということです。
例えば、立体交差する高速道路とその下の一般道路の間には両者を上下に隔てる 空間があって、互いに接することなくすり抜け合っていますが、地図上では交わる 二本の線が単純に二層に重なり合った状態で描かれます。それは極めて合理的な表 現手段ではありますが、絵画において、モノとモノとの重なり、現実にはある空間 を挟んだモノとモノとの重なりを、安易にレイヤーとして、そして曖昧に処理する のではなく、何かそれとは異なる切り口の表現について模索を始めます。そこでま ず、絵画上に一切層(レイヤー)を作らないことにすればどうなるのかという実験を 試みました。そして前述の通り「線と線を決して交差させない」というルールを科 してドローイングを描いた結果、絵画の遠近法やそれに類する立体感を見せるため の描画方法に対しても逆行するような表現をせざるを得なくなったのです。それは むしろ、竹村のドローイングを逆説的な独自性によって際立たせ、一定の目的を果 たしたと言えます。しかし、竹村は依然として自身が決定的な解決に至っていない ということを看過できず、新たな手法を模索し始めます。
そこで今度は、実際に線描を画面からつまみ上げることができたなら、と仮定し てみました。竹村はアクリル絵具を細い糸状に絞り出したものを固形化させて、線 描を立体化する(物質化する)ことによって平面絵画表現における層(レイヤー)からの 解放を試み、そのアイデアを実践してみます。例えば、「川の上に架かる橋」のよ うなモチーフの場合には、川を表す描写に対して直交するように、固形化した絵具 で作った橋桁を点々と立てていきます。そして本当に橋を架けるかのようにして橋 桁の上に一本のアクリル絵具の線を乗せていくのです。この手法によって、竹村の 線描は一気呵成に三次元的に解放されていきました。下地を塗り込めた起伏のある マチエールが丘陵となり、そこに針葉樹林が生い茂り、林道の続く先にはビルの乱 立する町並みが隆起してくる。まるで飛行機から地上を俯瞰するようにして画面を 文字通り構築していくのです。ただし、ジオラマや建築模型のような立体造形物と して制作しているのではなく、この作品の根幹にあるのは、二次元とは何か、レイ ヤーとは何かといった自身の絵画に対する違和感を払拭することであり、レイヤー や遠近法によっては騙し騙しでしか獲得することができなかった空間性を、より実 態に即した新たなパースペクティブとして絵画領域に持ち込むことなのです。平面 の中ではスペースを求めてひしめくようにしていたビルや木々が画面からこちらに 向けて伸び上がってくる様は、絵画でありながら具体的な空間を有する全方向的な ものとして、新たな可能性を我々に指し示すのです。

敬具
2013年10月
児玉画廊 小林 健

オープニング:10月5日18時より


全文提供:児玉画廊 | 東京
会期:2013年10月5日(金)~2013年11月9日(日)
時間:11:00 - 19:00
休日:日・月曜、祝日
会場:児玉画廊 | 東京
最終更新 2013年 10月 05日
 

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