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中島 麦:星々の悲しみ blue on blue
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 9月 30日

 

中島麦の「青」を読む

中島麦の新シリーズのタイトルは「星々の悲しみ - blue on blue - 」となっている。 blue on blueという副題には、様々な意味がこめられているようだ。 作家が好んで使う絵具やメランコリックな精神状態を表す色としての「青」であることは言うまでもない。 しかし描かれた作品を目の前にこのタイトルをもう一度読み直すと、 「青」という言葉を用いた裏には、地球や宇宙を俯瞰するまなざしが隠されていることがわかる。 非常に壮大な広がりを持つバーチャルなビジュアルが、作品のイメージとタイトルから立ち昇ってくる。

中島の新シリーズは、全く異なるテクスチャーの2種類の絵画が、同じ空間にインスタレーションされた状態で展示されている。

異なる2種類の絵画は、どちらも抽象絵画ではあるのだが、 一つは非常に複雑なテクスチャーと多様な色使いが絡み合うように表現された絵画である。 画面構成や全体の色味に作家の意図が反映されてはいるものの、筆や刷毛の痕跡はほとんど無く、 絵具の混ざり合いや滲み、表面張力による紋様など、自然現象を利用した「偶発的な」絵画とも言える。 片やもう一方は、その対極にあるもので、均質な色面でしかも一色のみで描かれたものだ。 極限にまで単純化された画面は、刷毛で丹念にアクリル絵具が塗り込められており、作家によって完全に支配された絵画になっている。

対極にある様な2種類の作品は、時と場所にあわせて自由自在に配置されるとの事で、 隣に来る作品があらかじめ決まっているのでもなければ、必ずしも交互に配置されるべきものでもないらしい。 その空間が2種類の作品で構成されるという事だけが決められており、 あとはその場所とそれぞれの作品の間の引力にまかせ、恣意的に設置されることになる。 上記に ”インスタレーションされた状態\" と敢えて書いたのは、この様な理由からだ。

先に述べた「宇宙的なまなざし」でこの2種類の絵画を視る時、 前者は宇宙から観た地球の姿を彷彿とさせ、後者の均質な画面の絵画は、あたかも地球から観た宇宙(それはつまり空を意味するのかも知れない)のようにも見えてくる。 あるいは「ミクロコスモス」と「マクロコスモス」と読むことができるであろうし、「偶然」と「必然」とも呼べるかもしれない。 いずれにせよ、作家は両極を行き来する中で意図的に、『モチーフ』という独善から距離を置き、曖昧な『作家性』を限りなく排除しているかに見える。 しかしその結果、パラドクサルにも強烈なオリジナリティを獲得することになっているのは興味深いことである。

世界初の有人宇宙飛行を達成したユーリイ・ガガーリンの言葉【地球は青かった】を引用する時、blue on blueという副題は更に意味深長なものになるだろう。 昨今の映像技術の進化に伴い、NASAの宇宙探査機などが持ち帰る映像には目を見張るものが多い。 私達は地球の外にひろがる鮮やかな色や形に、新奇で特別ななにかを模索しようとする。 しかしたとえ現代のテクノロジーを駆使し宇宙の神秘を捉えたとしても、それが機械の眼によるものである限り、 はじめて地球を外から見たガガーリンの脳裏に焼き付いた「青」を越えるものにはなり得ないだろう。 悲しいかな、私達の想像の中においてのみ、地球は真に青く、宇宙は無限に蒼いのである。

私達の眼に直に触れるblue on blueという名の絵画には、文学・哲学からテクノロジー・科学まで、壮大な宇宙観が内包されているといってしまうのはおおげさだろうか。 (ちなみに「星々の悲しみ」は宮本輝の同名短編小説から引用している。)

text by Gallery OUT of PLACE ディレクター 野村ヨシノリ

[作家プロフィール]
中島麦profile

1978 長野県出身 大阪育ち
2002 京都市立芸術大学美術学部油画専攻 卒業
2009~2010 第24回ホルベイン・スカラシップ
個展 (過去3年)
2013 「星々の悲しみ - blue on blue - 」TOKIO OUT of PLACE/東京
2012 「wandering~色・時・旅 記憶の記録~」(奈義町現代美術館/岡山)
「wandering」(エスプリ・ヌーボー/岡山)
「僕は毎晩、2時間旅をする」(サクラアートミュージアム/大阪)
「night wandering drawing」(ギャラリーはねうさぎ/京都)
2011 「悲しいほどお天気」(Gallery OUT of PLACE/奈良)
「NAKAJIMA MUGI Exhibition」(六花亭/札幌)<協賛(株)六花亭
「僕は毎晩、2時間旅をする」(ギャラリー301/神戸)
2010 「moment of color \"NARA\"」(名勝大乗院庭園文化館茶室/奈良<NARA ART PROM>)
「moment of color 2010」(ギャラリーはねうさぎ/京都)
「moment of color 2010」(エスプリ・ヌーボー/岡山)
他、グループ展など多数

関連イベント:
※ 10/12の17:30よりささやかなレセプションパーティーを行います。入場無料。

※この期間、HANARART 2013 が、 郡山城下町エリア(10/12~20)と宇陀松山エリア(10/20~27)で開催されています。是非あわせてご来場下さい。


全文提供:Gallery OUT of PLACE
会期:2013年10月4日(金)~2013年10月27日(日)
時間:12:00-19:00
休日:月・火・水
会場:Gallery OUT of PLACE
最終更新 2013年 10月 04日
 

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