| EN |

岡本啓:Visible ≡ Invisible
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 9月 26日

岡本 啓《PHOTOGRAPHIC MEMORY》 発色現像方式印画、古道具
客間 240.0 x 290.0 cm / 大階段 280.0 x 193.0 cm 2012
[撮影:長谷川朋也 / 奈良・町家の芸術祭 HANARART 2012]

the three konohanaの開廊1年目最後の展覧会は、独特の手法による写真作品を主に制作する岡本 啓(Akira Okamoto, b.1981)の個展を開催いたします。当展は、弊廊の3本柱の企画のひとつである「Gallerist’s Eye」シリーズのこけら落としとして、YOSHIAKI INOUE GALLERY(大阪)の協力にて開催いたします。
岡本の作品は写真を主なメディアとしていますが、フィルムを媒介した一般的な写真表現とは異なり、暗室内での作業が制作において重要な位置を占めます。現像液や光を用いて印画紙の上に色やかたちを直接描く、フォトグラムという手法を彼は用いますが、一般的なモノクロではなくカラーで描くことで、彼独特の表現を深めてきました。  彼が写真の技術を駆使して絵画的な表現をおこなうことの意味は、写真と絵画という平面表現を代表する二つのメディアによる「イメージ」の問題提起であるように思います。彼の抽象的なかたちを印画紙に表出させる行為は、現実を転写するものではなく、写真と絵画双方の領域における画面の構成要素となる色彩の存在を強調させるものです。さらにこの現像液や光を用いての恣意的かつ感覚的な制作過程には、それぞれの素材による化学反応としての偶然性をも内包しており、全てが計算された構図で成立しない事実を提示して、現実と虚構の共存もほのめかしています。
そして、作品内に含まれる色やかたちの使い方にも、彼独特のアプローチがあります。そもそも写真とは、私たちの現実の視覚を切りとったものとされる一方で、現実のまま忠実に再現できるものでもありません。彼の作品には、具体的な何かに見えるかたちが頻繁に現れます。しかし、それらは意図的に色彩を組み合わせたものに過ぎなかったり、偶然的に現れたものであるなど、画面上に現れるかたちそのものに大きな意味はありません。つまり、他者の思考や記憶によって作られた虚構のイメージです。一方で近年は、実際に何かを撮影したフィルムを従来の作品に重ねて現像した作品も登場しています。従来の彼の写真の素材を使って「描く」行為は、一般的な絵画と同様に、彼の何らかの経験が契機となって画面上で構成されていくものです。素材・ジャンルとしての写真を再定義させつつ、現実空間に見えるものと見えないものを再構成させるメディアとしての絵画の存在をも強調していく現在の彼の関心は、両者の美術表現としての関連性の分析へと向いているように思います。
当展の枠組みである「Gallerist’s Eye」は、作家が所属するギャラリーなどで従来発表している表現スタイルと異なる、新しい側面を浮かび上がらせることを目的とした企画です。当展で岡本が新たに挑戦するものは、鮮やかな色彩を排除したモノクロームの世界とギャラリー空間を使った本格的なインスタレーションとなります。つまり、彼が主たる作品としてきた写真としての作品は今回展示されません。彼の表現において代表的な特徴である鮮やかな色彩、その背後にあるイメージを探る内容となります。
彼の写真作品の着想の源泉としてのオブジェやドローイングなど、多種多様な作品群をホワイトキューブと和室の展示空間に対照的に構成して、彼の概念的な世界観を展開いたします。従来の色彩豊かな表現は影を潜め、あくまでもかたちや物質感といった具体的な物象が提示されていきます。それによって強い印象を与える要素よりも、一つ一つの静的なイメージが論理的にその関連性を組み立てていく展示となることでしょう。
人間は、表層にはっきりと存在するものを把握することによって、そこにある物象を認知します。岡本の作品では、それが色彩と写真になりますが、それはあくまでも枠組みを把握したことにしか過ぎません。彼がこれまで作品の深奥にひっそりと隠してきた、現実空間で把握できないイメージへ向かう過程に当展の主題を絞ることによって、漠然と見えるものとしての表皮ではなく、概念としての表皮とその本質へと思考をシフトさせる重要性に気づいていただければと思います。この機会にぜひご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

[作家プロフィール]
岡本 啓(おかもと あきら)

1981 大阪府生まれ
2004 大阪芸術大学 美術学科卒業
現在 帝塚山学院大学 非常勤講師
[個展]
2004 ギャラリー椿 (東京/'05、'07、'09、'11、'13)
2006 YOSHIAKI INOUE GALLERY (大阪/'08、\'12)
2010 堂島ホテル (大阪) [ART OSAKA 2010/
YOSHIAKI INOUE GALLERYブース]
[主なグループ展]
2006 KIAF (韓国/'08-'10)
[ギャラリー椿、YOSHIAKI INOUE GALLERYより出品]
2007 アートフェア東京 (東京国際フォーラム/\'08-'10)
[YOSHIAKI INOUE GALLERYより出品]
2008 ART OSAKA
(堂島ホテル、ホテルグランヴィア大阪/'09、'11~'13)
[YOSHIAKI INOUE GALLERYより出品]
2009 ART TAIPEI (台湾/\'10) [YOSHIAKI INOUE GALLERYより出品]
2010 美の予感2010 (日本橋高島屋・東京)ほか巡回
2010 アートフェア京都 (ホテルモントレ京都/'11)
[ギャラリー椿より出品]
2012 「記憶」をゆり動かす「いろ」(大和郡山市 旧川本邸)
[奈良・町家の芸術祭 HANARART 2012]
2013 ボーダーレスのゆくえ (なんばパークス・大阪)

オープニングパーティー:11月8日(金)17:00~21:00
ギャラリスト・トーク:11月30日(土)18:00~19:00
山田 浩之(YOSHIAKI INOUE GALLERYディレクター)
山中 俊広(the three konohana代表)


全文提供:the three konohana
会期:2013年11月8日(火)~2013年12月23日(木)
時間:12:00ー19:00
休日:月~水
会場:the three konohana
最終更新 2013年 11月 08日
 

関連情報


| EN |