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ボーダーライン コレクション展 II
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 9月 25日

 

私たちは様々な場面で内部と外部を区別しています。内部は、言語、身体的特徴、記憶など共通のルールにもとづいて形成され、外部との間にはしばしば摩擦や軋轢が生じます。しかし、内部と外部はその境界において交渉しながら新しいルールを見つけ出し、境界は絶えず更新されています。つまり、境界は内部を広げる可能性を秘めた領域でもあるといえるのではないでしょうか。今年度のコレクション展は、このような視点に立って、境界を「分断するもの」から「繋がり、広げるもの」として捉え直す試みです。
「ボーダーライン コレクション展 I 」では、私たちにとって一番身近な身体を基本に据え、内と外の関係を考察しました。「ボーダーライン コレクション展 II 」ではそれを社会的な境界へと広げ、当館コレクションを展観します。
進化の過程で巨大な大脳を持つようになった人類は、意識という内部を獲得しました。私たちの社会には、自己と他者、国境、民族、ジェンダーなど様々な境界が存在しますが、そのほとんどは実際に線が引かれているわけではなく、人間が意識の中で引いた線であり、それが制度化されたものです。本展では、8作家の表現を通して、人間の意識が作り出した境界に時に立ち向かい、時に横断しながら、境界を介して外部と接することで自己という内部の領域を拡張していこうとする人間の可能性を探ります。

米田晴子(金沢21世紀美術館キュレーター)

[作家プロフィール]
●モナ・ハトゥム Mona HATOUM
1952年 ベイルート(レバノン)生まれ、ロンドン(英国)、ベルリン(ドイツ)在住。
ベイルートに亡命したパレスチナ人の両親のもとに生まれ育つ。1975年イギリスに滞在中、レバノン内戦が勃発したため祖国に戻れず、ロンドンに残留して美術を学び、1980年初頭から身体を対象にしたパフォーマンスやヴィデオ作品で活動を始める。1990年代には、インスタレーションや彫刻へと次第に移行し、これらの表現では身近な家庭用品等を用い、親密で平穏な物体や環境が孕む不安や脅威を捉えている。社会からの断絶、戦争、亡命、そして追放といった個人的な体験を背景にアイデンティティやセクシャリティといった問題を私たちに突きつける。

●木村太陽 KIMURA Taiyo
1970年 神奈川県鎌倉市(日本)生まれ、同地在住。
美術専門学校にて油絵を学ぶが、次第にインスタレーションや立体へと移行し、1990年中頃より作品を発表し始める。1999年から2度に渡りドイツに滞在し制作。在学中より、ドローイング帳にアイデアや夢日記を描きため、あるいは、ヴィデオで撮りため作品化していく。日用品等の身近な素材やシチュエーションを用いて表現する木村の作品には、独特なユーモアと親しみやすさ、そして気味悪さが混在し、しばしば生理的な不快感を伴う。そうして日常に潜む違和感を見る者の身体的感覚に訴え、ものごとの本質を見出そうとする。

●宮﨑豊治 MIYAZAKI Toyoharu
1946年 金沢市(日本)生まれ、京都市(日本)在住。
釜師十三代宮﨑寒雉の次男に生まれる。金沢美術工芸大学美術学部彫刻科卒業後は、木、鉄、銅、真鍮などの素材を用い、コンセプチュアル・アートの影響を強く受けた作品を制作。1979年より、作家自身の身体を中心に据え、さまざまな身体の部位のサイズや、身の回りの環境や風景、個人的な記憶を組み込んだ「身辺モデル」と題したシリーズを制作し始め、注目を集めた。1988年から開始された「眼下の庭」シリーズは、「身辺モデル」の形態を引き継ぎながらも、極めて私的な作家自身の記憶を普遍的な表現に結実させたより深い作品世界となっている。

●シリン・ネシャット Shirin NESHAT
1957年 カズヴィーン(イラン)生まれ、ニューヨーク(米国)在住。
1974年に美術を学ぶため渡米。1982年にカリフォルニア大学バークレー校美術専攻修士号取得。卒業後はニューヨークへ移り、制作の拠点とする。1990年の帰国で、イラン革命後、劇的に変化した祖国の状況を目の当たりにし、イラン社会における女性を主題とした作品制作を始めた。1993年の最初の写真シリーズ「アラーの女たち」では、殉教をテーマに、女性の身体に同居する神への愛と暴力を描いた。1997年からは映像作品へと移行し、複数のスクリーンを用いた音と映像によるインスタレーション作品を発表。2009年発表の《男のいない女たち》でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞。

●ジュン・グエン=ハツシバ Jun NGUYEN-HATSUSHIBA
1968年 東京(日本)生まれ、ホー・チ・ミン(ヴェトナム)在住。
日本人の母とヴェトナム人の父と共に、ヴェトナム戦争末期の1974年から1年間ヴェトナムに移住後、日本へ帰国。その後、家族で渡米し美術大学を卒業、1997年にヴェトナムに活動拠点を移す。自身の取り巻く環境を強く意識し、米、蚊帳、豆炭、シクロなどアジアの食材や身近な物を使ったインスタレーションや映像を制作。ヴェトナム戦争後、変遷する政治・経済の狭間に置かれた個人の生活、彼らの葛藤や苦悩、希望、生へのエネルギーなどが複雑に織り混ざった世界を表現する。

●グレイソン・ペリー Grayson PERRY
1960年 チェルムズフォード(英国)生まれ、ロンドン(英国)在住。
1980年代半ばから、暴力、偏見、性的抑圧、文化や信仰、自己とは何であるかといった諸テーマに関し、ユーモアやファンタジーを交えつつ、鋭い視点で捉えた作品を制作。ペリーが主に手がける陶芸作品では、古典的な形の壺の表面に描き重ねた現代的主題と、豊かな色彩や装飾との重層的な絡まり合いが見る者の想像を膨らます。陶芸のみならず、彫刻、写真、版画からキルトやドレスのデザインに女装という行為まで、ジャンルを超えた活動と強烈な表現内容で国際的な注目を集め、2003年に英国のターナー賞を受賞。2007年には当館にてアジア初の個展を開催。

●さわひらき SAWA Hiraki
1977年 金沢市(日本)生まれ、ロンドン(英国)在住。
大学時代は、中に入ることができる彫刻作品などを手がけた後、コンピューターを使ったヴィデオ作品を制作し始める。自分のアパートの部屋、世界各地の風景を実写した映像から場面を切り取り、再構築し、飛行機の模型を写した写真、おもちゃの木馬や鳥、影など、コンピューター上で異なった時空間を合成する。ローテクな手法により感じられる温かみある表現には、浮遊感や軽妙さ、独特の奇妙さが漂う。近年は、映像の配置を彫刻的に捉えた空間構成や、オブジェと映像を併置させるなど、より彫刻的な空間構成が窺える。

●シスレイ・ジャファ Sislej XHAFA
1970年 ペヤ(コソボ)生まれ、ニューヨーク(米国)在住。
旧ユーゴスラビアにてアルバニア系住民として育つ。現在はニューヨークをベースに活動する。写真や映像、彫刻にインスタレーション、パフォーマンスまで、その活動領域は多様であるが、作品の多くにおいて、出身国での戦乱と政治社会的状況とも繋がる、移民や移動、暴力や権力、偏見や社会的疎外などのテーマが表れている。直接的な批判ではなく、ユーモアや詩情を感じさせる内容や、軽妙な表現手段により、多義的な解釈を可能とする開かれた作品を特徴とする。世界各地の国際展に多数参加し、高い評価を得ている。


全文提供:金沢21世紀美術館
会期:2013年9月28日(土)~2014年3月16日(日)
時間:10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
休日:月曜日(休日の場合その直後の平日。ただし、2月10日は開場)、12月29日(日)~2014年1月1日(水)
会場:金沢21世紀美術館
最終更新 2013年 9月 28日
 

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