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ミン・ウォン:私のなかの私
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2013年 8月 12日

Ming Wong | Me in Me, 2013 | Multi-Channel Video Installation | Courtesy of the artist

資生堂ギャラリーでは、2013年7月6日(土)から9月22日(日)まで、ドイツ・ベルリン在住のシンガポール人アーティスト、ミン・ウォンの個展「私のなかの私」を開催します。

1971年、シンガポール生まれのミン・ウォンは、現在、ドイツ・ベルリンを拠点に活動しています。彼は象徴的なワールド・シネマの傑作に、リメイクという手法を通じて自ら入り込み、語り口や脚本、演出技法に新しい解釈を加えることで、オリジナルの映画との差異を際出たせ、人種的・文化的アイデンティティー、ジェンダー、言語、ナショナリティーといった問題に言及したユニークな映像作品を制作しています。

2009年にヴェネチア・ビエンナーレのシンガポール館で個展を開催し、シンガポール人として最高の審査員特別表彰を受賞。その後、同展は世界各地を巡回しました。以降、ミン・ウォンの活動は国際的な注目を集め、シドニー・ビエンナーレ(2010年)、光州ビエンナーレ(2010年)、シンガポール・ビエンナーレ(2011年)、リバプール・ビエンナーレ(2012年)などの国際展に参加し、シンガポールを代表するアーティストの一人となっています。

1965年、マレーシア連邦から分離独立したシンガポールは、現在、多民族、多言語、 多宗教の高度な国際的社会を形成しており、公用語は英語、マレー語、標準中国語、タミル語と多岐にわたります。マレー語は今も国語として定められ国歌斉唱などで使用されるものの儀礼的な言葉となっており、1965年以降のシンガポール政府の二言語主義政策により、英語と標準中国語が広く使用されています。中国系シンガポール人であるミン・ウォンは、幼少期に、1950年代のシンガポールで製作されたマレー映画などの映像文化に親しみ、マレー文化に触れていたことにより、他の地域に住む中国人とは異なるシンガポール人としての認識を強めました。ミン・ウォンはART iTのインタビューで、「私の作品の全てはシンガポール出身で歴史上の特定の時期に住んでいたからこそ作っているものであり、それは今でも私自身を特徴づけるものでもある」*と語っていますが、人種的・文化的・国民的アイデンティティー、言語の問題や身体性を内包するハイブリッドな彼の作品は、グローバル化した現代社会のただ中で我々が直面する社会文化的な状況に対し、批評性に優れた洞察となっています。

本展では、日本映画や日本の伝統芸能から着想を得て制作した新作「私のなかの私」を発表します。ミン・ウォンがかねてより望んでいた日本での初の滞在制作による本作品で、彼は日本映画とその歴史を調査・分析し、「時代劇」「現代劇」「アニメ」の3つのジャンルに分類することを試みました。「西洋の映画は写真の延長に存在し、日本の映画は歌舞伎や能といった伝統芸能の延長にある」と指摘する彼は、この3つの映画世界を、それぞれ特有の演技・映画的撮影スタイル・物語設定により、日本映画の典型として表現しています。 「時代劇」では奥行きを感じさせない舞台の上で、平面的かつ舞台と正対する撮影法により、歌舞伎舞踊で女装の敵討ちを演じ、日本映画黄金期の小津・成瀬映画にインスピレーションを得た「現代劇」では、高度経済成長期を舞台に女性の葛藤、父と娘の複雑な関係性を捉えています。また「アニメ」では、「新世紀エヴァンゲリオン」「メトロポリス」「攻殻機動隊」といった心理学的要素を含む日本アニメをもとに、過去の高校生の頃の記憶を取り戻そうとするアンドロイドが主人公の物語を創造しています。ミン・ウォンは、どのシーンにおいても、日本映画における元型的なキャラクターを創造し、それら全てを彼自身が演じていますが、日本語による台詞の発音、言い回しのぎこちなさ、身体的特徴からは、性差・世代・言語・人種といった個人に備わる要素が否応無しに浮かび上がってきます。

日本映画にインスピレーションを受け、日本国内で初めて制作された新作の映像インスタレーションに、ぜひご期待ください。

[作家プロフィール]
ミン・ウォン
1971 シンガポール生まれ ドイツ・ベルリン在住
1995 シンガポール・ナンヤン美術アカデミー卒業(中国美術)
2007 ロンドン大学スレード校美術学部修了(美術・メディア)


主な個展
2012 「Ming Wong: Making Chinatown」 REDCAT, Los Angeles, US
「I Should Be Like You」 Galerie carlier | gebauer, Berlin, Germany
2011 「Persona Performa」 Performa 11 at the Museum of the Moving Image, New York, US
「Life of Imitation」 Hara Museum of Contemporary Art, Tokyo, Japan
「Devo partire. Domani / I must go. Tomorrow」 Villa Romana, Florence, Italy
「Ming Wong\'s CYCLORAMA」 Vitamin Creative Space, Guangzhou, China
「Life of Imitation」 Frye Art Museum, Seattle, Washington D.C., US
2010 「Gruppenbild」 Neuer Berliner Kunstverein, Berlin, Germany
「Devo partire. Domani / I must go. Tomorrow」 Napoli Teatro Festival, PAN, Naples, Italy
「Life of Imitation」 Singapore Art Museum, Singapore
「Life & Death in Venice」 Invaliden1 Galerie, Berlin, Germany & Hermès Gallery, Singapore
2009 「Life of Imitation」 Singapore Pavilion, 53rd Venice Biennale, Italy
「Vain Efforts」 4A Centre for Contemporary Asian Art, Sydney, Australia
2008 「Angst Essen - Eat Fear」 Künstlerhaus Bethanien, Berlin, Germany

主なグループ展/スクリーニング
2012 「Liverpool Biennial」 Liverpool, UK
「Encounter, Experience and Environment」 Gillman Barracks, Singapore
「Ming Wong: Making Chinatown」 Toronto International Film Festival,Toronto, Canada
「A trip to the Moon. Before and after Cinema」 Bonnierskonsthall, Stockholm, Sweden
2011 「Berlin 2000-2011: Playing among the ruins」 Museum of Contemporary Art Tokyo, Japan
「Rollenbilder-Rollenspiele」 Museum der Moderne Salzburg, Austria
「Invisibleness is Visibleness」 MOCA Taipei, Taiwan
「Knotting: Swarm in the Era of Digital Media」 National Taiwan Museum of Fine Arts, Taichung, Taiwan
「Biji Diva!」 In Transit 2011, House of World Cultures, Berlin, Germany
「Based in Berlin」 Atelierhaus Monbijoupark, Berlin, Germany
Singapore Biennale, Singapore
2010 「Unspooling-Artists & Cinema」 Cornerhouse, Manchester, UK
「Essential Cinema」 Toronto International Film Festival, Canada
Gwangju Biennale, Gwangju, Korea
Sydney Biennale, Cockatoo Island, Sydney, Australia
「The Fate of Irony」 KAI10, Düsseldorf, Germany
「Searching Songs」 Yebisu International Festival for Arts & Alternative Visions, Tokyo Metropolitan Museum of Photography, Japan
2009 「Playing Homage」 Vancouver Contemporary Art Gallery, Canada
Jakarta Biennale, Indonesian National Gallery, Indonesia
2008 「Das Piraterieproblem」 Brandenburgischer Kunstverein Potsdam, Germany
「Vertraut oder Verdaut」 ZKM Center for Art & Media, Karlsruhe, Germany

受賞/レジデンス
2009 Special Mention (Expanding Worlds), 53rd Venice Biennale
2007-08 Künstlerhaus Bethanien International Studio Program, Berlin, Germany
2003-05 Pearson Creative Research Fellowship, at the British Library, UK

全文提供:資生堂ギャラリー


会期:2013年7月6日(土)~2013年9月22日(日)
時間:11:00 - 19:00(日曜・祝日11:00 - 18:00)
8月12日(月)~8月16日(金)は夏期休館8月12日(月)~8月16日(金)は夏期休館
会場:資生堂ギャラリー

最終更新 2013年 7月 06日
 

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