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Osamu HASHIMOTO
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Published: July 24 2013

初國
2013
キャンヴァスに油彩
194x112.2cm(P120)

[作家コメント]
渇く井戸

“アート”は、社会福祉活動や、連帯表明運動やコミュニティ活性化プログラムや地
域振興策等に特化した。“アート”を通じて何ができるのか?という設問は不動の前提
となり、“アート”は社会参加を促すための触媒又はツールにまで成り下がった。つま
り、保険の如く、社会安全保障上のツールとして機能し、美術に不可欠の昂揚感など
そこには無い。津波や地震や原発問題や人権闘争を“アート”を通じて社会化し、問題
意識共有の場としても構わないが、それは芸術でも美術でもない。人々を鼓舞するた
めの祝祭的社会現象或いは祭礼、若しくは時事批評に過ぎない。黄色い服を纏った巨
大人形は、アート界という芸能界に住む芸能人が手掛けた、芸術的には完璧な駄作だ
が、開き直ったような祝祭的イベント空間にはこの上無く相応しい。ヴェネツィア・
ビエンナーレ同様、巨大招き猫(アート)だからである。しかしそれは、人々を活気付
ける社会的張りぼてであって美術ではない。私は、人々を前向きにさせる神輿のよう
な肥大アートよりも、絶望させる極小の美術の方を取る。私は大阪のイベント屋では
なく、画家だからである。美術にはコミュニケーションの断絶が不可欠だが、“アー
ト”は常に最先端のコミュニケーション・ツールに淫するネットワーク・フェティシ
ストである。インタラクティヴ等と、はしゃぎ騒ぐ由縁である。繋がることに昂揚感
は無い。絆は“アート”の情婦であり、美術の敵である。“アート”の浮揚感は絆から生
じるが、美術の昂揚感は孤絶から生まれる。緩やかで気分的な連帯感を昂揚感である
と錯覚させるに過ぎない偽善の最たるものである、「環境的まったりコミュニティ」
を国民ならぬ“市民”の間に形成する“アート”なるものを、私は美術から峻別する。
私の描くものは愈々非-社会化され、俗なる共感も感動も齎さず、まるで理解の得
られない、感覚の総体たる形而上的幻影の塊りと化すだろう。それは世俗社会の価値
観で無駄なもの、無意味なもの、無価値なものである。それは取り付く島も無い言語
化不能のヴィジョンを提供するから、描いた者を含めて無きも同然に扱われる。美術
たる絵画が齎す昂揚感は、“アート”の世俗性とは徹頭徹尾無縁である。寧ろ数学に近
いか、数学そのものである。数学は絵画のように理詰めであり、且つ直感的である。
そのようなものだけが真の昂揚感と真のコミュニティとを齎すのだ。

絵画は蒸留水よりも無味無臭で、動画のようにも動かない。CGの派手な衝撃感も、
世事との関連も看られない。グラフィックな分かり易さも、お湯を注いで3分で味わ
える甘ったるい絆の感動も無い。アート的な共感もアート的な喜びもアート的な興奮
もアート的な連帯感も何一つ味わえない。“アート”的には徹底して無意味な代物であ
るから、人々の関心をそそらない。感動を“与えられ”たいのであれば、仁王立ちする
黄色いお化け人形や井戸からせりあがる安っぽい怪物の待つワンダー・ランドを訪ね
れば良い。そして“アート”ならではの飢えと渇きとを楽しめば、もはや事足りるので
ある。

―――“この井戸の水を飲む者は、また渇く”

平成25年7月11日酷暑の日に

[作家プロフィール]
橋本 倫  HASHIMOTO Osamu

1963 神奈川県横浜市生まれ
1986 多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻課程卒業
1988 多摩美術大学大学院美術研究科修了(油彩画専攻)
<個展>
1988 [AENAOI NEFERAI](村松画廊/東京)
1994 [PROLIFIC UNITY](タカゲン画廊/東京)
[具象は禁忌か?](川崎警察署大講堂/神奈川)
1996 なびす画廊(東京)
1997 なびす画廊(東京)
1998 なびす画廊(東京)
1999 なびす画廊(東京)
2000 なびす画廊(東京)
2002 なびす画廊(東京)
2004 なびす画廊(東京)
2005 [さまざまな眼147・橋本倫 展](かわさきIBM市民文化ギャラリー/神奈川)
2006 なびす画廊(東京)
2008 なびす画廊(東京)
2010 [CALL&RESPONSE](なびす画廊/東京)
2011 [北溟](POLARIS☆The Art Stage/神奈川)
2012 [孤氷地](なびす画廊/東京)
2013 [初 國~未生以前~](カスヤの森現代美術館/神奈川)

<グループ展>
1978 [具象美術協会展](横浜市民文化ギャラリー/神奈川)
1979 [神奈川県美術展](神奈川県民ホールギャラリー/神奈川)
1988 [東京五美術大学連合卒業制作展](東京都美術館/東京)
1989 [平面美術研究会第1回自主企画展-on canvas展](埼玉県立近代美術館/埼玉)
1990 [平面美術研究会第2回自主企画展](埼玉県立近代美術館/埼玉)
2000 [春のおくりもの](なびす画廊/東京)
2001 [2月のおくりもの](なびす画廊/東京)
2002 [11&11 Korea Japan Contemporary Art 2002](省谷美術館/韓国)
[11&11 Korea Japan Contemporary Art 2002 李靖妊・橋本倫 展](なびす画廊/東京)
2003 [第18回平行芸術展 <あざやか>の構造](エスパスOHARA/東京)
[新年のおくりもの](なびす画廊/東京)
2004 [黒須信雄・橋本倫 展](ギャラリエ アンドウ/東京)
2005 [2月のおくりもの](なびす画廊/東京)
[生誕100年オマージュ 長谷川沼田居 展](足利市立美術館/栃木)
[ユートピアを探しに-想像力の彼方へ- 展](新潟県立万代島美術館/新潟)
2006 [大森博之+橋本倫 2人展](鶴見画廊/神奈川)
2007 [ヘイリ・アジアプロジェクトII 日本現代芸術祭](ヘイリ芸術村/韓国)
[天体と宇宙の美学](滋賀県立近代美術館/滋賀)
2008 [De Mystica-召命-](Gallery Art Point/東京)
[絵画のコスモロジー 黒須信雄・小山利枝子・橋本倫 展](多摩美術大学美術館/東京)
2009 [DE MYSTICA第2回展-"アート"全盛期における\"美術\"-](なびす画廊/東京)
2013 [ANDO SESSION 4「色の力」](ギャラリエ アンドウ/東京)


全文提供:nabis gallery
会期:2013.9.2~2013.9.14
時間:11:30 - 19:00 (Satday - 17:00)
closed on Sunday
会場:nabis gallery
Last Updated on September 02 2013
 

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