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Eiichiro SAKATA
Events
Published: April 19 2013

「江ノ島」 1999 年 ⓒ Eiichiro SAKATA

人物写真(ポートレイト)の大家、坂田栄一郎の 未発表作品「江ノ島」を原美術館で初公開します。
「AERA」表紙などの仕事のかたわら、16年の歳月をかけて 取り組まれた作品「江ノ島」シリーズは、坂田の新たな一面 を見せる意欲作です。真夏の海でとらえられた“人のいない ポートレイト”とは。

[作家コメント]
1997 年から 2012 年まで 16 年間、江ノ島の海水浴場に通って撮影しました。弁天様の祀られている江ノ島には、何か不思議な空気が漂っていました。その磁場に引き寄せられるように、実に生き生きとした若者たちが、全国津々浦々から集まってきていたのです。
1997 年、8x10 カメラを携えて浜辺を歩いていると、はっとするような光景と出会いました。それは砂浜に無造作に置かれた持ち物でした。ブランドのバッグ、キャラクターの ぬいぐるみ、靴、飲みかけのドリンクなどが雑然と散らばり、人が不在でも、そこには持ち主の人物像や存在感が浮き彫りになっていたのです。これはまぎれも なく人間の写真、「ポートレイト」だと感じ、感情を強く揺さぶられました。「マルチタスク術」を身につけた若者たちが、音楽を聴きながら、飲み、食べ、煙 草を吸い、化粧し、ポケベルの音に気付いては公衆電話に飛んでいき、携帯電話が登場すると、会話を楽しんだり、写真を撮ったり、メールを送信したりと大忙 し。それは世界のどこにもない現代日本ならではの光景でした。快適だけど忙しく、豊かだけど満たされない、混沌とした現代を象徴するような寂寥感も漂って いました。
機 材は 8x10、4x5、6x6 を使用、また、ずっとフィルムで撮影しています。撮り続けていたある時、砂浜で一人の少女と出会ったのです。話している内に彼女のオーラに魅せられ、強い 生命力を感じて、ポートレイトを撮らせてもらいました(図版 4)。それがきっかけで江ノ島に遊びに来ている若者たちのポートレイトも撮るようになりました。
時 代の流れは、砂浜の風景でさえ変えていくことに驚きを覚えます。90 年代にバブルが崩壊した後も、江ノ島はその爛熟、エネルギーをまだ残していましたが、年を追うごとに、砂浜に置かれた持ち物の表情も素朴で静かなものに なっていきました。これまで心の揺さぶられるままに、膨大な数のシャッターを切り続けましたが、納得のいくものが一枚も撮れなかった時期もあります。
私 は、人が発する気を受け止めてそれと対峙し、自分自身の魂を生き返らせるようにして写真を撮っています。また写真を通して社会にメッセージを発信したいと 考えています。ぜひ、この展覧会からポジティブなエネルギーを感じて、複雑で先の見えない時代を生きるみんなに元気になってほしい、と願っています。

[作家プロフィール]
1941 年、東京都に生まれる。日本大学芸術学部写真学科卒業。田中一光、和田誠、篠山紀信など多くのクリエイターが在籍したことで知られる広告制作会社ライトパ ブリシテイに勤務の後、1966 年に渡米。ニューヨークで写真家リチャード アヴェドンに師事する。1970年に初個展「Just Wait」(銀座ニコンサロン)を開く。1993年には写真界の大型国際イベントとして知られる「アルル国際写真フェスティバル」(フランス)に招待さ れ、写真展を開催、同時にワークショップを行なう。またアルル名誉市民賞を受賞。週刊誌「AERA」(朝日新聞社)の表紙を飾る人物写真を 1988 年の創刊号から現在まで撮り続ける。2004 年、東京都写真美術館で個展「PIERCING THE SKY-天を射る」を開催。
2005 年に第 24 回土門拳賞ならびに日本写真協会賞・作家賞を受賞。

1985 年 「注文のおおい写真館」 流行通信社
1990 年 「Talking Faces」 六耀社
1995 年 「amaranth」 朝日新聞社
2004 年 「PIERCING THE SKY-天を射る」 求龍堂
2006 年 「JUST WAIT」 求龍堂
2008 年 「LOVE CALL 時代の肖像」 朝日新聞出版


全文提供:Hara Museum of Contemporary Art
会期:2013.7.13~2013.9.29
時間:12:00 - 19:00
closed on Monday
会場:Hara Museum of Contemporary Art
Last Updated on July 13 2013
 

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