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和田真由子:火のための枠
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 3月 12日

 

拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
児玉画廊|東京では、3月2日 ( 土 ) より4月6日 ( 土 ) まで和田真由子個展「火のための枠」 を下記の通り開催する運びとなりました。
和田は京都市立芸術大学在学中の 2009年、Kodama Gallery Project における初個展「ヨッ トの習作」にてデビューし、2011年の個展「ドローイングの絵」(児玉画廊|京都) においては、 自身の制作テーマを客観的に分類 / 考察し総括的に見せる展示内容で非常に大きな反響を呼び ました。2012年は国立国際美術館「リアル・ジャパネスク」展、兵庫県立美術館「現代絵画の 今」展など、 ミュージアムショーへの招聘、そして、本展覧会と同時期 (3/15-3/30) には上野 の森美術館で開催される「VOCA2013」への選出と、 精力的な活動を続けています。
まず和田の作品を前にして念頭に置かねばならないのは、和田の制作テーマが「イメージの 具現化に対する考察」であることです。 ここで言う「イメージ」とはすなわち、頭の中に浮か び上がる何らかのビジュアルイメージのことです。例えば、馬を一頭想像す るとします。する と、人によっては漠然と、頭首胴体があって、足が 4 本、尻尾に鬣といったシルエットが浮か んでくるでしょうし、 またある人には鋭い嘶きや馬蹄の響き、あるいは疾駆する動的なイメー ジが思い浮かぶかもしれません。和田の場合には、馬が頭を左に向けた姿勢で、左前足の奥に は右前足があり、その中間に胴体部分がある、といったように前後の位置関係やパーツの構造 的な重なりとして想像します。この頭の中にあるそのままのイメージを如何にして形にするか。 そのために和田が取った手法の一つが、ビニールシート上に透明メディウムでパーツごとに描 き分けるという方法です。まず一番奥にある右前足のパーツを描いて、 その上に胴体を重ね描 き、その上に左前足を更に重ねていく、という具合です。素材の透明感を利用してパーツの重 なる前後関係 をスケルトン状に見せることで、和田が頭の中で見ている馬と近い状況を作り出 そうとしたのです。そのような、原初イメージを できるだけ忠実に、独自の理論と手法により 実体化させていくプロセスのことを「イメージにボディを与える」と和田は言います。
通常絵を描く時には、想像や実物を基にして、それをディフォルメするにせよ写実的に描く にせよ、人が見てそれと分かるよう に均整をとったり似せるように補正を加えたりします。そ れに対し、「イメージにボディを与える」ということは、そういった補 正を排除して、最初に イメージされた状態を忠実に形にするということです。過去の和田作品にもよく見られる、木 製パネルにニ スや絵具をレンガブロック状に塗り重ねて平面上にあたかも実際の施工の様に建 物を建てるという作品や、ビニールシートやベニヤ板などをおおらかな形で組み合わせてざっ くりとモチーフの形を表し、スタディとしてのドローイングの手法を立体構成に応用 した作品 など、作品の主旨と形態 ( 平面や立体といった区別 ) とが矛盾しているように思えるものも、 この「イメージにボディを与える」という考えに沿えば理解の糸口が見えてきます。
和田の作品に関しては、「平面」「立体」という区別について少し考えを新たにしなくては なりません。見た目がタブローだから「平面」であるとか、アッサンブラージュ的なものが 「立体」であるとは限らないのです。それは作品タイトルを見るとより分かり易いでしょう。 和田の作品タイトルはその作品の本質を表すもので、例えば「ドローイングの絵」「建物の絵」 などといった場合、 その意味合いは「ドローイングをするときのようなモチーフの瞬間的 / 即 興的な捉え方に則った絵画的表現の作品」であり、「建物の立体的な構成を有していると認識 されるように描かれた絵画的表現の作品」ということになります。或は「建物」「ツバメ」 な どといった表現では、「建物を建てる手順に則って立体的な構成を具体的に認識できるように 平面上に構築した作品」であり、「ツ バメをイメージし、そのイメージ内におけるツバメの立 体的構造および存在感を出来る限り忠実に再現した構成物」という具合になります。つまり、 「建物」は見かけ上平面であるが立体作品、「建物の絵」はあくまで建物をモチーフとした絵 画的表現、ということで、 同じようなモチーフの平面上の作品であっても両者は概念上全くの 別物となるのです。和田の「平面」「立体」の区別は、見た目の「平面」「立体」ではない、 ということです。
もう一つここで重要なことは、和田にとって「絵」という言葉が、「絵画的な表現」という 意味である点です。「絵画的」というのは ( 平面/立体を問わず ) 遠近法や透視図法、明暗法な どのいわゆる「イリュージョン」に依った作品表現を指します。作品によっては敢えて「イリ ュージョン」を比較対照的に取り入れるということをしていますが、和田の制作目的はこの 「イリュージョン」とは明らかに方向を違えています。イメージに対して忠実である事、この 単純なことこそが和田の最大の望みであり、であるからこそ、 和田にとって「イリュージョン」 とはその語意が示す通りあくまで「錯覚」であり「幻影」なのです。
「火のための枠」という今回の謎めいた展覧会タイトルも、そういう視座に立てばこそ、一 つの新たな道を示すものと理解されるでしょう。「イリュージョン」でイメージの本質が掴め ないならばと、それに頼らない表現を様々に試行してきました。とはいえ和田にとってイメー ジというものはどこまで行っても雲を掴むようなもので、であるからこそどうにかしてそれを 忠実に再現しようと切望するのです。それ故に、「イメージにボディを与える」という行為を 具体的に示すために、これまで選んできたモチーフは敢えて一般的で具体的な題材、「馬」 「鳥」「建物」「ヨット」といった言うなれば誰もが形を想像し易いモチーフであったと言え ます。今回の展覧会では一つ歩みを進めて、「火」のようなもの、つまり存在は認識できるけ れども形を固定できない曖昧な ( 良く分からない ) ものをイメージの比喩として作品の主題に置 く、ということなのです。そして、その曖昧さをそのまま保持し収め るための台座あるいはフ レームのような役割を作品に与えてみよう、というのです。イメージされた「火」によって木 を燃やそうと試みる、あるいは、「火」のような曖昧な存在感のイメージを曖昧なまま具現化 する、といった作品を発表します。具体性ではなく曖昧性によってイメージを捉え、それをそ のままの形で表現する、和田の新しい挑戦です。
物体に固有な形状、形骸化した美術様式、あくまで幻想でしかない絵画技法、それらは和田 の「イメージの具現化」という主題の前に瓦解します。自らのイメージの姿と正面から向き合 い、愚直なまでの表現によって未だ誰も見た事のない作品を生み出そうとする和田に対して、 荒唐無稽と一笑に付すよりも、我々はつい何を見せられるものかと期待してしまうのです。 つきましては本状をご覧の上、展覧会をご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

敬具
2013年2月
児玉画廊 小林 健


全文提供:児玉画廊 | 東京
会期:2013年3月2日(土)~2013年4月6日(土)
時間:11:00 - 19:00
休日:日・月・祝
会場:児玉画廊 | 東京
最終更新 2013年 3月 02日
 

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