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船田玉樹:創造の森へ
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2012年 11月 02日

 

 

 

孤高の画家、船田玉樹の生誕100年を迎える今年、画業の全貌を初めて紹介する展覧会が練馬区立美術館、広島県立美術館を巡回しています。*1) アートフロントギャラリーでは、戦後広島に隠棲していた玉樹との出会いに始まり、80年代と2011年には東京やスイスで作品を展観する機会がありました。今回、屏風・水墨画・未発表の遺品など多岐にわたる玉樹の作品を再構成し、作家の飽くなき探究心や今まで知られなかった制作態度に焦点をあてた展覧会を開催いたします。

1912年広島に生まれた玉樹は、早くから絵の才能を開花し、彫り師であった父の勧めもあって上京、日本画の巨匠、速水御舟・小林古径の薫陶を受けました。その後、シュルレアリスムや抽象主義を導入しつつ自由な表現を追求した歴程美術協会の結成に参画し、歴程第1回展(1938年)に出品したのが四曲一隻屏風《花の夕》です。玉樹は後年この絵について、花を勢いよく描いてその間に枝を通していく手法で、2週間余りで仕上げたが、「まさに自分の絵でした」と述べているように、現代日本画の精髄を感じさせる逸品です。

他の晩年の屏風に於いてはしかし、画面を覆う気韻生動のエネルギーに加えて何度も箔を貼り重ねた上に別の色を載せたり、いつまでも手元に置いて加筆を繰り返したり、完成するまで数年を要することもしばしばでした。大画面を構成するにあたり、近所の野山に出かけて写真やスケッチを試みたり、美術全集や雑誌の切り抜き帖をつくったりしています。理論好きの玉樹はさらに、紅葉や松・竹林などを描いた色紙や絹本を写真用カッターで惜しげもなく切り刻み、構図を研究し、新たな作品と見立てたものなども残されています。これら未公開の作品群からは、松の葉1本もゆるがせにしない厳しさとともに、制作の目的を発表というよりも自己或いは歴史との闘いに置こうとする作家の姿勢がうかがわれます。

一方で、あたかも文人画のような軽い筆致で描かれた「河童」「山の家」その他の風景画も玉樹のもう一つの顔として見逃せません。人里離れて描き続けること、詩を通じて素の自分を吐露することは「何か仕事をせずには居れぬ」玉樹にとっての生活そのものでした。
見えない目標に向かってひたすら突き進み、その向こうにある何かを掴もうとした玉樹はこんな詩の一節を残しています。

僕等は泳いだ / ずい分楽しく泳いだ / いくら泳いでもつかれなかった /
河童の沼のひろいことは / 僕等が又も何萬年も / 泳ぎつづけているといふのに
岸のみえないことだった / 岸の見えないことなど問題でない
泳げば泳ぐほどうれしいのだ   

*1 広島県立美術館展  2013年1月21日~2月20日


全文提供:ヒルサイドフォーラム
会期:2012年11月21日(水)~2012年12月9日(日)
時間:11:00~19:00
休日:月
会場:ヒルサイドフォーラム
最終更新 2012年 11月 21日
 

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