芸術の分野における支持体とは、主に作品を支える物体を指します。作品としての存在を支えるもの、その物理的な基盤となるもの。

絵画で言えば、古くから絵具を定着させる漆喰の壁やキャンバスなどを支持体としてきました が、芸術の概念や表現手段が拡張されるにつれて、絵具以外のものも保持しなければならなくなり、現在では、実に多様で幅広い素材が支持体として用い られています。今まで支持体では無かったものの存在が、作家の表現や造形意欲をかき立てるものとなっています。支持体となりうる可能性は、この世のすべてのものに宿っていると言っても過言ではありません。

ただし今回の < Melting Core > 展では、支持体の多様性を提言するものではなく、むしろ作家にとってあるいは作品における支持体のあり方自体を問うものと言えるでしょう。

今回の出展作家５人の特徴は、いずれも支持体 への関与（行為）そのものが作品になっている点です。それぞれ方法は違うにせよ、支持体への行為の結果が作品を成立させていることに触れていただきたいと考えています。

［作家プロフィール］
●内山聡／うちやまさとし (b. 1978)
「It's growing up」
内山は近年、色とりどりの紙テープをはじめ、梱包などに使うガムテープや養生テープを素材とし、単純にただひたすらぐるぐると同心円状に巻き付け、巨大な円形の物体を制作しています。元々のテープ（原型）と作品（おかれている状況）とは全くの相似形であり、いったい何が違うのか？巨大化と脱用途化によってなにか別のものに転換されているところまでは理解できるものの、この問いに対し人は決定的な解答を持ち合わせません。

1978 神奈川県出身
2005 多摩美術大学 大学院美術研究科修了
2007 アーティストランスペース Gallery Stump Kamakura で企画運営に関わる。
2011 第26回ホルベインスカラシップ奨学生




●関智生／せきともお (b. 1965)
「Many Edges」
関智生の作品は、支持体に孔を穿ち、片方の面から孔を通して絵具をスクィーズする行為により制作されて います。作家は「あちら」から「こちら」 に向かって、絵具を二つの空間に移動させています。こちら側では、絵具の流れ出た様子が一つの既成事実としてとして捉えられ、不可視な裏側への想像をかき立て、時間の流れや長さを感じさせることになります。

1965 奈良県に生まれる
1988 名古屋芸術大学美術学部卒業
1989 名古屋芸術大学美術学部研究生修了
1992 第７期ホルベイン・スカラシップ
第４回写真新世紀　佳作
1998 愛知県新進芸術家海外留学等補助事業研修員 (~2000)
2000 ノッティンガム・トレント大学Fine Artにて修士取得
2003 セントラル・セント・マーティンス・カレッジ・オブ・
アート・アンド・デザインにてAssociated Studentを修了



●蛇目／へびめ (b. 1982)
「Lab work」
蛇目の絵画は木製パネルの上に何重にも塗られた絵具の層を、彫刻刀で彫りや削りを施した断面で構成されています。木製パネルを覆い尽くし異様なまでに盛り上がった絵具の塊。そこにはパネルの存在意義はもはや無く、それに代わって塗り重ねられた絵具の層そのものが新しい支持体になっています。

1982 神戸市生まれ
1998 高校中退し絵を描きはじめる。
2000 ゴッホの影響から水性色ペン画を描くようになる。
2008 大阪を中心にギャラリー等で作品の発表を始める。



●やまもとひさよ (b. 1979)
「大川さん」
やまもとの今回のシリーズ「大川さん」では、自らが撮影しＬ判サイズにプリントした写真を使用しています。それらのプリントは、火で焼かれたり、しわくちゃにされたり、ハサミで切断された後セロテープが張られたりしており、ある種の瘢痕（作家の感情や感傷）を観者は見せつけられることになります。

1979 大阪生まれ
1998から写真を撮り始める。
2003年以降、関西を中心に個展を開催、また多くのグループ展に参加している。



●百合一昌／ゆりかずあき (b. 1975)
「水平線」
百合はまず、コピー用紙などを規則正しくカットし、何百枚も重ねた『冊子』をつくります。それを濃厚な絵具の液体に数時間浸したのち引き上げ、乾燥させたものを作品としています。この行為によっておきた現象と結果を百合は平面絵画と立体作品の中間体として見せています。

1975 三重県産まれ
1999 京都造形芸術大学美術学部彫刻コース修了
1999以降関西を中心に個展、WSを開催。

オープニングパーティー＆トークイベント　2012年９月７日（金）17:30~