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元田久治 個展
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2012年 6月 04日

“Foresight-Stadium1” (AT&T Park, San Francisco Giants)
88 x 178.5cm リトグラフ ED.10 2011年
Copyright(c)Hisaharu Motoda All Right Reserved.

“Foresight-Stadium1” (Los Angeles Angels of Anaheim)
53×65.5cm キャンバスに油彩 2011年
Copyright(c)Hisaharu Motoda All Right Reserved.

ひとけのないスタジアムにともった灯り。そこに浮かび上がっているのは、長い年月を思わせる遺跡のような荒廃した風景です。途方もない時間の経過を感じると同時に、その朽ちていく過程を、静かに見守ってきたまなざしのような光線が、時を止めているようにも感じさせます。

元田久治は1973年熊本県に生まれ、幼い頃から、古びた神社やひび割れた古いレンガなどを好んで、モチーフに選んでは描いていたといいます。九州大学芸術学部に在学していた頃、版画技法の一つであるリトグラフと出会い「描きたいものがはじめて具現化できた」という手応えを覚え、以後その手法で制作を続けています。

人工的な建造物が放置されて風化し、自然に近づいていく過程に興味をもち、2004年からは現存するランドマークが朽ちている姿を緻密なタッチで丁寧に描写していきます。以後「いま安住しているすべてがかりそめで、消えてなくなるかもしれない感覚。田舎から上京した時に感じた東京という街のうそっぽさも投影しているのかもしれない」と話し、未来の記録としての廃墟を描き続けて来ました。

2009-2010年には文化庁新進芸術家海外研修でオーストラリアとアメリカに滞在し、描かれる場所は国内のみならず海外へと範囲を広げて行きます。

そんな中2011年3月の東日本大震災は、これまで元田の作品の中では「未来」とされていた時間を「現在」に、「虚構」を「現実」へと変えたかのようでした。この頃、私たちが日々凝視し続けた震災の情景が、元田の作り出した風景にオーバーラップして見える方もいるでしょう。

しかしながら、これまで長年に渡って元田の表現し続けてきた世界は、災害によって一瞬に破壊されてしまった情景ではなく、時間による風化で建物が自然へと回帰していく姿です。作家がむしろ、荒廃には失われて行くばかりではない、浸食されつつも、新たな変化が生まれるという点に着眼している事に気付くことでしょう。

さらに時間を先へと進めた作家が描く未来の記録は、「始まる再生」へと繋がっています。

会場では、新作を含むリトグラフと油彩作品数点を展示いたします。 どうぞ、この機会にご高覧賜りますよう、お願い申し上げます。

[作家コメント]
私は現実にある風景や建物をフィクションとして風化させ、あたかも現実の風景かのように設定して描いている。なぜこのように現実にある建物が風化されているのか疑問に思うだろう。人によってはこれから現出するであろう未来の風景と想像するかもしれないし、昔あった過去の風景と思うかもしれない。フィクション=作り事ではあるが、完全な絵空事とも言い切れない風景である。

[作家プロフィール]
元田 久治(もとだ ひさはる)
1973 熊本県出身
1999 九州産業大学 芸術学部 美術学科 絵画専攻卒業
2001 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画(版画)専攻修了
2009-2010 文化庁新進芸術家海外研修制度研修員(オーストラリア、アメリカ)

<主な個展>
2011 元田久治展(中京大学内アートギャラリーC・スクエア、名古屋)
Murata & Friends –Neo-Ruins–(ベルリン、ドイツ)
2010 Victorian College of the Arts, the University of Melbourne(メルボルン、オーストラリア)
2009 AIN SOPH DISPATCH(名古屋)hpgrp GALLERY東京(東京)
2008 養清堂画廊(東京)
2007 熊本市現代美術館ギャラリーⅢ(熊本) 

<主なグループ展>
2012 DOMANI・明日展(国立新美術館) 
2011 I氏コレクション展(高崎市美術館/群馬)
内在の風景展 –Immanent Landscape–(小山市立車屋美術館/栃木)
JAPANCONGO –Jean Pigozzis collection–(Centre National d Art Contemporain/グルノーブル、フランス)
2010 水景頌 画廊50年の軌跡(不忍画廊/東京)
版画の色—リトグラフ(文房堂ギャラリー/東京)
内在の風景 –Immanent Landscape–(West Space /メルボルン、オーストラリア)
On View : New Work from Kala(Kala Art Institute Gallery /バークレー、アメリカ)
収蔵作品展 幻想の回廊034 –Imaginarium–(東京オペラシティーアートギャラリー)
2009 メリー・ゴー・ラウンド –煌めきと黄昏–(熊本市現代美術館)
現代絵画の展望 12人の地平線 東京ステーションギャラリー企画(旧新橋停車場鉄道歴史展示室)
2008 VOCA展2008 現代美術の展望-新しい平面の作家たち(上野の森美術館)
空は晴れているけど –浜口陽三と元田久治、小野耕石、杢谷圭章–(ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション/東京)

<受賞歴>
2009 日本版画協会展 準会員優秀賞(FF賞)(東京都美術館)
2003 第11回プリンツ21グランプリ展 特選(東京)
2002 日本版画協会展 日本版画協会賞(東京都美術館)
第34回ジヨ−ル国際美術家シンポジウム Chief Prize(Municipal Museum /ジヨール、ハンガリー)
2001 神奈川国際版画トリエンナーレ2001 準大賞(神奈川県民ホールギャラリー)

<パブリックコレクション>
町田市立国際版画美術館(東京)、府中市美術館(東京)、佐喜眞美術館(沖縄)、上山田文化会館(長野)、Municipal Museum(ジヨール、ハンガリー)、熊本市現代美術館(熊本)、東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)


全文提供:キドプレス
会期:2012年6月9日(土)~2012年7月7日(土)
時間:12:00 - 19:00
休日:日・月・祝
会場:キドプレス
最終更新 2012年 6月 09日
 

編集部ノート    執筆:田中 麻帆


“Foresight-Stadium1” (Los Angeles Angels of Anaheim)
53×65.5cm キャンバスに油彩 2011年
Copyright(c)Hisaharu Motoda All Right Reserved.
画像提供:キドプレス

壁が打ち崩れ、雑草の生茂る廃墟の数々。誰も訪れなくなって、忘れ去られてから随分と時間が経っているようだ。よく見るとそれは、私達が見慣れた東京ドームの球場だったり、ローマのコロッセオだったりする。現実の風景を撮った写真をトレースしたかのような精緻なデッサンに、思わずはっとさせられる。遠く離れた各国の場所であるのに、キャプションがなければわからないほど、どの廃墟もよく似ている。これはつまり、時の経過のもとには全てが儚く平等、というヴァニタスの骸骨のような警句なのだろうか。時代の変遷とともに、野球中継の延長でドラマの録画に失敗することも少なくなり、また近年ではEUにおいて経済危機が深刻な話題となってきた。一瞬そんなことを連想してしまった。

しかし、これらの廃墟には、サイバーパンクのような終末的な景色とは違って、生茂る草や木々がある。ここから生える新芽は、また新たな生命を拡げていくだろうと思わせる。余計な物語的描写を排した無人の競技場と観客席は、観る人によって生み出される多種多様なドラマに、新たな希望を託しているのかもしれない。


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