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テマヒマ展 〈東北の食と住〉
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2012年 5月 18日

テマヒマ展〈東北の食と住〉ポスター

21_21 DESIGN SIGHTでは4月27日より、「テマヒマ展〈東北の食と住〉」を開催します。本展は、東日本大震災を受け昨年7月に開催した特別企画「東北の底力、心と光。 『衣』、三宅一生。」に続き、三宅一生とともに21_21 DESIGN SIGHTのディレクターを務める、グラフィックデザイナー 佐藤 卓とプロダクトデザイナー 深澤直人の視点から、東北の「食と住」に焦点を当てるものです。

東北のものづくりには、合理性を追求してきた現代社会が忘れてしまいがちな「時間」の概念が、今もなお生き続けています。長く厳しい冬を越すなかで、繰り返し根気よく行われる手仕事。暦に寄り添い素材を準備する、 自然が息づく謙虚な暮らし。未来を考えるデザインの観点からも注目したい、「手間*1」のプロセス、「ひま*2」(時間)というプロセス。テマヒマかけた東北のものづくりが可能としてきた特色や魅力、そして何よりその考え方を、私たちはどのように明日につないでいけるのでしょうか。

本展に向けて、デザイナーをはじめ、フードディレクター、ジャーナリスト、映像作家、写真家で構成されたチームが、東北6県の「食と住」をめぐるリサーチを行ないました。歴史のなかで培われた独自の伝統を継承する農家。時代や社会の動きを見つめ手仕事を再興する職人。若い才能とともに新たなものづくりの可能性を開拓する工房……。粘り強く前向きな東北の人々との出会いが、展覧会というかたちに結実します。

会場では、佐藤 卓のグラフィックと深澤直人の空間構成により、東北のテマヒマかけた「食と住」にまつわる55種の品々を、撮りおろしの映像や写真とともに紹介します。東北の文化や精神を背景に生まれたものづくりから、今後のデザインに活かすべき知恵や工夫を探ります。

*1てま[手間] ①ある事のために費やす時間、また、労力。
*2ひま[隙・暇・閑] ⑥何かをするのに要する時間。手間。
てまひま[手間隙・手間暇] 手間とひま。労力と時間。
『広辞苑』(岩波書店)より

[作家プロフィール]
★佐藤 卓 さとう たく/グラフィックデザイナー
株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などのパッケージデザイン、「ISSEYMIYAKE PLEATS PLEASE」のグラフィックデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館のシンボルマーク、武蔵野美術大学 美術館・図書館のロゴ、サイン及びファニチャーデザインを手掛ける。また、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」のアートディレクターや「デザインあ」総合指導を務めるなど多岐にわたって活動。著書に『デザインの解剖』シリーズ(美術出版社)、『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)。

「永い年月、厳しい自然と折りあいをつけながら、生活のために伝承されてきた東北に残る食と住から、私達はこれからのために、今、何を読みとることができるだろうか。伝承とは、先代のやっていることを最初は見よう見まねで身体で覚え、熟達したものが次の世代へと引き継がれていくこと。そこには、つくり方のマニュアルもなければ、丁寧な手ほどきもない。その家に生まれたら、それをすることが宿命だと身体に思い込ませ、受け継いでいく。今、残っている素晴らしい手仕事を褒めたたえることは容易いが、どうしてこの地域に残ってきたのかを掘り下げ、そしてその精神をなんとか未来に残していく方法を探らなければならない時がきている。なぜなら、その永い間受け継がれてきた日本のものづくりの精神が、近代の『便利』を崇拝する合理主義に、歪んだ民主主義と資本主義が折り重なり、急速に消えつつあるからだ。『便利』とは、身体を使わないということである。現代社会はできるだけ身体を使わないで済む『便利』なものを、疑うことなく受け入れてきてしまった。身体を使わないと人間はどうなるか。ここに記すまでもなく、様々な現代の病がそれを物語っている。この『便利』というウイルスは、一度生活に入り込むとなかなか元には戻れない手強いウイルスなのである。このウイルスが、日本の風土をことごとく蝕んでしまった。しかし、僅かな麹こうじから幻の味噌を再生するように、今に残る手間ひまかけた手技からその精神を汲み取って、なんらかの方法で未来に向かって引き継いでいくことはできないものだろうか。この展覧会で、少しでも東北に残る日本のアノニマスなもの達に接していただき、日本のものづくりを今一度考えるきっかけにしていただければ幸いである」


★深澤直人 ふかさわなおと/プロダクトデザイナー
1989年渡米し、IDEO(サンフランシスコ)に8年間勤務。’97年帰国、IDEO
東京支社を設立。2003年Naoto Fukasawa Design設立。イタリア、フランス、ドイツ、スイス、北欧、アジアを代表するブランドのデザイン、国内の大手メーカーのコンサルティングを多数手がける。デザインの領域は、腕時計や携帯電話などの小型情報機器からコンピュータとその関連機器、家電、生活雑貨用品、家具、インテリアなど幅広い。人間とものとを五感によって結びつける彼の仕事は、より大きな喜びを使い手に届けるものとして高く評価されている。著書『デザインの輪郭』(TOTO出版)、共著書『デザインの生態学』(東京書籍)、作品集『NAOTO FUKASAWA』(Phaidon)、『THE OUTLINE見えていない輪郭』(写真家 藤井 保氏との共著、アシェット婦人画報社)。

「すだれのように吊り下げられた数千本の干し大根。天にも届きそうなくらいに積み重ねられたリンゴの木箱。やわらかく煮るために、ひとつひとつ木鎚でつぶされる大量の豆。すべては人間の手の動きと自然が織りなした東北の生活のテクスチャーであり、生活に刻まれたリズムである。自然と季節の力を借り、それも無駄のないひとつの道具として授かり、日々の恵みとして蓄え続けて行く様。この停まることのない緩やかな循環が東北の人の生きるペースである。この生活には手間ひまがかかっている。しかし穏やかで強く、迷いがない。このペースは自然と共生して来た長い経験によって、エコロジカル(生態的)な営みに同期し、破綻がない。手間ひまをかけるものづくりは常に『準備』である。その営みに終わりはないし完成もない。しかしその手間ひまが生み出すリズムが、行く先を見失いかけている今の人間のペースを穏やかに緩和し、大切な何かを明示し、焦りの心にひとつの糧を与えてくれるような気がしてならない。訪ねる東北の先々で必ず同じ質問をしてみた。『なぜもっと楽に、合理的な方法でやろうとしないんですか?』と。返事は、『??…?……。無理をしないってことかなぁ』と。『無理』は循環を壊してしまうことを意味している。粘り強く淡々と繰り返される一見単純そうに見える作業が、穏やかで豊かな生活の循環を生み出している。『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』にその空気を持ち込めるだろうか。急ぎすぎて混迷する現代を救う啓示に満ちた生活の美を持ち込めるだろうか。東北には今、人が見失いかけている真の豊かさの定義と、飾らない美の真髄が潜んでいると確信している」


★奥村文絵 おくむらふみえ/フードディレクター
1971年東京生まれ。’94年早稲田大学卒。東京デザインセンター勤務を経てフードコーディネーターの道に進み、2008年、フーデリコ株式会社を設立。ブランドコンセプトの開発と商品開発、パッケージ、空間、販促、ツール制作、食材の掘り起こしなどをトータルに導く手法で、日本の食のブランディングを手がける。また、ごはんブランド「800 for eats」を立ち上げ、全国の産地とともに開発する「贈る食品」という新たなマーケットの開拓にも力を入れる。
http://www.foodelco.com/

「本展のために東北の山、海、里を巡って、美しく厳しい自然を肌で感じることができました。強く印象に残ったのは、この厳しい条件で生きるために、世代から世代へ、手から手へ、口から口へ、東北の人々が受け継いできた暮らしの知恵と工夫です。そして書き留められることもなかった食べ物の多くはいま、ものが溢れる現代社会のなかで居場所を失いつつあります。東日本大震災によって食品売り場から製品が消えたとき、目の当たりにしたのは、自分の手で料理をするという単純な営みが、温もりと希望をもたらす光景でした。当たり前だと思い込んできた食の営為、その未来を考え直すうえで、東北の知恵と工夫は懐かしさを越えて、実に多くの示唆に溢れています。本展でデザイン的視点から料理した手間ひまをじっくりと味わっていただき、私たちの未来と生き方に、新たな息吹を吹き込む手がかりとなれば幸いです」


★川上典李子 かわかみのりこ/ジャーナリスト
『AXIS』編集部(株式会社アクシス)を経て1994年よりフリーランスのジャーナリスト、エディター。’94年〜’96年にはドムス・アカデミー・リサーチセンターのプロジェクトにエディトリアルディレクターとして参加。主な著書に『リアライジング・デザイン』(TOTO出版)、主な共著書に『ニッポン・プロダクト』(美術出版社)、編書に『天童木工』(美術出版社)。『thonik en』(美術出版社)ほかデザイナーの作品集への寄稿多数。2005年「Carrying―マイク・エーブルソンのデザインリサーチ」展(MDSギャラリー)ゲストキュレーター、’08年「WA―現代日本のデザインと調和の精神」展(国際交流基金、パリ日本文化会館はじめ’11年まで6カ国で開催)共同キュレーター。

「自然への畏敬の念と、冬の準備。風土を反映し、素材づくりに始まる制作。昨年開催した『東北の底力、心と光。「衣」、三宅一生。』の際、私自身、日本のものづくりの叡智を学びました。今回、『食と住』に焦点を絞って制作の現場を改めて訪ねる過程で再び感じたのは、気負いなく地道に作業に向かう人々の姿であり、工夫の数々です。今回もすばらしい方々と出会うことができました。人間の文化史の現われである、ものづくり。素材を熟知したスペシャリストの存在があります。経験のうえで“勘”が活かされ、さらに独自の工夫も始まっています。と同時に出会うのは、後継者不足の課題により、伝えられてきた手仕事のいくつかは近い将来に消えてしまうかもしれないという現状です。東日本大震災の影響も依然として横たわっており、長く生き続けてきた『東北の食と住』の精神に改めて目を向けることの重要性を感じずにはいられません。手や身体を動かし、作業の反復という時を重ねることで蓄えられてきた“知”。誠実なデザイン、信頼できるものづくりをいかに実現できるのか、さらには生活とは何かを改めて考えるべき今、『東北の食と住』は、現代社会が抱える様々な課題を示すと共に、我々に多くのことを気づかせてくれます。本展をふまえ、さらに多くの方々と、私たちの生活の今後について語りあっていきたいと考えています」


★トム・ヴィンセント/株式会社トノループ・ネットワークス 代表
クリエイティブ プロデューサー、ナレーター、TVプレゼンター
1967年イギリス生まれ。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン及びカリフォルニア大学卒。’89年に来日、’96年より永住。’97年、大日本印刷のオンライン美術マガジン「nmp-international」の海外版編集長。’98年からインターネットプロジェクト「センソリウム」に参加。’99年〜2006年、ウェブデザインを専門とする株式会社イメージソースの役員兼クリエイティブディレクターとなり、様々な広告賞を受賞。’05年〜’08年、バイリンガルオンラインマガジン「PingMag」をプロデュース、創刊。’09年、株式会社トノループネットワークスを設立。様々な地方の町おこし、島おこしや地域活性化関係の企画にも参加。
http://www.tonoloop.com


「レンズ越しに職人の作業を見つめると一定のリズムが見えてくる。それは『反復』『羅列』『一定』などのリズムであり、出来上がった製品には、多分にデザインの要素が含まれていた。そして新しい『テマヒマ』を写真で表現できればと思う」「奥会津の九十歳になる、マタタビ編み細工職人・五十嵐文吾さんは静寂の中、一日ひとりきりで仕事している。でも孤独ではない。なぜならば口ではなく、手が常に忙しく饒舌に編み細工と対話している、そんな風に感じた」「数年前から『地域活性』という言葉が注目され、各地の課題に取りかかる人が増えました。しかし日本に限らず、過疎化、高齢化社会、資源の不足と自立性、伝統文化の消失など、地方の町が抱える課題は先進国共通の問題となりつつあります。本展の映像は東北地方の現状のほんの小さな、一部の記録にすぎません。人々の『テマヒマ』は美しく、その『美』に出会うと同時に、背景にある日本社会の厳しい現状や、全世界に通じる多様な可能性が隠されていることに気づくきっかけになれば、何よりも嬉しいです」


★山中 有 やまなか ゆう/映像作家
1976年山梨県生まれ。株式会社ブルードキュメンタリー代表。東京都立大学理学部物理学科卒。日活芸術学院映像科演出コース卒。映画、ドラマ、コマーシャルフィルム、ミュージックビデオの現場で働く。2010年株式会社ブルードキュメンタリーを設立。主にドキュメンタリー映像のディレクターとして活動中。主な仕事に「花屋MIDORI」「日産BLUE CITIZENSHIP」「NISSAN TECHNOLOGY MAGAZINE」「ミライニホンプロジェクト」「FUJIFILM 世界は、ひとつずつ変えることができる。(ウェブ)」「SHISEIDO Makeup Harmony」ほか。また現在、ドキュメンタリー映画を制作中。

「奥会津の九十歳になる、マタタビ編み細工職人・五十嵐文吾さんは静寂の中、一日ひとりきりで仕事している。でも孤独ではない。なぜならば口ではなく、手が常に忙しく饒舌に編み細工と対話している、そんな風に感じた」


★西部裕介 にしべゆうすけ/フォトグラファー
1977年神戸生まれ。’95年東京水産大学(現東京海洋大学)に入学。航海士を目指すが、遠洋航海中に写真に目覚める。写真学校を経て株式会社アマナへ入社。2011年フリーランスとなる。広告の商品、風景撮影を中心に活動中。ライフワークは「巨大船舶」、「釣魚」、「滝」。
http://www.yusukenishibe.com

「レンズ越しに職人の作業を見つめると一定のリズムが見えてくる。それは『反復』『羅列』『一定』などのリズムであり、出来上がった製品には、多分にデザインの要素が含まれていた。そして新しい『テマヒマ』を写真で表現できればと思う」


■ 関連プログラム 会場:21_21 DESIGN SIGHT 参加無料(要当日の入場券)

○トーク「21_21 手仕事フォーラム」「暮しの手帖」編集長、ブックストア「COW BOOKS」代表で文筆家の松浦弥太郎と、長年時間をかけて全国各地の工房をたずね歩き、自らの目で選び、販売するショップ 鎌倉「もやい工藝」代表の久野恵一。久野が代表を務め、手仕事を中心に議論し合う「手仕事フォーラム」の会場をテマヒマ展に移し、「21_21 手仕事フォーラム」と題して、それぞれの視点から東北を中心に日本の手仕事を語ります。
日時 5月19日(土) 14:00〜15:30
出演 松浦弥太郎(「暮しの手帖」編集長)
久野恵一(手仕事フォーラム代表)

○展覧会企画チームによるギャラリーツアー
日時 5月12日(土) 山本晶子(oraho)、本展企画担当者
5月26日(土) 川上典李子
6月2日(土) トム・ヴィンセント、山中 有、本展企画担当者
6月16日(土) 奥村文絵
6月23日(土) 西部裕介、本展企画担当者
各日程全て14:00〜15:00 7月以降も会期中開催予定
*この他にも会期中はさまざまなプログラムを開催します。詳細は随時ウェブサイト等にてご案内します。

全文提供:21_21 DESIGN SIGHT


会期:2012年4月27日(金)~2012年8月26日(日)
時間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)
休日:火曜日(但し5月1日は開館)
会場:21_21 DESIGN SIGHT

最終更新 2012年 4月 27日
 

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