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阿部岳史:幽玄
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 11月 11日

《A German Boy》(部分)|ウッドキューブ|2011|1000×803×27mm |Copyright© Takeshi Abe | 画像提供:アートフロントギャラリー

小さな着色された立方体を一定の間隔で壁に貼る。細やかな仕事である。近くから見るとキューブにしか見えないが、遠くから見て始めてそれが写真のような精巧な絵に見えることに気がつく。虫眼鏡で初めて印刷の網点を見たときの驚きに似ている。あるいはチャック・クローズの分解された色が集合してひとつの大きな人物像をなす作品をも連想する。それでも印刷の網点やクローズの作品と阿部の作品の違いについて、実際の作品をVOCA展でよく見るまではなかなか説明ができなかった。

阿部のグリッド上に配置されたキューブには必ずといっていいほど隙間があり、壁面を作品の一部に取り込んでいる。そこに立体であるキューブが必ず影を落とす。私たちが作品に近づいたり、対峙する角度を変える度に、立体のキューブは見え方が変わり、壁に落ちた影も変わって見えてくる。鮮明さを目指す印刷技術と異なり、阿部の作品は鮮明でありえない。いつまでも不鮮明であり、像そのものが揺れ動いてしまうのである。描かれているのが何かということについては男だか女だかは判別がついても誰であるかはわからない。おそらく誰でもない不鮮明な誰かなのである。これらの作品では、色のついたキューブというシステムを使っているだけであって、本来は装置としてシンプルなシステムを使って図像を表現する試みこそ、阿部の作品の面白さなのだと思う。

今回の展覧会ではキューブを使った平面の作品とともに、立体作品が展示されることになる。基本形がキューブであることを考えてみれば、初めから立体を志向している作家なのである。ダニエル・ビュレンの例を挙げるまでもないであろう。基本のシステムを変えなくとも、平面に貼り付けられた作品を置き換えて立体空間に配置したり、色を光に置き換えたりすることでいくらでも新たな作風を開拓できるであろう。阿部岳史の現在の作品群からさまざまな可能性に広がる膨大なシステムのバリエーションを予感していただける展覧会になると思う。

※全文提供: アートフロントギャラリー


会期: 2011年11月15日(火)-2011年12月4日(日)
会場: アートフロントギャラリー

最終更新 2011年 11月 15日
 

編集部ノート    執筆:田中みずき


《A German Boy》(部分)
ウッドキューブ|2011|1000 × 803 × 27 mm
Copyright© Takeshi Abe
画像提供:アートフロントギャラリー

   旧来の一点透視図法を否定し、様々な方向から観たものを一枚の平面に収めたのが「キュビズム」。しかし、もしキュビズムの絵を様々な方向から観てしまったら、そのコンセプトが揺らぎはしないだろうか。
    そんな問いを持ちたくなるのが、今回の阿部の展覧会。色づけされた小さなキューブが白い壁に並ぶ様を観ていると、ぼやけた輪郭で人物の横顔等が浮かんでくる。網点といわれる極小のドットを組み合わせて生み出される印刷の仕組みと一緒だ。何処から観てもおぼろげな姿しか現れず、しかし真横や斜めからでは、やはり正面から観たものとは違うようにも観えてもきたりして…。
   立体と平面との関係を再考させてくれる作品、現場で様々な方向から眺めて確かめたくなる展示である。


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