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川井昭夫:表現が見えないように
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 3月 24日

copy right(c) Akio KAWAI / Courtesy of kunst-bau|tokyo

草葉の陰から・・・と言うように、草はあの世とこの世のあわいにあってこれを繋ぐのです。 草葉の茂みの奥には、闇が潜んでいるように思われます。そして、その闇は何故か優しく, 懐かしく私を魅了して止まないのです。アジアの東の果てで、永々と育まれて来た人と自然の濃密な関係に、モダニズムを経た私の意識が今、新たに向き合うことを求めているようです。と、このように書くと伝統的な具象絵画へ回帰してしまったようですが、そうではない。 70 年代後半に私なりの絵画の解体の末に行き着いた「麻布ペインティング」は、対象を再現するものでも、物そのものをリテラルに提示するものでもなく、絵画の物理的な支持体である麻布に限りなく近づけた色彩で、布を織るように規則的な線で覆い尽くすものでした。そして今、私の「フォトペインティング」はイメージ( 写真) そのものを油彩で塗絵すること( 嘗ての再現的に描写する絵画ではなく) により、草のイメージを油絵の具の表面に置き換えるものです。つまり、ジャッドの言う「絵画の秩序と構造からの開放」をデジタルカメラとパソコンソフトを駆使して実現しているのです。私の絵画は描くプロセスに於いて、何も付け足すことなく、何も表わさず、ただ寡黙に絵画の表面を微細に埋め尽くすことで達成されるのです。絵画に於いて表現の中身とは、画家自身の手による筆触そのものであると言えます。そしてこの痕跡こそが、ものの表面にかおりが浸透するように、物質の表面を絵画たらしめるのです。 このことは、モダニズム絵画が捨て去ったイメージ( 映像とそれに付随するもの) を再び取り戻しながら、引き継ぐことを意味していると私は考えています。草のイメージをペーストした私の絵画は、その草葉の陰の隙間を通じて見る人の視線を絵画の異次元へと導いてくれることをも目論んでいるのです。

※全文提供: クンストバウ|東京

最終更新 2009年 4月 04日
 

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