| EN |

吉田暁子:視 / 夜(しや) _ 意義黎明
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 3月 13日

《華の気》2008年|150 x 150 cm|岩料、膠、箔、墨、ビニルメディウム、スクラッチドラバー、明治期の屏風 © GyokoYoshida copyright(c) Gyoko YOSHIDA / Courtesy of TOKYO GALLERY + BTAP

吉田暁子は‘日本の絵画’をその概念規定から取り組む作家です。本展では、これまで制作された紗・屏風の作品に加え、吉田の新たな試みである家具を使用した新作を発表いたします。展示スペースを一つの部屋のように仕立て上げ、空間総体を使った絵画のインスタレーションを展開いたします。一見するとホワイトキューブに並べられるインスタレーションのような作品ですが、そこには古い部屋のような影が投げかけられています。しかし、いつか見たような気がするその部屋の面影は、やはり私たちが見慣れたものとはどこか異なっていることに気づかされます。本展のインスタレーションは単なる表現手段ではありません。それはむしろ、私たち日本人が常日頃、どのような表現を身につけてきたのか、その「しつらい」の仕組みを自然に解き明かす装置となるのです。 吉田の作品は岩絵の具や膠などの伝統的な画材や、私たちが日ごろ目にするありふれたものを素材として使用します。作品の形式は絵画だけにとどまりません。古来の庭師のように空間を構築するインスタレーション、描くことそのものを問いかける能の舞のようなパフォーマンスなど、吉田は自らの制作を通して「絵画」の定義領域を大胆に探ってきました。東京画廊+BTAPでの3度目の個展となる本展では、様々な質感や色彩に溢れた、総合的な芸術表現を追求します。 昨年50周年を迎えた東京画廊+BTAPは、斉藤義重、もの派など、東アジアの現代美術をその始まりから見つめてきました。吉田暁子の個性は、日本の伝統の隠れた水脈を掘り当て、新鮮な流れを今日のアートシーンに引き込む点で、その歴史の中でも際立ったものです。彼女の思考と創造の最先端が空間となって具体的に明かされる本展に、是非お越しください。

【作品紹介】
吉田暁子は「日本の絵画」の探求を一貫したテーマとして制作を続けています。吉田が10年来取り組んできた「中心点を持たず、各部分が独立しつつ空間総体を現出させる」という構成法は、琳派・狩野派にその優れた例を認めることができる、作家独自に探求・着目してきた日本古来の構成法です。吉田の作品は、西洋の強い影響下に発展した日本の現代美術を問い直し、その独自の可能性を探るものです。 吉田は、パフォーマンスやインスタレーションなどさまざまな形式を用いて、日本美術の過去と現在が交錯する視覚的イリュージョンを、“絵画”として生み出します。 漆や紗、和紙、顔料などの古典的な素材だけではなく、鏡や集光塩ビ素材などを使い、根幹的な、みること、かんじること、かんがえることの愉悦を顕現させます。 昨今の日本のアートシーンは活況を呈していますが、日本の絵画表現の独自性はどこにあるかという深い探究は、まだ手付かずのままです。マンガやアニメなどに特徴的に見られる平面構成に日本の独自性を見るのは、既に一般化した立場と言えるでしょう。しかしそのような様相に単純化されることで、材料や空間設定など、日本美術の伝統が持つ幅広い表現は、置き去りにされているのが現状です。 吉田暁子は日本の文化の複雑な構造をその素材にまで分け入って検討し、自らの表現を切り開くという困難な営みを粘り強く行っています。西洋と東洋が交錯する現代日本の難解な歴史的文脈を解読し、華やかな視覚表現にまで昇華させる力量を持ったアーティストです。

【プロフィール】
吉田暁子は1970年、名古屋生まれ。1996年、多摩美術大学大学院修了。大学在学中、日本画の画壇、創画会(1994年)に入選を果たし、この年、唯一学生での入選画家として注目を浴びます。いくつかの賞入選を果たした後、卒業後は現代美術にその発表の場を移し、2001年、ロックフェラー財団のACC奨学金で渡米し、続いて2005年には文化庁海外芸術家派遣による奨学金を授与します。以降ニューヨークと日本を行き来し、作品制作・発表を行いつつ、2005年にはインドトリエンナーレに日本代表として出品、2006年に北京で中国人作家・日本人作家のグループ展のキュレーションを手がけるなど、国内外で作家活動を続けています。 2001、02年、毎日新聞年間美術批評「美術と批評 - 私の選ぶ5つの展覧会 年間展示批評」にて、国内のすべての展示のなかから、吉田の個展(ギャラリークラヌキ:評者・峯村敏明)、そして吉田が出品した「今ここにある風景展_若手4人+コレクション+あなた」展(静岡県立美術館:評者・本江邦夫)が、それぞれ最高の評価を得ています。2004年には月刊ギャラリーに掲載された「21世紀に活躍する若手100人」に選ばれました(選者・建畠晢)。 また劇作家・野田秀樹が主催する劇団NODA MAPの舞台「TABOO」(1995年)・「走れメルス」(2004年)のパンフレット・ポスターなどの宣伝美術を担当するなど、吉田の活動領域は多岐に渡ります。

作家ホームページ: http://www.gyokoyoshida.com

※全文提供: 東京画廊+BTAP

最終更新 2009年 3月 25日
 

関連情報


| EN |