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サイレント・エコー コレクション展 II
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 9月 17日

山崎つる子 《サファイア》2004年 | ビー玉、釘、ブリキ、木、スチール | 105×172×79cm | 作家蔵 | Copyright© YAMAZAKI Tsuruko | 画像提供:金沢21世紀美術館

「どうしたというのだろう?音楽はためらうように、うねりながらはじまった。散策か行進のように。夜の世界を歩む神のように。ミックの外の世界はにわかに凍りつき、音楽のあのすべり出しの部分だけが、胸の中で赤く燃えていた。そのあとの音楽は耳にもはいらず、彼女はただ拳を固く握りしめ、凍りついたようにすわったまま待ち受けていた。しばらくすると、音楽はふたたびはげしく、声高にうたいだした。もはや神とは何の関係もなかった。これこそミックであり、昼日中を歩むミック、夜をただひとり歩くミック・ ケリーだった。・・・この音楽は彼女であり、ほんとうの、ありのままのミック自身であった。」(1)

カーソン・マッカラーズの小説「心は孤独な狩人」で語られる音楽観、人と音楽の世界と深く共鳴し合うルクセンブルグ出身のツェ・スーメイの《エコー》《ヤドリギ楽譜》を軸として、「サイレント・エコー コレクション展II 」では、当館コレクションの潜在する未だ語られたことのない世界の展観を試みる。

《エコー》《ヤドリギ楽譜》で提示される、身体、音、技術、自己をとりまくあらゆる事象との関わりや融合から生み出される世界を根底に据え、こうした音楽観を出発点に、かたちが造形芸術である所以も同様に自 己、技術、対象の十全な融合によってこそ作り出される造形芸術の世界を紹介する。この試みは、「工芸的造形」という概念をめぐって近年展開されている視座を起点としている。「素材/自然/環境/他者に寄り添い、自らを物事の生成のプロセスに投げ入れ、親密な交流を図ることによって、固有の技術を見いだしつつ新しいかたちを生み出す造形及び造形行為」(2) という美術表現を評価する新しい眼差しに依り、ツェ・スーメイ、アニッシュ・カプーア、粟津潔、山崎つる子、久世建二、角永和夫による、自己、他者、素材といったあらゆるものとの対話の営みを検証する。 彼らの作品にみる静かな対話や共鳴の様相は、人がこの世界とどのように関わり、生きるかという人間の存在性について物語り、どんなに困難な時代においても新たな可能性、希望を我々に示し続けるだろう。

-村田大輔(金沢21世紀美術館 学芸員)

(1) カーソン・マッカラーズ、河野一郎訳『心は孤独な狩人』新潮社、1972年、pp147-148
(2) 不動美里「生成のプロセスの只中にあるもの」『オルタナティブ・パラダイス〜もうひとつの楽園』金沢21世紀美術館、2005年、pp.8-11。近年の工芸的造形論の展開については、拙稿「ロン・ミュエック- 対話というかたち」(『ロン・ミュ エック』フォイル、2008年)、「反重力構造 ‒「歴史の歴史」というかたち」(『杉本博司 ‒ 歴史の歴史』新素材研究所、 2008年)、「“ニットカフェ・イン・マイルーム”というかたち」(『広瀬光治と西山美なコの“ニットカフェ・イン・マイルーム”』金沢21世紀美術館、2009年)、「What would Hiroshi Sugimoto Do? What would Museums do? Deified Artist and Museum Hiroshi Sugimoto’s“History of History”」(AAS-ISS Joint Conference,2011年、 https://www.asian-studies.org/Conference/index.htm)を参照されたい。

ギャラリー・トーク
担当:村田(キュレーター)、吉備(エデュケーター)
日時:2011年10月14日(金)[村田]、11月3日(木)[村田、吉備]、12月10日(土)[村田]
2012年2月11日(土)[村田]、3月10日(土)[村田、吉備]
いずれも14:00開始。但し10月14日のみ18:30開始
集合場所:金沢21世紀美術館 レクチャーホール前
料金:無料(ただし、当日の本展観覧券が必要)

【作家プロフィール】
粟津潔 AWAZU Kiyoshi

1929年東京都(日本)生まれ、2009年神奈川県川崎市(日本)にて逝去。
絵画・デザインを独学で学ぶ。ポスター作品《海を返せ》で1955年日本宣伝美術会展・日宣美賞受賞。戦後日本のグラフィック・デザインを牽引し、礎を築いた。その表現活動はジャンルを横断して多彩。1960 年、建築運動「メタボリズム」に参加。1977年、サンパウロ・ビエンナーレに《グラフィズム三部作》を出品。1980年代以降は、象形文字やアメリカ先住民の文字調査を実施する等、鋭い批評眼を現代文明に向け、「21世紀を生きる神童」として《H2Oアースマン》と名づけたキャラクターを創出。生きとし生けるものの総体のなかで人間の存在を問い続けた。近年その表現活動の先見性とトータリティを再評価する機運が高まっている。(FM)

角永和夫 KADONAGA Kazuo
1946年石川県鶴来町(日本)生まれ、石川県金沢市(日本)在住。
当初、画家を志していた角永は、コンセプチュアル・アートに影響を受け、木を素材とした作品を制作するようになる。皮をむいた杉の丸太を横にスライスした作品や、同じく丸太を小さなブロックに裁断した後、再び丸太の姿に再構成するといった制作スタイルを1980 年代に確立。ガラスや紙、竹など、他の素材を用いる場合も人為的な加工を極力排除し、素材が元々持ち合わせている性質や作品の生成のプロセスを可視化するような制作態度を貫いている。(YE)

アニッシュ・カプーア Anish KAPOOR
1954年ムンバイ(インド)生まれ、ロンドン(英国)在住。
幼少期をインドで過ごした後、17才で渡英し、1970年代より作品制作を始める。初期には、立体の表面を顔料で覆う作品を多く制作し、後に、岩盤のような床に切り込みや穴をあけ、内部を顔料で覆うことにより洞窟の入口や大地の亀裂を思わせる造形物を作るようになる。また、ステンレス・スチール、漆といった素材、蒸気そのものを作品に取り入れるなど、多様な表現を展開してきた。これらの作品は、常に我々の視覚や日常的な認識の再考を促す。次元を越えて生み出される未知なる世界像には、人間存在、生命へのカプーア独自の眼差しが写し出されている。(MD)

久世建二 KUZE Kenji
1945年福井県坂井郡芦原町(日本)生まれ、石川県金沢市(日本)在住。
金沢美術工芸大学産業美術学科工業デザイン専攻卒業。窯元に育ち、高校時代よりろくろに親しむ。プロダクト・デザインとアート・ワークとしての陶表現総体について明確な理念をもち、作家として素材である土と自己との関係のなかに事象の本質をあらわにする造形を追究する。第二次世界大戦後の現代陶芸の国際的潮流を示す1971年「現代の陶芸アメリカ・カナダ・メキシコと日本」(東京国立近代美術館)に若手の旗手として出品されるなど、1960年代より時代に鋭敏に反応しながら、純粋造形としての独自の陶表現の世界を確立してきた。主要なシリーズとし て「パッケージ」「痕跡」「落下」を展開する。(FM)

ツェ・スーメイ TSE Su-Mei
1973年ルクセンブルグ生まれ、ルクセンブルグ、パリ(フランス)在住。
幼い頃より音楽とともに生きてきたツェ・スーメイは、音楽演奏の核である、身体、音、技術、自己をとりまくあらゆる事象との関わりや融合にみる世界を起点に、多様な作品群を生み出してきている。《エコー》、《平均律クラヴィーア曲集》、《ヤドリギ楽譜》といった作品において音楽的要素が直接的に表される一方で、彫刻、インスタレーションといった手法の作品においても、素材、自己、技術、対象の融合から生み出される世界、かたちに焦点が当てられている。このような世界像を根底に据えながら、近年では野外での公共彫刻も手がけ、多様な制作活動を展開してきている。(MD)

山崎つる子 YAMAZAKI Tsuruko
1925 年兵庫県芦屋市(日本)生まれ、同地在住。
山崎つる子は1954年に結成された「具体美術協会」の草創期のメンバーであった。その後もAU(アーティスト・ユニオン)、展覧会等、様々な活動において、ブリキを用いた立体作品、パフォーマンス、絵画作品といった多様な作品の制作を行ってきている。数十年に及ぶ制作活動をとおして、山崎は一貫して実像と虚像、視覚・認知・再現をテーマに制作を続け、個と世界との関わりについての独自の視点を表す。(MD)

FM: FUDO Misato・MD: MURATA Daisuke・YE: YOSHIOKA Emiko

全文提供: 金沢21世紀美術館


会期: 2011年9月17日(土)~2012年4月8日(日)
会場: 金沢21世紀美術館

最終更新 2011年 9月 17日
 

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