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Feel the rhythm, Color me bright, Everyday is a carnival
レビュー
執筆: 田中 麻帆   
公開日: 2011年 8月 30日

[fig.1] 展示風景 Photo by Ken KATO
画像提供:YUKA TSURUNO

[fig.2] 八木貴史 《toreador》 2011年
55 x 55 x 55 cm
色鉛筆、透明樹脂
Photo by Ken KATO
画像提供:YUKA TSURUNO

[fig.3] 安田悠 《Landmark》 2011年
41 x 27.3 cm
Oil on canvas
画像提供:YUKA TSURUNO

[fig.4] 笠井麻衣子 《go further away》 2011年
145.5 x 112 cm
Oil on canvas
画像提供:YUKA TSURUNO

[fig.5] assume vivid astro focus 《Butch Queen》
Courtesy of hiromiyoshii
画像提供:hiromiyoshii

    「カーニバル」という言葉を聞いてまず浮かぶイメージは、本展のタイトルにもある通り、極彩色に輝くお祭りの飾り付けや躍動的に楽しむ人々の熱気といったものだろう。本展には岡野訓之の平面作品や安田悠、笠井麻衣子らの油彩画、八木貴史の彫刻作品と、4名の若手作家たちの多彩な表現が並ぶ。海外作家集団Assume Vivid Astro Focus (AVAF)によるHi Fi カラー(広色域)のプリント作品も彩りをそえている[fig.1]。ここに展示されている作品たちは、ポップな色合いできらきらと楽しい雰囲気を醸し出す。現在、閉塞感に苛まれがちな状況にある私達をなぐさめ、励ましてくれているのだろうか。

     岡野訓之の蛍光色の絵画群にはトラやパンダなどの動物が描かれており、ウォーホルがシルクスクリーンで制作した「絶滅危惧種」シリーズを思わせる。ウォーホルはこの環境保護のメッセージをどぎつく魅惑的な色彩の対比で表現したが、岡野の描く動物達も単に愛でるべき存在というより、アグレッシブな何かを感じさせる。マスキングテープとスプレーを巧みに用いた作品がオプ・アート的なうねりを生み出しているため、観者は視点を画面上に定めることができず、描かれている動物の輪郭をはっきりとは見分けられない。このうねりと眩しい蛍光色のコントラストが、動物達のいきいきとした生命力と共に、その種の存続の危うさ、ひいては生命というもののはかなさを想起させる。※註1

     八木貴史の作品において色彩は、色鉛筆で表されている。とはいえ、色鉛筆によって塗られるのではなく、その芯自体を使って示されている。色鉛筆を束にして樹脂で固め、その素材を彫刻的に削り出すことで作られたシャンデリアは、色とりどりの芯が線や点状に垣間見える[fig.2]。油彩の筆触分割や点描で再現された自然光をポップなネオンサインに置き換えたかのように、まじりけのない一色一色が響き合ってきらきらと輝く。ただし、シャンデリアを形作っているのは軽やかなガラスではなく朴訥とした鉛筆の木であるため、発光源のように見えるカラフルな色彩が、実は鉛筆の芯という「モノ」でもあることに気付かされる。絵画作品の光の表現と類似する効果を示しつつ、絵画においては光の再現によって失われやすくなる形態を、立体という方法で保持しているかにも思える。

     一方、安田悠は、固有色と補色の対比を避けるかのように溶け合う、絶妙な色合いの油彩画を描いている。絵の具を滲み合わせることで、所々鮮やかな、しかし全体として灰味に抑えた色彩の、浮遊感ある幻想的空間が生まれる。自然の風景や人物、文様がこの色の渦の中に立ち現れては消えていく。モネが1920年代に描いた睡蓮の湖面の反映を切り取って発展させたかのように、不透明と反映、透過が綯い交ぜになった不思議な奥行きである。バラの花をモチーフとした《land mark》[fig.3]にバラの赤色が見られないことが象徴するように、安田の作品は、日常の向こう側にある独自の世界を構築している。

     笠井麻衣子が描いた少女も、一見すると非日常の世界に身を置いているかに見える[fig.4]。背景にまっ白な余白を残し、大胆な筆致で示された少女は、空中ブランコと思しき遊具やメリーゴーランドの馬に乗って長い髪をそよがせ、軽やかに疾走している。少女の表情がたなびく髪に隠れて見えない一方、その足は妙に露出されていて、彼女が開放的なスピードを楽しんでいるようにも、その加速に怯えているようにも思われる。遊園地は日常から逃避できる場所でもあるが、虚ろな笑顔を浮かべるメリーゴーランドの馬は、少女を非日常へと連れ去っていく不穏さを湛えている。遠くへ走り去ろうとするかに見えて、同じ場所で回転し続ける遊具は、むしろ日常と非日常の狭間を表現しているようだ。

     唯一の海外作家であるゲストのAssume Vivid Astro Focus (AVAF)は、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ出身のEli Sudbrack率いるアーティスト集団である。作品の色彩はごちゃまぜになっており、多種多様なモチーフがコラージュ状に散りばめられている[fig.5]。一人の作家のみで構成していないためか、雑多なイメージがひしめく画面には、モチーフの共通性や形態のまとまりなどのいかなる統一性も感じられない。画面全体がお祭りの賑わいを放つこの作品は、めいめいの人が楽しみながら様々な交流関係を紡ぐように、それぞれのモチーフが独立しつつ有機的につながり合う、本来的な意味での共生が表現されているのかもしれない。

     本展に並んだ作品たちの「カーニバル」は、単なるきらびやかな一過性の気晴らしにはならない。「祝祭」の高揚は、非日常や生命の躍動、開放感といったものが日常や死、不安と表裏一体であるからこそ生みだされるのだろう。展覧会タイトルの最後は「Everyday is a carnival 」と締めくくられているが、最近、日常でないようなニュースも日常化してしまい、感覚の麻痺した毎日を送っていた私は、この「カーニバル」にふれ、改めて「日常」というもののありがたみに思い至らされた。



脚注

※註1
岡野がマスキングテープで動物を描いた絵画群の中には、蛍光色を用いていないものもある。また、同様にマスキングテープとスプレーを用いつつも、動物ではなく女性像にまつわるエロティシズムを主題としたと思われる絵画・立体作品も展示されている。



参照展覧会

「Feel the rhythm, Color me bright, Everyday is a carnival」
会場: YUKA TSURUNO
期間: 2011年7月2日(土)-2011年8月6日(土)

最終更新 2011年 9月 19日
 

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