黄金町バザール2011『まちをつくるこえ』 |
編集部ノート |
執筆: 田中 麻帆 |
公開日: 2011年 8月 17日 |
「アートによるまちの再生」を目標に掲げ、2008年から毎年開催されている黄金町バザール。今回は横浜トリエンナーレ2011の特別連携プログラムとして会期を同じくし、「まちをつくるこえ」をテーマに国内外約20組の作家を迎える。会期は8月31日までの前半と、9月2日以降の後半に分かれており、基本的に前半は制作風景の公開、後半には完成作の展示をする。(一部作家は8月20日以降より公開制作。) かわいらしくも奇妙なキャラクターを通して作家本人と人々が交流するパブリックアートで知られるさとうりさは今回、娼婦にまつわるイメージをテーマとした《メダムK》を制作していた。人間の等身大を超える巨大なキャラクターは、ぬいぐるみのように表面の布をミシンで作ってから綿を詰めるのではなく、詰め物に全身で圧をかけながら布を全て手縫いし成形している。作品を見る人が自由に触れ、足を載せるなどしても大丈夫な強度にしたいためだという。さとうによれば、小説や映画に登場する娼婦は頭がよくクールで、いつでも主人公のよき理解者である。そんな観念を、女性に対する敬称の複数形medamesでタイトルに込めている。 通常から黄金町で活動している作家達も、バザールの会期中様々な展示を行う。1の1スタジオにて新作も制作中のさかもとゆりの展示(八番館にて8月21日まで。その後はハツネテラスの展示)は、廃屋の屋根裏を使ったインスタレーション。普通のモグラたたきでは叩かれたモグラが地面に隠れるが、ここでは二階の床から陶器のモグラが顔をのぞかせ(2009年制作の《モグラたたき》)、しかもその頭は所々割られてしまっている。見上げると梁には同じく陶器のねずみが隠れており、廃屋の雰囲気を活かしつつ不思議な空間に変容している。 バザールの視野は黄金町のみで完結するのではなく、より広いところにも向けられている。遠藤一郎は、会期中「未来へ号バス」で東北と横浜を行き来し、人や物の動きを促して心の交差を生むプロジェクトを行うという。竜宮美術旅館では写真と文章、壁画による報告が展示されていた。エピソードの一つには、岩手県大船渡市にて、津波が押し寄せて看板もさらわれてしまった美容室の店主に頼まれ、壁面全体を花のモチーフでペイントしたという話があった。明るくなるよう花を描いてくれと依頼し、美容室の一階天井あたりまで来た津波の跡を残しておくようにとも言った店主の複雑な気持ちは計り知ることができない。しかし交流を通して被災地を元気づけたいという作家の願いが感じられると同時に、私達ひとりひとりがどのように関わって行くべきかということを考えさせられる。。 黄金町バザールはチケットではなくパスポートを購入する形式で(またはヨコハマトリエンナーレ2011特別連携セット券の黄金町バザール部分とパスポートを引き換え)、このパスポートがあれば会期中自由に出入りすることができる(8・9月の毎週木曜日および10/13・10/27は休場)。スタンプラリー帳にもなっており、各会場のスタンプを集めて歩くのも楽しい。夜にしか見られない映像作品もあるほか、時折開かれるナイトバザールでは地元の食が味わえるそうだ。時間帯や日にちを変えて何度も訪れると、また新たな魅力に出会えそうである。 |
最終更新 2011年 8月 16日 |