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内在の風景展
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 8月 11日

大西伸明 《LOVERS LOVERS #1》2011年 | photo by Hideaki Toyoura | 画像提供:小山市立車屋美術館 | Copyright © Nobuaki Onishi

元田久治《Foresight-Stadium (Los Angeles Angels of Anaheim)》2011年 | キャンバスに油彩 | 画像提供:小山市立車屋美術館 | Copyright © Hisaharu Motoda

“内在の風景”は、感覚的で本能的な風景、いわば見えないヴィジョンです。日本とオーストラリアから集まった8人の作家が表現する“内在の風景”は、国籍、人種、性別などあらゆる壁を越えて誰もが共有し得るものであり、見る者の記憶や想像力を刺激し、これから起こるであろう、また、これまでに起こったであろう予感も呼び起こすものとなることでしょう。本展は、昨年、WEST SPACE(メルボルン)での開催に続くシリーズ2度目の展覧会となります。メルボルンでの展覧会後、各作家がそれぞれの観点から栃木や東京を中心にリサーチを行い、その経験を経て作られた新作を中心に構成される展覧会です。

日本とオーストラリアの2国間を行き来する中で立ち現れるそれぞれの“内在の風景”をシュガードローイング版画、写真、立体、インスタレーション、生け花と多様なジャンルで展開します。今回は、展示室以外に小川家住宅をはじめ、肥料蔵など全てのスペースを使った展覧会となります。外見は100年前の米蔵であるが室内は近代的な展示スペースである展示室や伝統的な日本家屋でありながら文明開化の影響を強く受けている洋間など異なる性質を持った室内と小さな庭園を含めた屋外を行き来することで、あふれ出てくる無数の風景とともに、風景が内包するものに思いを巡らす時間となれば幸いです。どうぞお楽しみください。

ジェレミー・バッカー|Jeremy Bakker
親指の指紋をビーワックスで写しとった半透明な花びらのようなものを無数に作り、それらをパーツとして大きな作品をつくります。このように、バッカ-は小さなオブジェや同じ単語など小さなものの集積であったり繰り返しによって、インスタレーションを作り上げます。
それらは、ミクロとマクロの視線あるいは表皮一体の関係を顕在化させます。
6月に日本でのリサーチを行い、伝統文化や自然などバッカーの興味と結びついた新たな作品を作り上げます。9月には、市内2 箇所でホームスティを行い、その時に関わる人とパーツを共同制作する予定にしています。ウィットに富んだバッカーのイン スタレーションをお楽しみ下さい。

1979 キャンベラ生まれ、メルボルン在住
2003 ニューサウスウェールズ大学哲学・英文学学位取得
2009 王立メルボルン工科大学ドローイング修士課程修了

主な個展/グループ展
2005 グループ展「Imaging the Land」CoFA Exhibition and Performance Space(シドニー)
2008 個展「Alone Together」Bus Gallery(メルボルン)
2009 個展「Resonate」West Space(メルボルン)
2010 個展「i as another」Light Projects(メルボルン)

ヘイミッシュ・カー|Hamish Carr
ペンやマーカーを用いた「凝り性で、言うならば、神経過敏なレンダリング」のドローイングは、休むことを許されない現代社会に生きる私たちの不安定で危うい状況を示唆します。カーのドローイングは、顕微鏡で観察する細胞を彷彿させる細かいタッチの集合体であり、それは静止画でありながら絶え間ない動きを感じさせます。
カーは、このような現代の感覚を風景画に取り込むことで、伝統的な風景画の再解釈を試みています。初めての来日となるカーは、7月から8月にかけて遊工房アートスペースでレジデンスを行います。どうぞ、虫眼鏡で覗くように近くから、そして、細かなタッチがつくり出す大きな風景を遠くから、近づいたり離れたりしながらご覧下さい。

1975 アメリカ合衆国ロンチェスター生まれ、メルボルン在住
1997 ニューキャッスル大学ヴィジュアルアーツ学位取得
2009 メルボルン大学ヴィクトリアンカレッジアブアーツ ファインアーツ修士課程修了

-主な個展/グループ展-
2007 個展「Missing」The Narrows(メルボルン)
グループ展「Then AO」Peloton Gallery(シドニー)
2009 個展「Reoccurring sentiments」Bus Projects(メルボルン)
2010 グループ展「Monochromes(Multiple/Offset)」The Narrows(メルボルン)

片桐功敦|Atsunobu Katagiri
片桐はみささぎ流の家元として華道を極める一方で、主水書房を運営し展覧会の企画、本の出版などを行い、また写真家の津田直や陶芸家の田村一など様々な分野の人とコラボレーションし多種のプロジェクトを行っています。
花を生けるという行為は人間ならではの行為です。生け花を追求した先には、「人間とは何か/生命体とは何か」という大きな問いがあります。
本展には、オーストラリア滞在中に出くわした壮大な野焼きの体験から作られた映像作品と生け花のインスタレーションを展示します。美しく燃えさかりながら灰となる花びらと生けられる植物との間で、この大きな問いに頭を巡らせてください。

1973 大阪府堺市生まれ、堺市在住
1998 花道みささぎ流3代目家元を襲名
2005 主水書房を設立

-主な個展/グループ展-
2007 個展「五月の月」難波ビル(大阪)
2008 個展「凍土の星」pantaloon(大阪)
2009 グループ展「水都大阪2009」(大阪)
2010 個展「テーブルの上の荒野へ」寺山修司記念館(青森)

元田久治|Hisaharu Motoda
元田は、リトグラフやペインティングで、映像や画像を通して、広く知れ渡っている名所をモチーフに取り上げます。しかし、最新技術を駆使した壮大な人工物や手厚く保護されている歴史ある建物は、人間の華々しい文明の象徴として、私たちがいつも目にする光景とはかけ離れた姿となって描かれています。そびえる建造物はひどく破壊され、朽ち果てています。元田の作品は、私たちの文明の持つ影の部分としての脆さに強い警告を鳴らすだけではなく、がれきの下から顔を出し始めた新芽に現れているように、自然との循環可能な共存や再生する生命力をも示唆しています。
本展では、同じ図像をリトグラフとペインティングで展開します。それぞれの技法による違いを是非じっくりと見比べてください。

1973 熊本県生まれ、千葉県在住
1999 九州産業大学芸術学部美術学科絵画専攻卒業
2001 東京芸術大学大学院研究科版画専攻修了

-主な個展/グループ展-
2007 個展「元田久治展」熊本市現代美術館GalleryⅢ(熊本)
2008 グループ展「VOCA 2008」上野の森美術館(東京)
2009 グループ展「メリー・ゴー・ランド -煌めきと黄昏-」熊本市現代美術館(熊本)

大西伸明|Nobuaki Onishi
大西は、物を型取りし樹脂成形したものに、キズ1つをも逃さない精巧な色付けをした作品を作ります。現在は、デジタル技術が発達し、複製されたものに溢れる環境です。そのような中、何度でも同じように刷れる版と同じ形を作れる型を使い、唯一のものを作り出します。版から始め、型へと発展させた西の関心は、物の表面の持つ両義性に集約されます。大西の作品は、私たちに、「見る」という行為ついて問いかけます。
今秋に個展グループ展と続く、注目の集まる大西の作品を、展示スペースと小川家住宅、2箇所での異なるアプローチをお楽しみ下さ い。

1972 岡山県生まれ、滋賀在住
1998 京都市立芸術大学大学院版画専攻修了

-主な個展/グループ展-
2008 個展「LOVERS LOVERS」入善町 下山芸術の森 発電所美術館(富山)
グループ展「共鳴する美術2008」倉敷市立美術館(岡山)
2009 グループ展「自宅から美術館へ」和歌山県立近代美術館(和歌山)
2010 個展「新しい過去」MA2 Gallery(東京)

キロン・ロビンソン|Kiron Robinson
ロビンソンは、物事を切り抜き出すという写真の持つ性質を核に、写真やドローイング、彫刻と様々なメディアを使った制作を行っています。メディアも多岐に渡りますが、活動においても、ギャラリースペースの運営、キュレーションなど幅広さがあります。
ロビンソンは、地平線や線路など「ものの端」を好んで撮影します。「ものの端」は、あるものにとっては始まりであり、あるものにとっては終わりであるように、そこには、複数の方向へのベクトルが内包されています。
オーストラリアにおいて高い評価を受けるロビンソンの日本での初の展示となります。7月に行う栃木や東京でのリサーチを元に作られる新作を、ぜひこの貴重な機会にご覧下さい。

1973 バングラディッシュ生まれ、メルボルン在住
2004 ヴィクトリアンカレッジオブジアーツ honors修了
2010-モナッシュ大学ファインアーツ修士課程

-主な個展/グループ展-
2008 個展「Manila Bites」Green Papaya Arts Project(フィリピン)
グループ展「And the difference is」NUS Museum (シンガポール)
2009 個展「On Photography and Death」Conical(メルボルン)
2010 個展「If I Take the time will I get it back」Sarah Scout(メルボルン)

佐々木愛|Ai Sasaki
佐々木は、ロイヤルアイシング(砂糖、卵白、レモン汁)の手法を用いて、壁に樹木や植物をモチーフに壮大なスケールで風景を描き出します。砂糖は、人間のエネルギーでもあり脳を刺激する作用もあり、また食糧などを保存する作用があります。佐々木の作品は、展示期間が終わると、消して無くなる特質があります。物体としては無くなるけれども、観る人の記憶に留めたいという意識が砂糖を用いる所以です。
本展では、初の試みとなるガラス展示ケースの中の壁三面に、壁紙のようなドローイングを展開します。一見すると何もない光の空間に、浮かび上がる白いドローイングをご堪能ください。

1976 大阪府生まれ、大阪府在住
2001 金沢美術工芸大学美術学部デザイン科視覚デザイン専攻卒業
2002 彩都IMI大学院スクール現代美術専攻修了

-主な個展/グループ展-
2005 グループ展「かわりゆく世界で:transformation/metamorphosis」国際芸術センター(青森)
2008 個展「Invisible scape」Toi O Poneke Art Centre(ニュージランド)
グループ展「weaving」Gallery Zandari(韓国)
2009 グループ展「もうひとつの森へ」メルシャン軽井沢美術館(長野)

進藤詩子|Utako Shindo
オーストラリアと日本で開催される本展は、参加作家の1人である進藤の作品としてのコンセプトから始まっています。進藤の関心は一貫して、目には見えないけれど確かにそこにあるもの、にあります。初期には、人種や民族、文化の違いによる壁など人間に向けられていましたが、近年、その対象は風景へと移行しています。風景を、歴史や人の営み、時間など全てを網羅するモノであり、また、それらを超越した存在として、進藤は捉えているのでしょう。
そのように風景と向き合うと、「今、私たちが見ている場所の風景は、どのような変遷を経て、この状況を作り出しているのか、これからどのような風景が作られていくのか」、終わることのない問いと答えが観る者それぞれの心に浮かぶこととなるでしょう。
風景が一変するということを体験したばかりの今このときは、いつも以上に「風景」を意識している時期かもしれません。進藤の作品を通して、人の営みや自然との関わり、無名の数多な個人史的な時間の流れなどに思いを巡らす時間になれば幸いです。

1980 東京都生まれ、東京都在住
2008 メルボルン大学ヴィクトリアンカレッジオブアーツ学部
ファインアーツ修士課程修了

-主な個展/グループ展-
2008 個展「Feet through」Conical(メルボルン)
2009 グループ展「it drops, it reflects, Avoca Eco Living Festival」Avoca Projects(アヴォカ)
個展「Miru Millieu - See Site」Sutton Gallery Project Space(メルボルン)
2010 個展「つむるみつめる Behold」遊工房アートスペース(東京)

全文提供: 小山市立車屋美術館


会期: 2011年9月17日(土)-2011年11月27日(日)
会場: 小山市立車屋美術館

最終更新 2011年 9月 17日
 

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