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椛田ちひろ:目をあけたまま閉じる
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 6月 11日

《15のメトリック》2011年 | キャンバスに油彩| 各720×500mm | 画像提供:アートフロントギャラリー | Copyright© Chihiro Kabata

椛田が姉妹で展覧会をアートフロントで開催して、1年が経過した。当時はまだアートフロントグラフィックスという名称でスペースを運営していたから、正確にはギャラリーとしては初の個展となる。私達のスペースも変わったが、こうして1年経過して振り返ってみると以前と比べると椛田の作品には圧倒的な深みが出ている。

東京都現代美術館のMOTアニュアルへの参加が記憶に新しいが、今回のアートフロントギャラリーでの展覧会ではこれまでの作風からさらに一歩進んだ発想で作品の準備をしてきている。 ボールペンを使い、何か見えないものを模索するように素材を引っかいて製作する手法や、油彩を使って黒く重い面を作り、指や筆でそれを傷つけるようにして身体の痕跡を残す作風は一貫している。以前と変わってきたのは必ずしも平面を主軸に置いた作家でなくなってきたことである。 東京都現代美術館では大きなインスタレーションを展開しており、作品は明らかに作品の外にある空間や人に関わり始めている。これまでは作家の内面の声や行為の形跡を通して身体が感じ取られる作品であったのに対して他者に対して次第に開かれてきているようだ。それでも他者を許容するのでなく、これまでは作家だけであったのが見る側をも深い霧のなかに誘い込んでいるようにも思われる。そこでは声だけが聞こえ、見えない誰かを探して私達は深い霧の中を歩かなければならない。私達が目を見開いて作品に対峙しても向こう側に「何か」がありそうなのに、輪郭さえ見えてこない。

椛田の作品は同時に鏡の様でもある。吸い込まれるように深い色がそのように感じさせるのであろう。見えないものは私たち自身なのかもしれない。コンラッドの「闇の奥」を思い出す。椛田の作品に対峙している私達も作品を通して自分自身の内面世界を見つめているのかもしれない。

全文提供: アートフロントギャラリー


会期: 2011年6月17日(金)-2011年7月10日(土)
会場: アートフロントギャラリー
レセプション: 2011年6月17日(金)18:00~

最終更新 2011年 6月 17日
 

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