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前原冬樹 展:wooden sculpture
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2008年 12月 29日

photo by Keizo KIOKU copyright(c) Fuyuki Maehara / Courtesy of YOKOI FINE ART

前原は一木にこだわり制作を続けてきました。接着剤は使用せず、金属や皮革、陶器部分もすべて一つの木から彫り出され着彩されています。本物と見紛うばかりの作品を目の当たりにした時の感動は、見た者にしか味わうことはできないでしょう。 また、東京藝術大学油絵科出身の前原の作る彩色がほどこされた木彫作品は、やはりどこか絵画的でもあります。例えば、錆びた鉄板の上に干涸びた蟹が載っています。ざらついた質感に見事な錆色、色の抜け落ちた白色の蟹。すべて木でできていると言われれば、思わず触れて確かめたくなることでしょう。日常見慣れたものでありながら目を離すには美しく、惹き付けられるのは、本物とは違う芸術作品としての存在感が放たれているからでしょう。

さて、この蟹、時間の経過によって風化したのか、足がところどころ折れてとれています。しかし、そこには欠けた不完全な形ではなく、むしろ風化さたものの中に残る美としての完成体があります。「自然に朽ちていく」は前原作品の1つのキーワードです。年季のはいった革ベルト、数十年放置されたカミソリ、誰かが使っていたものなのでしょう。形をそのままに、時代に残され朽ちていくのです。カミソリやハサミというツールは、ファッションを重視したものではなく機能美を追求した結果、長いことその形を変えていません。いわばデザインの最終形です。例え人に忘れられ、置き去りにされても、その形を残すことで誇りを忘れないということなのかもしれません。それは、世間とは距離を置き制作を続ける作家自身の姿なのかもしれません。日々流行に振り回される現代への皮肉ともとれますが、前原自身はそのことを意識しているかどうかも分からないところで日々制作に明け暮れています。なぜなら、前原自身は「自分の作品に意味付けはしたくない。作品を見た一人一人が感じること、その一つ一つが答えだ。」と考えているからです。

※全文提供: YOKOI FINE ART

最終更新 2009年 1月 17日
 

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